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偶然助けた美少女に「貴方に告白するのは十五回目ですっ」と言われても、俺は過去の十四回を知らない  作者: 紐育静
第2章『十六回目の告白』

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第43話 ぎこちない兄妹



 「お~久しぶりだねー昴君」


 駅に向かうと、先に美優姉さんが出口の側で俺達を待っていた。

 相変わらず、私服は高校の時のジャージのままで、肩に大きなトートバッグを提げている。髪もさらさらで顔立ちも良くて、ちゃんとしていれば美人なのにと姉貴はよく美優姉さんに怒っていたが、着飾ることを知らないのは今も変わりない人である。


 そして美優姉さんは俺の元へ近づいてくると、昔と同じように俺の頭を乱暴に撫でてきた。


 「久しぶりですね。前に酔い潰れてウチの母親に看病されて家に運び込まれてきた時以来ですっけ?」

 「あぁ……あの時はごめんね。仕事で色々あってさぁ……」

 

 美優姉さんはウチの家によく遊びに来ていたから両親とも交流があり、俺の母親が店長をやっているスーパーにもよく買い物に来るらしいから、姉貴が亡くなってからも結構交流がある。


 だから、ウチの複雑な家庭環境もよく知っているわけで。


 「えっと……雫ちゃんも久しぶり! 最近調子はどう? この間のコンクールでもバッチシ金賞取れたらしいじゃん。やっぱ素質あると思ってたよ私は!」

 「それほどでもないよ、まだお姉ちゃん達には敵わないもん」

 「いやいや、とある化け物達のせいで神童という肩書を奪われた私が言うのもなんだけどね、雫ちゃんは絶対音大に行った方が良いって。雫ちゃんが持ってるような才能に恵まれない人達だってたくさんいるんだから、勿体ないよ!」

 「そ、それほどでもないよぉ……」


 美優姉さんは雫の背中をバンバンと力強く叩く。

 ピアニストという道には進めなかったものの、幼い頃の美優姉さんは神童と呼ばれる程のピアノの腕前を持っていたらしい。そんな美優姉さんは俺の姉貴という化け物のせいで神童という肩書を奪われてしまった人だが、今でも週末にはクラブやバーでプチコンサートを開くぐらいにはピアノを楽しんでいる。


 そして、美優姉さんは大学や会社の忙しい合間を縫って、姉貴を亡くした俺や雫に姉代わりとして接してくれていたから、雫もタメ口で話すぐらいには美優姉さんに心を開いている。

 俺はちょっと鬱陶しく思って最近は付き合いが悪くなっていたが……雫と仲直りしたことだし、少しは前に進もうと思ったのだ。


 だが、美優姉さんは俺と雫を前にして首を傾げていた。


 「んー……」

 「どうかしたんですか?」

 「いや、こう言っちゃなんだけどさ。まさか昴君と雫ちゃんが二人揃って来るとは思わなくて。二人ってめちゃんこ仲悪くなかった?」

 

 姉貴が亡くなった後、俺と雫が複雑な関係になったことを美優姉さんは知っていた。美優姉さんもウチの両親と同じように仲直りさせようと尽力してくれていたが、彼女もまた、時間が解決してくれるのを待つしかなかったのだ。


 「まぁ、いつまでも兄妹喧嘩を続けていると姉貴に呪われると思いまして」

 「お姉ちゃん、怒るととっても怖いから」

 「あー、そうなの? 確かに郁ちゃんって化けて出てきそうなところあるけど……なら良かった。二人の仲直り祝いに良いお酒が飲めそうだよ!」


 そう言って美優姉さんは俺と雫の頭を乱暴に撫で回す。この人のスキンシップが手荒いのは昔から変わらないが、何だか安心する。

 思えばこの人にも、たくさん迷惑と心配をかけてしまったものだ……。


 

 「……でさ、あと一つ質問なんだけど」


 そして美優姉さんは俺でも雫でもない、あともう一人の方を向いて言う。


 「えっと、そちらの絶世の美少女はどちらさん?」


 絶世の美少女こと神城小春は、美優姉さんに容姿を褒めてもらえたからか少し照れくさそうに笑いながら口を開いた。


 「さて、一体何者だと思いますか?」


 小春がそんな問いかけをすると、美優姉さんは顎に手を当てて少し悩んでから口を開いた。


 「……わかった。大輔さんの隠し子!」

 

 大輔というのは俺の父親の名前だ。


 「だったら今頃、ウチの母親が三行半突きつけてますよ」

 「お父さんの会社にあるロードローラーでペシャンコにしてるかも」

 「まー、それは流石に冗談だけどさ。知り合いにこんな可愛い子いたっけ?」

 「正解を言うと、俺の彼女です」

 「は?」

 「というわけで、昴さんとお付き合いをさせていただいております、神城小春です」


 小春はそう言って美優姉さんに向かって丁寧に頭を下げた。

 そうやって挨拶されると少しむず痒い気分だが、一方で美優姉さんはというと、口をあんぐりと開いたまま固まってしまっていた。


 「……す、昴君の、か、彼女?」

 「はい」

 「い、いつから付き合ってんの?」

 「一昨日です」

 「一昨日!? アッツアツのホッヤホヤじゃん!?」


 俺は今までに彼女とか作ったことなかったし、そして初めて出来た彼女が小春のような美少女だったら、そりゃ美優姉さんもびっくりするだろう。雫だってびっくりしていたし、ウチの両親と会わせたら一体どうなることやら。


 「昴君……人生にモテ期は一度しか来ないかもしれないんだから、大事にしなよ」

 「勿論です」

 「お兄ちゃんには勿体ないぐらいだけどね。ちょっと変な人だけど」

 「ちょっと変だと思われてたんですか私!?」

 

