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第2幕 その2

 七月十六日、火曜日。


 何か夢を見ていた気がする。子供時代だったような……想像を巡らせてみたが成功しなかったので煙草でも吸うことにする。


 とりあえず今日は鬱も大したことはない。


 まだ朝の七時過ぎか。カーテンを閉め切ってクーラーは自動にしてあるからぱっと見ではわからない。


 朝のルーティンをこなす傍らスピーカーを繋ぐ。


 何となく今日はYouTubeの気分でアプリを起動しトップに上がっているミックスリストを再生。


 一曲目はGuruConnectのParisDakarRace feat.K-BOMBだった。


 その土砂降りのような音を浴びながらチラリとカーテンを覗く――糞ったれなくらいサイレース色な青空だった。


 


 ――雨が降る 雨が降る 雨が降ったっていいじゃねえか


 真夏日、薄暗い密室、土砂降りの音楽――雨がふったっていいじゃねえか――現在の状況に何となく自嘲気味に煙草を吸い終えると風呂に入ることにした。


 『海行こー。十六日の十四時にJR浜松駅北口ねー』


 あくびをかみしめつつ服を脱ぎながらメメ子からの連絡を再確認する。寝坊はなさそうだ。


 しっかし唐突な子だなと思ってもう一人を思い出す。デス子だ。今日は来るのだろうか。聞いてみるか。


『来るよー! なんで?』


 その質問に『ガリガリ君』とだけ返し既読が付くのを確認した。


 リアクションでハートマークが飛んでくる。今日はミカン味買ってみようか。


 JR浜松駅のトイレで用を済ませるとコンビニによりそのまま駅北口へ。北口にはバスターミナルが連なっているが、人は一度地下まで降りて昇らなければならない。


 海というわけで何となく予想がつく。バスで中田島砂丘まで行くんだろうな。


 中田島砂丘は浜松市南区にある砂丘で、東京ドーム十個分の広さらしい。


 今日から夏休みの子供も多いのか十三時五十分過ぎ現在、ちらほらと見かける。そういえばメメ子もデス子も学校はどうしているのか聞いていない。メメ子は話してる感じ高校中退で高卒認定を取りたがっているようだったが。


「やっほー」


 いた。北口の右手、地下へ下りる階段の手すり付近にメメ子とデス子。


 あいさつもそこそこにコンビニ袋をブンブン見せつけるように回してみる。


 メメ子の目がきらーんと猫のように光った気がした。


 と思えばもうすでに袋を取られている。


「え?」


「ミカン味だ―デス子ー食べて――ありがとー一口あげるよー。んー? ワイちゃん空手有段ー」


「ええ?」


 そんなに驚くことと怪訝なまなざしでメメ子が尋ねてくる。いやでも首吊りの時壮大にひっくり返ってたじゃん。なんか驚かされてばかりだな。


「んまー。ねー?」


 デス子も笑い返した。幸先は良さそうだ。


「でさ、海ってどこ行くん? 砂丘?」


 俺もガリガリ君をガリガリして問う。


「あたりー」


「バスか。平気なん?」


「苦手だけどデス子ちゃんいますからー」


 ねーとまた笑いかけるメメ子。


 ――デス子は首吊りのことをもう知っているのだろうか。


 嫌な思考が浮上しかけたのでガリガリ君を一気に食い込んでその頭痛でかき消した。


 バスに揺られていざ砂丘へ。俺は平気なのだが人混み――バスや電車などでパニックになるようなやつも多い。メメ子はちょっと怪しいがデス子が何とかしてくれるなら頼り切ろう。一応安定剤のデパスは自分用も含めて多めに所持している。健全な常習者の義務ってやつだ。


 しかし暑い。何でうちの女子二人組は平気そうなんだろうか。恨み節が湧いてきそうなので思考を切り替えると、


「砂丘久しぶりだな。二人は?」


「春に行ったよねー」


「そうそう」とデス子。少し声を出してくれるようになったかな。


「堂島さん暑さでガリガリ君みたいに溶けそうー」


「それな……」


 メメ子は今日も高気圧だな。デス子は……少し笑っていた。


 バスを降りて少し歩く。風にはもう潮の香りが混ざっている。


 白砂青松というか和風な雰囲気の砂浜といったところだ。


 ちょうど砂の坂になっていて登りきると海岸線が見渡せる。


「うおー砂だー」


「メメ子待って」


 二人が坂道を掛けていく。と思ったらメメ子は早々に諦めて裸足になっていた。


 苦笑しつつ俺も靴を脱いで裸足になる。ちょっぴり熱い砂が足の指の間に広がっていく。


「メメ子テンション高すぎ」


 デス子が楽しそうに言う。


「HAHAHAHAHA」


 ジョーカー笑いで返すメメ子。お気に入りっぽかった。そのまま一気に坂を駆け上がると海をおおと眺め出した。


 俺はバスターミナルで買ったポカリをゴクゴク飲み干す。ゴミは持って帰りましょう。


 ヘロヘロで坂の上までたどり着く。坂の上の雲は掴めなかったよねとシニカルに太陽と雲を仰いだ。


 鼻腔に潮の香りが充満している。ふとカミュの異邦人の太陽て何の象徴だったんだろうとなぜか頭に浮かんだ。全うさとか正しさの象徴だろうか――ともあれ、


「――夏、だなぁ」



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