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偶然助けた美少女に「貴方に告白するのは十五回目ですっ」と言われても、俺は過去の十四回を知らない  作者: 紐育静
第2章『十六回目の告白』

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第53話 憧れていたシチュエーション



 『うわー、まだめっちゃ熱あるじゃん。なんで病院行かなかったの?』


 体温計を確認した姉貴がそんな驚きの声を上げる。


 『だって、母さん達忙しそうだったし……』

 『忙しそうも何も、こういう時ぐらいはあのワーカホリックだって仕事休んで子どもを病院にぐらい行かせるわよ。昴はお母さん達に気を遣ったつもりなのかもしれないけど、それで昴の体調が悪くなったらお母さん達悲しむわよ』

 『うぅん……』


 両親ともに忙しそうだったのが半分、病院に行くのが嫌だったのが半分。長い時間待たされた挙げ句、打たれたくもない注射を打ち込まれて、しまいには飲みたくもない苦い薬を飲まされるという苦行を味わいたくなかったというのが半分。


 結果的に、午前中の記憶が全然無いぐらいに苦しむ羽目になったが……高校から帰ってきたばかりの姉貴は、俺の氷枕を入れ替えながら言う。


 『もしかしたら悪い病気かもしれないんだから、休む時はちゃんと休んで、頼る時にはちゃんと頼らないとダメよ。まだ病院開いてるし私が連れて行ってあげようか?』

 『いや、大分マシになってきたから寝てれば治ると思う。ただの風邪だと思うし……』

 『そう? 一応お薬買ってきたから飲んでおきなさい。どこか体に異変を感じたらすぐに言ってね』

 『うぅん……』


 朝よりかは熱が下がったとはいえまだまだ体がしんどくて俺は寝込みっぱなしだったが、姉貴は俺が寝ているベッドの脇に座って、そして俺の手を掴む。


 『姉貴、風邪引くぞ……姉貴はバカじゃないんだから』

 『じゃあ昴はバカじゃないの?』

 『俺はそんなバカじゃない……』


 俺がちょっとだけ反抗すると、そんな小生意気な弟の姿を見て姉貴はクスッと笑った。


 『私は昴より体が丈夫だから平気よ。ほら、うつせるものならうつしてみなさい。うつした方が楽になるわよ』

 『おえー』

 『ふふっ。昴もまだまだね』


 一人で寝ていた時は熱や寒気もあって倦怠感も酷くて本当に辛くてしょうがなかったが、こうして姉貴と一緒にいるだけで、姉貴とお喋りしているだけで、姉貴が俺の手を握ってくれているだけで、そういった症状が和らぐような気がしていた。


 『姉貴……』

 『どうかした?』

 『もっと、手、ギュッとして……』

 『ふふっ、昴もまだまだお子様ね』

 『俺はお子様じゃない……』

 『はいはい』


 なんて言いつつ、姉貴はとても満足げな様子で俺の頬を優しく撫でるのであった。


 姉貴の看病のおかげか俺も翌日には学校に行けるぐらいに回復し、体が丈夫だと豪語していた姉貴が本当に風邪を引かなかったというのは、また別のお話……。



 ◇◇◇



 「夢を、見ていました」


 朝、体調を崩して俺の部屋で休むことになった小春はそのまま眠ってしまったが、二時間ほど経ってから目を覚ました。心なしか顔色が良くなったように見える。


 「どんな夢を見ていたんだ?」

 「昴さんが、お姉さんに看病してもらっている夢を……」


 どんな夢だ、と俺は苦笑する。俺が姉貴に看病してもらったのなんて一体何年前の話だろう。俺の部屋で寝ているから小春はそんな夢を見てしまったのかもしれない。


 「具合はどうだ?」

 「あ、はい。大分マシになりました……お昼からなら学校に行けそうです」

 「そうか? でもあまり無理はしない方が良いぞ。別に休んだって……」


 小春が体調を崩した理由は何となく察することが出来たから今日ぐらいは、と俺は思ったのだが、小春は「いいえ」と呟いた。


 「少しでも徳を積んでおかないと、やっぱり怖くって……」


 徳、か。

 昨日、小春がボランティア活動に参加したのは、そういう理由もあったのかもしれない。

 まぁ、そういう下心があるのは神様にはお見通しかもしれないが、そんなことを意識して毎日を過ごすのは苦痛なものだろう。


 「そんな難しいこと考える必要はないだろ。体調を崩してちゃ元も子もない。ただでさえ小春は大変なのに……」

 「いえ……そんなことありませんよ」


 小春はそう言って小さく笑う。


 「私はタイムリープを繰り返している中で、色んなことを想像するんです。昴さんとこういうことが出来たら良いな、と……こうして体調を崩して看病してもらう、というのも憧れのシチュエーションの一つでした」

 「そんなに憧れるものか?」

 「はい。昴さんはいかがですか? 体調を崩してしまった時、彼女……私に看病されるというのは?」


 小春が俺の看病を……。

 

