第48話 隠せぬ嬉しさ恥ずかしさ
「ほんで、さっきのギャルゲの話やけど」
「その話を続けるのか?」
清掃活動が始まり、俺は小春と立川の三人で学校周辺の歩道に落ちているゴミを集めていた。
流石にこういうボランティア活動の時までイチャイチャしているわけにもいかないため小春と二人きりで、とはいかなかったが、小春と仲が良いらしい立川から小春の新しい一面を知られるかと思って楽しみにもしていた。
「あの可愛えぇ後輩ちゃんは幼馴染こそメインヒロインや!って言うてたけど、それっておかしいと思わへん? 大体そういうのって外からやって来た、それこそ転校生で、主人公と過去に何かあったっぽい意味深な雰囲気を醸し出すミステリアスなヒロインが食ってまうもんやない?」
「まぁ言いたいことはわかるっちゃわかるが」
「それに津々見君にとっちゃ春ちゃんこそがメインヒロインなわけやんか」
「まぁメインヒロインも何も、俺には小春一人しかいないがな」
「おぉ~中々言ってくれるやんけ。こりゃー数多のギャルゲ主人公達も真っ青やなぁ、なぁ春ちゃん……」
立川も俺も小春の方を向いたが、さっきまで隣を歩いていた小春は俺達の後ろでいそいそと生け垣の中のゴミを拾っていた。
小春は立川が声をかけても何も反応を見せず、俺達に背を向けて知らんぷりしていた。
「小春?」
「春ちゃん?」
生け垣の中に落ちていた空き缶を拾った小春は、それをゴミ袋の中に入れると今度は顔を俯かせたまま俺達の方へ向かって歩いてくると。
「い、今は清掃活動中なので、ちゃんとゴミ拾いしましょうっ」
と、小春は早口でそう言って俺達の横を通り過ぎてスタスタと前を歩いていく。
「……小春、怒ってるのか?」
今は清掃ボランティアという地域行事に参加中なのだ、一定のコミュニケーションも必要とはいえぺちゃくちゃとお喋りしていた俺と立川の不真面目さに怒ってしまったのだろうか? 真面目そうな小春ならそういうことを気にしそうだが……。
しかし、小春の友人である立川は顎に手を当てながらニヤニヤと笑っていた。
「あるいは、ウチと仲睦まじく喋っとった津々見君にジェラシー妬いとるか……」
俺、そんなに立川と仲よさげに話していただろうか? 立川がフランクに俺に接してくれているからそう見えるだけかもしれないが、だが小春にとっては油断ならない存在なのかもしれない。
と、俺がそんなことを考えていると、俺の横で立川は相変わらずニヤニヤと笑いながら言う。
「せやなぁ~春ちゃんってば津々見君にメチャクチャ怒っとるみたいやから、機嫌戻してもらうためにちゃんと褒めてやらんとなぁ~」
「ほ、褒める?」
「せや、君は彼氏さんなんやから、彼女の機嫌損ねたらあかんで~。ほらほら、君は春ちゃんのどういうところが好きなんや?」
立川の言い方は何やらとてもわざとらしいが、俺とて小春の機嫌は損ねたくないので、彼女の好きなところについて思いつく限り考えてみる。
「まぁ、まずは雰囲気だな」
「ほぉ、雰囲気か。まず見た目とちゃうんか?」
「そりゃ第一印象ってのはそうかもしれないが、いくら見た目が良くても正確の良さ悪さってのはまた別だろ? 顔だけじゃ性格はわからないところもあるし……でだ、小春ってもう凛としたお嬢様オーラがプンプンするだろ? でもなんというか、不思議と人を寄せ付けないオーラとかが無くて、親しみやすい雰囲気があるんだ。勿論、俺と小春の出会いって特殊だった、いや運命的なものだったが、前から駅で小春のことを見かけてからそういうことを思ってたんだ。いつか話しかけられたら良いなぁとか運命的な出会いとかないかなぁとか、そんなことを夢見ていたんだが、あんな出会い方だったとはいえ巡り巡って俺は小春と出会えて────」
立川の前ではタイムリープの件について話すことが出来ないため多少ぼかしながらではあるが、俺は小春への思いを語っていた。勿論、ちゃんとゴミを拾いながら。
「────まぁ俺はおしとやかな小春も恋に夢見がちな小春も意外と照れ屋な小春も好きだが、やっぱりおさげ髪って可愛いなぁって思うんだ。どことなくお清楚な感じがして、そのフワフワしたおさげを触ってみたいなぁってずっと思ってる。あと、やっぱりめっちゃ可愛いよな小春って」
「って、結局見た目の話になっとるやんけ!」
俺は長々と小春の好きなところについて語っていたが、最後は立川にテンプレ的なツッコミを入れられたところで終わった。小春ってちょっとはしゃいだりして体を踊らせるとおさげと白いリボンがぴょんぴょこと跳ねるのが一番可愛いんだよな、うん。
さて、俺がそんな話をしている間も小春は俺達の前を進んでゴミ拾いをしていたのだが……。
「……春ちゃん?」
俺の横を歩いていた立川が春のところまで駆けていって彼女の顔色を伺おうとしたが、小春はプイッと立川から顔を背けた。
そして立川が小春の正面に回り込むとまたプイッとそっぽを向いて、またまた立川が回り込むと小春はまたまたそっぽを向いて……そんな小春の反応を楽しむかのように立川はニヤニヤと笑っていて、彼女はいきなり小春の顔を両手で掴み──。
「てやっ!」
「わ、わわっ!?」
立川は小春の顔を掴んで無理矢理俺の方を向かせた。
そして、俺はそんな小春の顔色を見て驚いた。
「春ちゃんったら津々見君の話を聞いて、恥ずかしくてこんな顔を真っ赤にしとったんやで~。ものごっつかわえぇやんか~」
