第7話 十五回目の告白なんです
「小春ちゃんって綺麗な肌してるわね。どんな化粧水使ってるの?」
「あっ、これは保湿クリームで……」
俺はまだ神城のことを気安く小春ちゃんとは呼ばないし、確かにその綺麗な肌に目は行くもののどんな化粧品を使っているかと聞こうとは思わない。聞いてもちんぷんかんぷんだからだ。
「それに、貴方の方こそとても髪がサラサラじゃないですか。どういったお手入れをされてるんですか? どんなシャンプーを使ってらっしゃるんですか?」
「え? わ、私? そ、そんな特別ってわけじゃないけど……」
そう。
ここにいるのは、俺と神城だけではなく。
できたてホヤホヤのお熱いカップルの初めてのデートに混ざり込んでいる異物が存在している。
「おい」
「それにそのリボン、とても可愛らしいではないですか。黒色がお好きなんですか?」
「ま、まぁそうね。黒がよく似合うって言われたから。小春ちゃんのリボンもよく似合ってるわ」
俺と神城というアツアツなカップルの間に挟まる不届き者がいる。
「おい、ボリノ」
俺がそう呼ぶと、出会ったばかりの小春と親しげに話していたボリノが不満そうな面持ちで俺の方を向いた。
「あら、何かしらツバル君。今良い感じに小春ちゃんとのお話が盛り上がってきたところなのに」
「なんでお前がここにいるんだよ」
そう、何故かボリノこと幟琴乃が当たり前のように神城の隣に座って紅◯花伝を飲んでいるのだ。しれっとカルボナーラまで注文していたし。
「なんでって、ツバル君が変なことをしでかさないか見張るためじゃない」
確かに、神城が俺に告白し、そのまま俺が快諾した場面にボリノも居合わせていた。だが、普通ならそこで俺達に気を遣って帰るところなのに、なんとボリノは俺達についてきたのだ。このファミレスに入るときもニッコニコで「三人です」って言っていたし。
「いや、どう考えてもおかしいだろこの状況」
「何か問題でも?」
「ボリノがいると色々とややこしくなるだろ」
「色々って、それどういう意味? まさか交際初日にして小春ちゃんと何か過ちを犯してしまうかもしれないっていう意味?」
「そういうことを平然と言うから帰れって言ってるんだ」
神城も人が良いからか勝手についてきたボリノの存在を受け入れてしまっているし、苦笑いしながら俺とボリノのやり取りを見ていた。
「でもツバル君が不安に思うのもしょうがないことかもしれないわね。だって私が小春ちゃんを奪ってしまうかもしれないものね」
「えっ、ええぇっ!?」
「だって小春ちゃんったらこんなに可愛いじゃない。ツバル君には勿体ないわ」
と、ボリノは隣に座る神城を抱きしめた。突然だったからか神城は顔を真っ赤にしているが、そんな神城の反応を見てボリノは無邪気に笑ってみせる。
何だコイツ、怖い。俺をからかいたいがためにここに来たのか?
「ボリノ、今すぐ神城から離れろ。お前の変なフェロモンで神城を惑わせようとするな」
ボリノは俺に対しての当たりは強いが基本誰にでも優しい奴だから、それを勘違いして彼女にアタックしては撃沈する野郎共の噂を何度も聞いてきた。しかし、この高校生活でボリノに彼氏とか彼女がいるだなんて噂は聞いたことがないが、まさかコイツは本気で神城を狙っているのか……?
