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第6幕 その2

 ミンミンジージーと蝉は今日も儚い生をSEKAIに響かせている。入道雲がいかにも夏らしい。


 折り畳み式の自転車を急いで組み立てると俺は立ちこぎでJR浜松駅へ。その間も通話は続いている。


『あ、アクト映ったよ! 一瞬!』


 メメ子が叫ぶ。


 アクト――アクトタワー。浜松市のシンボル。地上四十五階の高層ビルだ。ビル自体はJR浜松駅北口のすぐ傍にある。


『浜松市周辺だね』


 ポンちゅ~さんが冷静に分析する。そうだ。あのバカでかい建物が見えるってことは恐らく七氏を助けに行ける範囲にいるってことだ。


『アクトの角度は!?』


 チャリで爆走しながら俺も叫ぶ。


『えっとー……また映ったよー!』


『ねぇねぇあれ線路じゃないぃ?』


 普段ぽわぽわしてるのに鋭い凜々花ネキ。待てよ、線路ってことは――。


『線路どっちに見えた!? アクトとの位置関係!』


 冷静にとは思っていたがつい声が荒ぶる。線路が見えたなら方角が特定できるかもしれない。


『左ー』『左だよねぇ』『左だね』三人の声が重なる。


 みんなイイ感じだ。


『線路が左、アクトが右に見えたでおけ!?』


『おっけー』『おけぇ』


『そうか、方角が解るんだね。グーグル漁るよん』


 シャブでもすでに決めてるのか、単に真面目モードなのかポンちゅ~さんが察して動いてくれる。


『はえぇ賢いねぇポンちゅ~さん』


『凜々花さんのおかげ』


 ようやく駅近くの駐輪場にたどり着く。ハァハァ……口に血のさびた味が混ざっている。自転車の鍵もそのまま乗り捨てて駅に向かって走る。


『えっと……今駅の駐輪場。マック行く』


『うん! ありがとー』


『ポンちゅ~さんどうかなぁ?』


 待ちきれなかったという雰囲気で凜々花ネキ。


『駅の北東方向だね』


 そう、ローカル線路はJR浜松駅から東西に走っている。つまりそれが左手に見え、アクトタワーが右手に見えるとなると、線路以北かつ駅の北東方面にいるのが確定する。


『……あとは……なんかありそう?』


 走りながら汗をぬぐいつつ聞く。


『今ね、グーグルアースでさっき見えたアクトタワーの大きさに合うとこ探してる』


 マジか。賢い。頼れるポン中だ。


 バッテリー節約で閉じていた配信サイトを開くと、女の子が何か喋っている。呂律が回っていない。行動が予測できなさそうだ。パキってすぐにでも飛び降りるかもしれないし、体が重くて動けないのかもしれない。


 コメント欄は……無視した。


 俺たちか警察か他の誰かか、間に合うことを思わず祈る。


「ここだよー」 


 駅構内のマックの客席で手を振るメメ子と合流した。コーラだよーと差し出されたのをストローと蓋を取って一気飲み。


「ふー」


 喉で炭酸が弾けるのを感じながら状況を再確認する。


 現在の七氏の状況は、浜松市を東西に横切る線路の以北かつ、JR浜松駅の以東ということになる。まとめれば駅の北東にいる。


「ねぇねぇ」


 グルチャから凜々花が割り込む。


「コミュにさっきのアクトと駅の画像貼ったよぉ」


「――!? そうか! ネキナイス!」


 そうだ。なぜ忘れていた。コメ欄を見て焦っているな俺は。


 ODコミュの人数は現在二千百人を超えたところだ。コミュ内に浜松市在住のメンバーがいる可能性はある。


 ワンチャンだが打てる手は打つべきだ。


 それにコミュ内なら冷やかしのようなツイートが付かない。


「おおー」


 メメ子が感嘆の声を漏らす。


「ふっふっふぅ」


 まだコンサータは効いていないと思うが、凜々花のテンションも切れも今日は最高じゃないか。やりますねえ。


「メメ子ちゃんと青ちゅ~くんさ」


「ポンちゅ~さん何ー?」


「さっき映ったアクトの大きさや角度に似たのをググって見比べてるんだけど、駅から一キロ以上離れてるでいいと思う」


「マジか!?」


 思わず声が高まる。


「これ見てみなよ」


 グルチャにさっきの配信の画像とグーグルアースの画像がアップされる。


 なるほど見比べると配信の画像のアクトタワーの方が小さい。


「これが1キロの辺りってことでおけ?」


「正解」


「俺はタクシーでひとまず北東へ少し行くがベターだと思うけど」


「おっけー」「おっけぇ」「異議なし」


 満場一致。


 一呼吸おいて汗を拭き深呼吸して覚悟を決める。


 視界の端ではメメ子もよっしゃーと気合を入れていた。


「行くか!」


 駅北のタクシー乗り場へメメ子と小走りで向かう。


 蝉さんは相変わらずだ。完全に静止したような熱気が全身に纏わりつく。


 手持ちは現金一万三千円と電子マネーが一万弱――大丈夫だ。金は足りる。


 ドアを開けたタクシーにメメ子が素早く乗り込むのに続く。


「助けて下さい! 友達が近くで自殺配信してるんです! お願い! 助けて下さい!」


 運転手のどこへ? の声を待たずにメメ子が叫んだ。


「――お金! 現金一万と電子マネーが一万あります!」


 俺も間を開けずに現金を手に握って見せる。


「おおなんだい、にーちゃんねーちゃん! 自殺だって?」


 驚いているのか少し間の抜けた調子で運ちゃんが言う。


「そうなんです! 友達が! どっか……えっと浜松駅の北東のどっかにいるのはわかってるんです!」


「こ、これ見て下さい! この角度と大きさのアクトがあるところです!」


 スマホを防犯プラスチックに押し付けるように見せた。


「こりゃ……ふむ」


 しげしげと画像を見やりながら運ちゃんは日指に手をやって少し黙考した。


 糞っ。駄目か。他のタクシーは――つい振り返ったその時、


「タダで良い! おちゃんにまかせな! 個人タクシーだからな!!」


「「ありがとうございます!!」」


 声が重なった。


 スマホから凜々花とポンちゅ~さんもお礼をしている。


「シートベルトしてな」


 今グルチャで通話しながら配信を見て七氏の場所を探っていることを説明した。


 オーケーオーケーと言いながら、おっちゃんは無線を手に取ると何か喋った。


 仲間内に連絡してくれているのか――!


 大丈夫だ。これなら行ける。


 タクシーが静かに動き出す。

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