 普段はおしとやかで清楚な雰囲気だけど、何か勢いで変なことをするところはあるからな、小春は。さっきの仲直りの儀式がその最たる例だ。


 「あとね、小春ちゃんもだよ。私が言うのもなんだけど、昴君は結構上玉だからね。この機を逃すとね、大人になってから色んな男と出会っても、やっぱりあの人が一番良かったなぁなんて比べがちになっちゃうから、もうあらゆる手段を使って昴君の心を射抜いてやりなよ」

 

 最近は晩婚化が進んでいたり、あえてパートナーを作らないという選択をする人もいるが、美優姉さんはそういうのに飢えているタイプの人だ。本人は肉食系なのに誰も寄ってこない。

 そして中々にお辛い社会人生活を送っている美優姉さんのアドバイスを受けた小春はニコニコと微笑みながら答えた。


 「私、昴さんのためならなんでもやりますからっ」

 

 いやなんでもやりますじゃないんだよ、小春さんよ。

 でも、俺のために十六回もタイムリープを繰り返してくれてるんだから、生半可な覚悟ではないな……。


 「あの、美優姉さん。さっき電話で言ってた楽譜は?」

 「あぁそうだったそうだった。はいこれ」


 美優姉さんはトートバッグの中から大きな封筒を取り出して、俺に渡してきた。中を軽く見てみると、確かに姉貴の字で色んなメモ書きが残された楽譜が入っていた。


 「ありがとうございます。でも、本当に良いんですか? 美優姉さんにとっても、姉貴との思い出の品だろうに」

 「郁ちゃんの物だからさ、昴君達が持っていた方が良いと思って。大体ね、郁ちゃんとの思い出はここにあれば十分だから!」

 

 そう言って美優姉さんは自分の胸をドンッと叩く。自慢の胸があるからドンッて言うよりかポヨンッて感じだが。

 


 そして軽く世間話をした後、美優姉さんはじゃ~ね~と別れを告げて去っていった。


 美優姉さんは相変わらずガサツなところもあるが陽気で、そして強い人だ。姉貴が亡くなった時も、通夜でも葬式でも俺達の前で彼女は泣かなかった。

 ただ、あの時の美優姉さんの表情は忘れられない。


 『昴君が助かったところで、アンタが死んでちゃ意味がないでしょうが、バカ……』


 あの時の、美優姉さんの言葉も……。



 ◇◇◇



 時間も丁度良い頃だったし、せっかく仲直りしたのだから兄妹二人の時間を大切にしてくださいと小春は言って、駅で別れることとなった。


 だが小春がいなくなるとやっぱり俺と雫はぎこちなくなった。家に帰ってもあまり言葉を交わすことなく、二人で何かするわけでもなくお互いの部屋で各々の時間を過ごして、そして夕食の時間になってようやく顔を合わせた。


 「……美味しかったね、神城先輩の料理」

 「そうだな」


 軽くうどんを作って二人で食べながら、ぎこちない会話をする。こうやって食事中に言葉を交わすだけでもかなりの進歩のはずなのだが、やはり久々すぎて落ち着かないのである。ダイニングにはテレビがないから、変な静寂がとても気まずく感じられる。


 「なぁ、雫」

 「何?」

 「最近、学校の調子はどうだ?」


 俺がそんな質問をすると、雫はプッと笑い出す。


 「なんだ、何がおかしいんだよ」

 「だって、お父さんみたいなんだもん」

 「仕方ないだろ、親父が言ってることしか思い浮かばないんだし……」


 雫と疎遠になっていた期間があまりにも長過ぎるせいか、兄妹ってどう接するものだったかとわからなくなっていた。このぎこちなさを思うと、小春のあのちょっぴり変なところも助けになってたんだなぁと思う。


 「まぁ、私はあんまり頭良くないけど、友達だって作れてきたし、楽しくやってるよ」

 「そうか。ボリノみたいに講堂でピアノを弾いていれば勝手に人気者になれるから安心しとけ」

 「どうだろ。あまり目立つと妬まれそうだし……」

 「大丈夫だ。あの聖母様を見習っとけば良い」


 ボリノはあぁ見えて結構良いところの出のお嬢様で、成績も良くてピアノもそれなりに上手くて見てくれも良くて皆の人気者である。それは小学校中学校の頃から変わりないらしいが、あまりに人気過ぎてチヤホヤされると彼女のことを妬む人間が出てきたっておかしくない。


 実際、高校生活でもそういう奴をちらほらと見かけてきたが……あのボリノを舐めてはいけない。そうやってボリノを妬んでいる連中ですら、あの聖母様パワーで呑み込んでしまうのだから。俺にはあんなにツンケンしてるくせに。


 「そういえばさ、明日って清掃活動あるんでしょ? 前にボランティアのチラシ見たんだけど、あれって私も参加して良いのかな?」

 「あぁ、別に飛び入りでも良いだろうけど、参加したいのか?」

 「うん。幟先輩とか湊ちゃんもいるし、それに……」

 「それに?」


 何故か雫は言葉を詰まらせてしまったが、ふと俺と目を合わせた後、すぐに目を伏せてから言った。


 「少しでも長く、お兄ちゃんと一緒にいたいから……」


 恥ずかしさを誤魔化すように、雫はうどんを啜った。


 一応、小春がこれまで見てきた色んな世界では成し遂げられなかった雫との仲直りを、ようやく成し遂げたわけだが……だからといって、俺に襲いかかる運命が変わったかどうかは、月曜日になってみないとわからないのだ。


 「大丈夫さ、きっと」


 俺も、その不安が心から取り払われたわけではない。

 だが、これで未来は大きく変わったはずだと、俺は信じたかった。

 


 お読みくださってありがとうございますm(_ _)m

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