表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/27

第3幕 その1

 デス子が死んだ。飛び降りだった。


 どうにか泣き止んだメメ子にすぐ行くからと言って、最初に会った新浜松駅のH&Mの店裏を指定した。


 慌てて机の上のカフェイン剤、エスタロンモカの飲みかけのシートを手に取り全部飲み干す。


 ついでにリポビタンDスーパーを一本一気に飲んだ。


 汗拭きシートで乱暴に顔を拭くと手早く荷物をまとめて急いで家を出た。


 蝉の大合唱に顔をしかめる。圧倒的なその生の主張にうんざりする。


 時計を見やればいつの間にか丸二日経っている。サイレースでそんなに寝たのか。とにかく急ぐ。


 死んだ? デス子が?


 飛び降り? いつ? どこで?


 自殺少女――。


 小走りの中脳裏にどこかのビル屋上にいるデス子が浮かぶ。


 ゆっくりと縁へ歩いていく。止まる。体が傾き両足が地を離れる。


 そして真っ逆さまに落下していくデス子。


 極大まで引き延ばされた一瞬が過ぎ頭が地面に触れる。


 頭蓋骨が砕ける音が聞こえたような気がした。


 ――気付いた。


 足を止めて歩道に立ち尽くす。


 デス子は自分の顔を潰したかったんじゃないか――


 早まっていた鼓動がさらに加速した。


 整形したがっていた。


 部屋の化粧台の鏡は布で覆われていた。


「黙れクソブス――」


「――ブスが子供産んでんじゃねえよ!」 


「ブス」「ブス」「ブス」 


 フラッシュ暗算のように生きていた頃のデス子の声が反響した。


 全てがすべてそれを物語っているように思えてならない。


 ――この気付きは真を射ている……糞が何で気付いた。


 落ち着け、俺。


 常時携帯の安定剤のデパスをかみ砕いてドープする。


 甘い糖衣錠にすらイラつく。


 少しでいい。落ち着け、俺。


 自己暗示をかけていく。


 うるさい蝉の声がスーッと遠のく。


 さらに深呼吸をして足早に歩き出す。


 


 遠めにH&Mとメメ子らしき影が見えた。座っている。


 近づくにつれて悲壮な表情が露になった。


 目が合う。顔中真っ赤だ。メメ子はそのまま声もなく項垂れた。


「――遅い、よ……」


 何も言えるわけがなかった。黙して立ち尽くす。


 この数メートルの距離が途方もなく遠く感じた。


「……死んじゃった……きっとぐちゃぐちゃなんだ……」


 メメ子の両頬を涙が伝った。真昼間に外で少女が泣いているのに誰も気付かない。ヤリモクすら近付いてこない。


「あたしが……あたしが……」


 声を詰まらせるメメ子。無力な俺。と。蝉。


「あたしが一人で勝手に死のうとしたからだ。きっときっと……」


 ……やはりデス子は……知らなかったのか。


 メメ子がゆっくりと自分を罰するかのように呟く。その瞳は虚ろで何も捉えていない。


「親友だったのに……だから、だから……」


 沈黙が訪れた。再び蝉の合唱がSEKAIを支配する。


 意を決して聞く。


「話――」


「話してない!!」


 カッと目を見開いてメメ子が叫んだ。


「……だから、だから……きっときっと……いらないのは!!」


 何度目かの沈黙。


「……ねえ……デス子の、苦しいのとか……悲しいのとか、全部みんな終わったよね……?」


 すがるようにようやく俺の瞳をとらえて言った。


 何で彼女だけに任せてしまったのだろう。どうすれば良かったのだろう。


 デス子は死んで全ては終わった。


「終わったよ……たぶんきっと」


「桃て――楽しいのも、美味しいのも。――でも終わっだっ……よっ……ね?」


 かすれた涙声が痛々しい。


「ああ、終わったよ……」


「――じゃ、ダメ、か……な……」


 蝉の声に紛れて聞こえない。思わず、一歩近づく。


「ねえ、堂島さん……喜んじゃ、ダメ、かな」


「――死んだ、ことを……」


「だって全部みんな終わったんだよ……アイツは許せないし絶対。絶対デス子も……絶望のまま、うっ……死ん、だと思う。ちょっとだけ……少しだけ、好きな時もあって……――子供なんだもん!」


 メメ子が勢いよく立ち上がる。呼吸が荒い。


「そりゃ好きな時だって――子供、なんだよ……」


「――そう……だね」


「だから! 待ってわかんない! 待って……」


「……わかった」


 静止した大気の中、蝉とメメ子の呼吸音が響く。


 頭を抱え祈るようにもがくメメ子。呼吸が徐々に穏やかになっていく。


 頭を抱えながらもメメ子が言った。


「――全部終わったから……だから! だからっねっ……」


 また泣き出してしまう。それでもメメ子は続ける。


「辛いの終わったって……良かったって!! 悲じ、しぃ……けど!! 泣いちゃう……けど――」


「――良かったって……良かったねって、言ってっ!!! ……あげたい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