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第4幕 その1

 穏やかな呼吸になったメメ子と離れて帰宅する。メメ子は色んなツテを当たってデス子の墓を探すらしい。


 七月も終盤、夕日が美しくなってきた。だが反射する熱は全身に絡みつくようだ。

 リスカ痕がまだジンジンと痛む。何だかデス子が叫んでいるようだった。


 自販機は高いので駅地下のスーパーに寄ってウィルキンソンの炭酸水を買う。最初は苦手だったが最近では無味の炭酸水がお気に入りなのだ。


「ただいま、父さん」


 仏壇に線香をあげる。ついでに帰りに買ってきたガリガリ君を供える。家の供養の仕方は割と自由だった。

 デス子の死に悲しみとほんの少しの喜びを添えて。手を合わせている内にガリガリ君が溶け出しているのが袋越しにもわかった。


 しかし少し片づけたのにすごい汚部屋だ。物に溢れているのにブロンやレスタミンの瓶、薬のシートと空っぽな品ばかりだった。


 それらはがらんどうな俺そのものだった。

 自己批判に嘆息して寝っ転がってXを見ることにする。


 そういえばオリンピックか。夏の風物詩、季語にもありそうだがあいにく興味がなかった。


 ニュースをスクロールしていく。


 次に目に留まったのは「弥助問題」だった。人気ゲームシリーズのアサシンクリードの新作の舞台が日本で前々から期待されていた今作。

 トレーラーの蓋を開けてみれば春に柿、神社で線香、アサシンゲームなのに黒人のサムライを操作できるなどゲーマーとしてはこれはクソゲー、バカゲーのノリで期待していたのだが。

 現状はポリコレやら歴史的観点やらインテリの言葉遊びになっているような感じで遠ざかっていた話題だ。元寇を舞台にし別な海外会社から日本へのラブレターだったゲーム、ゴーストオブツシマ。アサクリシャドウズはさながら不幸の手紙なのだった。


 ――と、あるツイートが目に留まる。確かいつもいいねくれる人だったような。何やら長文だ。


 おかあさんへ

 ティッシュ一枚を無駄遣いしたくないあなたの倹約に付き合わされて私は余計泣き虫になりました

 真夏の屋根裏に閉じ込められた時脱水でおしっこ飲みながら床にうんち漏らしてごめんなさい

 お皿を洗う時のスポンジの角度を間違えてあなたに茶碗を投げさせてしまってごめんなさい

 ストレスの下痢を出す音がいつも汚くてごめんなさい もう出なくなりますから最後のお片付けだけお願いします

 私が障碍者になりたいと言ったらしいから障碍者にしてくれたみたいで、ありがとうございました

 毎日のお小遣い150円をありがとうございました。ジュースが買えて嬉しかったです

 用があって鋏を持ったまま立った時、お母さんは私に鋏で刺されると思ったのか警察を呼んで外に逃げて、私は犯罪者の入る精神科に強制連行されて何か月も反省しました。もう許してください友達へのDMを見て、代わりに返信してくれてありがとうございました。友達は優しいからそのことに触れませんでした

 食事の時間は説教が多く喧嘩もあって苦手で、食の楽しみは消えてしまいましたが、彼氏と出会ってからは本当に食事も家事も掃除も楽しいことなんだと気づかせてもらいました。お母さんのおかげです・

 水を一滴台所の外にこぼした日は水分が取れずトイレにもいかせてもらえず、水の大切さを知りました

 私の部屋の鞄やゴミ袋を漁って中身を並べ、一つずつ尋問する時の重い愛は忘れられません。

 私の仕事先に訪問して上司と何か話したあと、私はその仕事をクビになりました。

 自殺未遂を起こした時にテレビを見て笑っていたこと、私の夢を語ったときに吹き出したこと、忘れられません。笑顔が素敵でした。

 予定変更や失敗はは「うそつき」だと知ることができました。

 使用済みの生理用品をひらいて、血が少ないからまだ使えると言いましたね。そうね。

 たまには自分で自由に外に出かけたかったです。全て送迎で、外で起きた出来事を全て報告するのは疲れます。

 私の部屋の監視カメラ勝手に消してごめんなさい

 言いたいこといっぱいあるけどお母さん大好き

 来世もお母さんの子がいいです

 私以外の子が来世のお母さんの子になったら私は苦しいです

 おせわになりました

 最後に抱きしめて話を聞いてこっちを見て欲しかったです

 さようなら ありがとう

 大好き またね

(実際のXのツイートより引用)


 涙が止まらなかった。創作なのかもしれないがそれでも悲しかった。


 左手の傷がジンジンと痛む。悲鳴のように。

 親に呪われた子供。最後には殺されてしまった。

 もしかしたらその親も呪われた子共だったのかもしれない。

 親に呪われた子供が呪縛を解き放つ方法、それは子供を殺さない親になることが一つの答えだろう。


 しかし俺の現実は――


 ――して――くれないの?


 ふと何か声がした。幻聴か? たまにあるがストレスのせいだろう。殊にこんな場合に限っては。


 涙を拭いてデパスを飲み込んだ。デパスとは相性が良くないが耐えられずメジコンのジェネリック、フデコーを八十tをドープする。


 さすがに一度に飲むには多すぎるので四十tを二回に分けて一時間後追加する予定だ。


 悲しみに耐えきれないが涙には浸りたいような変な気分だ。


 この世の全てを何も知らず

 ガキが笑う ガキが笑う

 この世の全てを何も知らず

 行方知れず

 アイツ姿くらまし


 こんな時はZazenBoysの向井秀徳の声が脳内に響きがちだ。


 せっかくだと久々に聴いてみることにする。結局デス子と音楽の話もしていなかった。


 冷凍都市――今の世は冷笑都市でもある気がした。


 最近はすっかり言わなくなってしまった「アイツ姿くらまし」。


 アイツとはなんだろう? 過去の自分、或いはありえた未来の自分だろうか。

 どっちにしろ自分探しってことなのだろう。自分探しは終わったかい? むったん?


 俺は散らばったままだ。

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