「でも考えてもみなさいツバル君。私がここにいることによって生まれるのはデメリットばかりではないの」
「デメリットがあるって自覚してるならさっさと帰ってくれ」
「私だってアツアツなカップルの幸せなひとときを邪魔したくなんてないわ。でもね、校門前であんなじれったいやり取りを見せられたら私だって心配してお節介ぐらい焼きたくなるわよ」
……それに関しては悔しいことにぐぅの音も出ない。
実際、神城に告白された直後の俺のキョドり方はとても人に見せられるものではないし、神城に幻滅されてもおかしくないレベルだった。あぁ、今思い出すだけでも恥ずかしくなってくる。日本語らしい日本語を話すことが出来ていなかったし、完全に童貞丸出しだった。
だからまぁ、最悪ボリノというサポート役がどうにかしてくれるという安心感もあって、ファミレスに来てからは神城と結構話せるようにはなったから、ボリノの存在は役に立っているのかもしれない。
だとしても、この状況はやっぱりおかしいと思うが。神城も気まずいだろうに。
「ま、ツバル君がリハジョの子に手を出して両校間に変な問題を生み出さないかっていう心配の方が大きいけど。今のところは大丈夫みたいだし、カルボナーラだけ食べたら帰るわ」
ボリノはそう言って、配膳ロボットが届けてきてくれたカルボナーラを受け取って黙々と食べ始めたのだった。
「気をつけろよ神城。ボリノはな、一見するとまともな美人に見えるかもしれないが、その実はクレイジーな美人だからな」
「びっ、美人美人うるさいわね」
「で、でもっ、本当にお美しい方だと思いますっ。私なんかじゃ敵わないぐらい……」
「いや、そんな謙遜しなくても神城は十分に可愛いからな?」
「かっ、可愛い、ですか?」
「あぁ」
自分から口に出しておきながら急に恥ずかしくなってきたため、俺はピザをモグモグと頬張って誤魔化そうとする。しかし、対面に座る神城が自分の頬に手を当てながらわかりやすく赤面してくれるので余計に顔が熱くなってきてしまう。
そんな俺達を呆れた顔で眺めながら、ボリノが一言。
「反吐が出そうだわ」
じゃあさっさと帰れよ部外者め。
「ツバル君って女の子に対して平気でそんなこと言うタイプだったのね。私にはそんなこと全然言ってくれないのに」
「いや、どうして俺がお前にそんなことを言わないといけないんだよ」
「あら、良いのかしら。今日の放課後のことを小春ちゃんにバラしても良いのだけど?」
「放課後? 放課後に何かあったんですか?」
「えぇそうね。ツバル君ったらね、私の──」
「ボリノ、お前は神城には到底及ばないが可愛い方だと思うぞ」
「ま、まぁ、及第点にしてあげるわ」
何が及第点だこの野郎。
まったく、コイツに弱みを握られるとろくなことにならない。見た目とか雰囲気の可愛さでいえばボリノだって神城に引けを取らないぐらいなのに、態度がこれだと台無しだ。
俺が呆れて溜息をついていると、神城は俺達のことを微笑ましそうに眺めながら口を開く。
「仲が良いんですね、お二人共」
「えっ? あぁいや、ボリノとは高校から一緒になって、生徒会長と副会長っていうだけの関係だからな!?」
「そうやって慌てて弁明するとますます怪しいわよ、ツバル君」
「お前の存在が話をややこしくしてるんだろうが! 話をかき回すんじゃない!」
畜生、ボリノといるとどうしても彼女のペースに乗せられてしまう。これではせっかく出来た彼女に失礼だ。
もしかして俺は何らかの試練を与えられているのだろうか? にしても特殊過ぎないか?
「でもね小春ちゃん。例え私が告白したとしても、ツバル君はOKしてくれなかったと思うわ」
「そ、そうなんですか?」
「勿論断る」
「も、勿体ないように思えますけど……」
ここまでのボリノの奇行を見ててよくそんな感想を言えるな、神城。
「ま、まぁ、俺はまだ神城のことはあまり知らないけど、俺は神城から告白されてかなり嬉しかったからな?」
「ど、どのくらいですか?」
「えぇ? そりゃあ、まぁ……」
「腰砕けになっちゃうぐらいね」
「お前は黙ってろ。まぁ、人生で一番嬉しい出来事だった」
俺の答えがお気に召してくれたのか、神城はとても嬉しそうに笑っていた。
今朝もそうだったが、神城は感情の抑揚が表情に出やすいから見ていて飽きが来ないし、もっと喜ばせたくなってくる。ボリノにもこのぐらいの可愛げがあればよかったのになぁ。
なんて思っていると、ニコニコと笑っていた神城の表情に、ふと陰りが見えたような気がした。どうして表情を曇らせたのかと気になったが、いつの間にかドリアを完食していたらしい神城は再び笑顔を作って口を開く。
「私、勇気を出して告白して良かったです。そんなに喜んでいただけるだなんて」
「神城から告白されて喜ばない奴なんていないと思うがな」
「でも、結構怖かったんですよ? 私が昴さんに告白するの、十五回目ですからね」
……ん?
俺は自分の耳を疑った。神城の口からよくわからない言葉が発せられたような気がしたので、念の為確かめてみる。
「え? じゅ、十五回目?」
「はい。十五回目です」
「……えぇ?」
神城の口からサラッと言い放たれた言葉に、俺とボリノは思わず互いの目を見合わせる。
神城が俺に告白したの、じゅ、十五回目?
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