俺が小春の好きなところを話していた時、彼女は特に何も反応することなく前を歩きながらゴミを拾っていたが、流石にその恥ずかしさや嬉しさを隠すことは出来なかったようで、小春の顔はもう全体がりんごのように真っ赤になってしまっていた。
「そ、そういうのじゃなくて、た、ただ……ほらっ、ゴミ拾いも結構運動になるので、熱くなっただけなんですよ!」
小春は立川によって顔をがっしりと掴まれて俺から顔を逸らせなくなってしまっていて、そんな無理のある弁明しか出来ずにいる。
俺はまだ小春と過ごした時間はそんなに長くないが、これまでに何度もタイムリープを繰り返している小春はそうではない。だがこうして少し褒めただけで小春が顔を真っ赤にしてしまうということは、他の世界ではあまりこういうことを言ってあげられていないのだろうか、俺は……。
そして、小春の可愛らしい反応を見られて満足したらしい立川が彼女の顔を離すと──。
「も、もうっ! は、恥ずかしくなんてないんですからー!」
と、俺に真っ赤な顔を見られたことがそんなにも恥ずかしかったのか、小春は捨て台詞を吐きながらピューッと逃げるように走り去ってしまったのだった。
「ありゃ~逃げられてもうたな~」
「もしかして小春、ガチで怒っちゃったか?」
「いやいや、恥ずかしくなって逃げただけやと思うよ。ものごっつ嬉しかったんやろうな~津々見君に褒められたの。あんなに喜んでくれるんやから、彼氏冥利に尽きるやんか!」
立川はゲラゲラと笑いながらトングで俺の背中をガンガンと叩いた。ゴミを拾うためのトングで俺の背中を叩くな。
「今まで春ちゃんに彼氏さんがいなかったのもびっくりやけど、春ちゃんも結構奥手なところあるからなぁ。さっきみたいな感じで褒めてあげたら春ちゃんもイチコロやで!」
「まぁ、あんな一面を見るのも悪くないな」
「せやろ? よろしくたのんまっせ、彼氏さんっ」
「立川の方こそ、学校ではよろしく頼むぞ、小春のこと」
俺と小春は家の最寄り駅こそ同じだが学校は別々だしそれなりに距離も離れている。だからこそ、小春がタイムリープして俺が死ぬまでの約四日間、その中に丁度土日が挟まっていることはありがたいことだし、こうして本来はこの清掃ボランティアに関係ないはずなのに小春が参加を申し出たのは、少しでも俺と接する時間を増やして、悲劇を回避するための方法を探るためなのだろう。
俺はまだ立川のことをあまり知らないが、それでも彼女が小春の良き友人であることはわかった。だから俺が干渉することの出来ない小春の学校生活の面は立川に任せたかったのだが──。
「……どうやろうなぁ。やっぱりウチじゃ難しいこともあるよ」
さっきまでハキハキと喋っていた立川の声から覇気が失われてしまった。
「どうしてだ? 何かあったのか?」
「あぁいや……津々見君って、春ちゃんのお兄さんの件は知っとる?」
「あぁ。一ヶ月前ぐらいに事故で亡くなったんだろう? 小春を庇って……」
「そう。ウチも春ちゃんのお兄さんにはお世話になっとったからお通夜には行ったんやけど、春ちゃんはもう気味が悪いぐらい平気そうに振る舞っとったんよ。春ちゃんは人に弱い所を見せるのが嫌っていうよりか、人に心配をかけたくなくて強がっちゃうタイプの子やからなぁ。一時休んだらどうって言っても春ちゃんは大丈夫言うてすぐ学校に復帰しとったし……でも、やっぱり今でも時たま暗い顔をすることがあるんよ。この間もな、確か木曜ぐらいやったかな。授業中に突然泣き出したからウチもびっくりして保健室で春ちゃんを寝かせとったし」
「木曜って、俺が小春と朝に駅で会った日だな。午前中のことか?」
「いや、確かお昼過ぎやったけど」
俺が死ぬのは月曜日の午後五時半から六時の間。小春はそこから百時間ほどタイムリープして、木曜日のお昼過ぎ、大体午後二時ぐらいに戻るという。
立川の話から察するに、小春はタイムリープで戻ってきた瞬間に俺が死んだ時の記憶が一気に情報として流れ込んできて、それに耐えきれられなくなって泣き出してしまったのだろうか。事故で亡くなったお兄さんのこともフラッシュバックするだろうから、もう授業どころではないはずだ。
だからこそ、小春のお兄さんの件も知っている立川が小春と同じクラスですぐに対応してくれることがとてもありがたく思えた。
そして、明日はいよいよ運命の一日である。
この世界ではこれまでと違って俺と雫が仲直りを果たしたが、果たしてそれによって俺の運命が変わるかどうかは、その時になってみないとわからない。小春もきっとそう思っているはずだ。
明日は俺にとってもドキドキな一日だが、これまでに何度も俺の死を目の前で見てきあ小春にとっては、とても落ち着かない一日になるだろう。
「なぁ立川。明日の放課後、小春と大切な用事があるんだ。だからなんというか、学校で小春と上手くやっといてくれないか?」
「なんやそのアバウトな注文は。でも春ちゃんのことはウチに任しとき、上手くやっとくから。んで、ちなみにその大切な用事って何なん? もしかしてもう結婚指輪とか準備しとるん?」
「俺の両親も学生結婚してるからな。そういうのも悪くない」
「披露宴は美味くて高級な料理用意しといてな~」
流石に学生結婚をするつもりはないが、いつかの披露宴に立川も呼べるようになったら良いな……。
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