 『昴さんっ、おかゆの用意が出来ましたっ』


 小春が作るおかゆはさぞ美味しいのだろうなぁ……体力が無い時でも食べやすいおかゆを作ってくれそうだ……。


 『ふーっ、ふーっ』


 そして、アツアツのおかゆを食べやすいように息を吹きかけて冷やしてくれて……。

 

 『はい、あーんっ』


 なーんて、めちゃくちゃベタな展開しかイメージ出来ないが、何だか今すぐに体調を崩したくなってきた。そこら辺に丁度いいぐらいに体調を崩せそうな毒キノコは生えていないだろうか。


 「なるほどな。確かにそういうシチュに憧れる理由はわかる……って、もしかして、そんなシチュエーションに憧れてたからわざと風邪を引いたわけじゃないよな?」

 「い、いえ? そそそそそんなことありませんよ?」

 「本当か?」

 「……すみません。あわゆくば、と思ってました」


 小春は申し訳なさそうにそう呟いたが、そんなことを考えてしまう彼女のことが可愛らしかったので、俺は小春の頭をコツンと突いた。


 「でも、俺はやっぱり小春には元気でいてほしいんだ。色々思い悩むことがあるなら、真夜中でも良いから連絡してくれよ」

 「はい……」

 「やっぱり、今日のことが不安だったのか?」

 

 小春は俺の問いに答えずに、俺の部屋の天井をボーッと見つめていた。

 そして、逡巡した様子で彼女は言う。


 「私はどうすれば良いのだろうと、ずっとそんなことばかり考えています……」


 それは、未来を変えることが出来るかもしれないタイムリープの力を手に入れたからこその悩みかもしれない。

 

 「いつも、月曜ってどんな感じなんだ?」

 「これまでは、大体朝は昴さんと一緒に登校して、学校が終わってから二人でデートという流れでした」

 「じゃあ、今日みたいなのは初めてってことか。ならそれでまた何か変わるかもしれないな」

 「そうだと良いのですが……」


 俺は少しでも小春のことを安心させようと思ったのだが、俺の言葉が気休めになるとも思えない。大体、こうして何度もタイムリープを繰り返しているのなら、小春だって色々と試行錯誤を繰り返していたはずだ。それで何も良い結果が生まれなかったのだから、出口があるのかもわからない道を進み続けるのはかなりの苦難だろう。

 事実、小春の表情はまだ暗いままだった。


 「小春……」


 俺は小春の手を握る力を強めた。思えば小春をベッドに寝かせた時からずっと握ってしまっていたが、小春もギュッと握り返してくれている。

 離れないで、と言わんばかりに。


 「あの、昴さん」

 「どうした?」

 

 小春はベッドに横になったまま少し奥の方へ移動すると、少し微笑んで言う。


 「私と、一緒に寝てくれませんか?」


 急にそんなことを言われて俺はドキッとしてしまい、その動揺が顔に出てしまっていたのか、小春はクスクスと笑っていた。


 「何を想像してらっしゃるのですか? ほら、こちらへ」

 「あ、あぁ……よ、横になるだけで良いんだよな?」

 「はい。昴さんの温もりを感じていたいので」


 何だろう。小春の発言一つ一つが何だか意味深に聞こえてきてしまう。

 とはいえ小春のお願いを聞かないわけにもいかず、俺はそ~っと布団の中に潜り込んだ。


 毎晩自分が寝ている安心安全の住処のはずなのに、小春という存在が横にいるだけでどうしてこんなに緊張してしまうのだろう。俺が布団に入ると、小春がそのまま俺の体に抱きついてきたので、その柔らかく温かな体が俺の体に密着する。

 俺はもう気が気じゃなくてしょうがないが、小春は俺の耳元で呟いた。


 「私、昴さんと遠い所に旅行に行ってみたいです」

 「旅行に? どこに行ってみたい?」

 「そうですね……部屋から夕焼けに赤く染まる海を望める温泉旅館でしょうか……」

 「良いな、落ち着けそうな場所だ。露天風呂から海とか星空を眺めるのも良さそうだ」

 「漣が押し寄せる浜辺を二人で歩いたり、美味しいご飯を食べたり……昴さんとゆっくりしたいです……」


 四日間で俺が死んでしまう運命を変えようと大急ぎで動いている小春には、そういう休める時間がなかったのだろう。俺も小春への配慮が足りなかったかもしれない。


 俺達が一緒にいられる時間の猶予が、あとどれだけ残っているのかわからないのだ……。


 「なぁ、小春」

 「なんでしょう?」

 「明日、学校サボろうぜ」

 「えっ、え? ど、どういう意味ですか?」

 「色々大変だったんだし、学校サボってのんびり過ごそうぜ。流石に旅館に泊まるってのは難しいけど、温泉入るぐらいならどうにかなるだろうし」

 「で、でも……」


 小春は根が真面目だろうからどんな経緯であれ学校をサボることに抵抗があるのだろう。勿論俺だってこれまでに学校をサボったことなんてないザ・優等生だ。

 だが、そういう未来を夢見ることも必要だと思う。


 「少しぐらい、楽しい夢を見ようぜ」


 俺がそう言うと、小春は俺の体を抱きしめながら「はい」と呟いたのだった。



 お読みくださってありがとうございますm(_ _)m

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