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偶然助けた美少女に「貴方に告白するのは十五回目ですっ」と言われても、俺は過去の十四回を知らない  作者: 紐育静
第2章『十六回目の告白』

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第39話 小春とボリノの卵焼き勝負



 我が家の台所にて、テキパキと卵焼きを作っている小春。

 その隣に立って手持ち無沙汰な俺。

 ダイニングで携帯をいじっている雫。

 

 ジュージューと、軽く油のしかれたフライパンに注がれた溶き卵の音が響いているだけの空間。


 なんだろう、このなんとも言えない緊張感は。


 「あの、昴さん」

 「な、なんだ?」

 「せっかくですし、雫さんと二人で待っていてはいかがですか?」


 俺は何となく台所にいるが、小春が卵焼きを作っているのをただ側で見守っているだけだ。何か手伝えたら良いのだが、そんな工程が複雑な料理でもない。


 「……雫と二人きりっていうのは、ちょっとな」


 それが正直な理由だ。俺と雫が同じテーブルを囲むのは両親が一緒にいる時ぐらいだ。あの賑やかな両親がいれば雫と一緒にいても気まずくはないのだが、両親が不在の時は一緒にご飯を食べることなんてない。

 

 「そんなに仲が悪いんですか?」

 「別に喧嘩してるってわけじゃないが、ぶっちゃけもう苦手意識があるって風に感じるんだ。下手すれば一度も会話しない日もあるからな……」

 「そうなんですね……」


 両親も俺と雫の仲をどうにかしようと色々気を利かせてくれているが、こう何年も微妙な関係を続けていると俺も雫も意固地になってしまっているため、俺はこのままで良いと思っている。俺が大学とかに進学して距離を置けばほとぼりも冷めるに違いない。

 問題は、今の俺は物理的に距離を置くのではなく、もう会えなくなるぐらい遠くへ行ってしまう可能性があることだ。


 「小春はお兄さんと喧嘩とかしなかったのか?」

 「そうですね……兄は私に対してはとことん甘かったので、喧嘩という喧嘩はありませんでしたね」

 「そうかぁ。良いお兄さんだなぁ」

 「昴さんも良いお兄さんだと思いますよ?」

 「いや、現状がこれではなぁ」


 小春のお兄さんと直接会ったことはないが、写真で見ても良い人そうに見えたし、仲睦まじい兄妹だったのだろう。

 俺の姉貴は、それはそれはとても良くできた姉だっただろうが、俺は違う。確かに妹がいるから兄でもあるのだが、俺はただの姉貴の弟でしかなかった。



 小春の料理が完成し、俺と小春、そして雫の三人で食卓を囲む。


 「さぁ、どうぞ召し上がってください」

 「いただきます」

 「い、いただきます……」


 母親の作り置きである煮物に、小春が作ってくれた美味しそうな卵焼きが並んでいるのだが、両親が揃っている時以外で雫と食卓を囲むのはかなり久々のことだ。

 小春は俺と雫の感想を楽しみに待ってくれているようだが、果たして俺はこの緊張の中、ちゃんとした感想を言えるだろうか。若干手を震わせながら卵焼きを一切れ掴んで、口に入れる。


 「おぉっ、うまっ」


 俺が思わずそう口に出すと、小春は嬉しそうに微笑んだ。


 「うん、美味しいです」


 そして雫も同じように卵焼きを食べると、小春に対して微笑みながらそう言った。

 雫が笑ったのを久々に見たから俺はちょっとびっくりしてしまう。


 「少し甘めの味付けが好みと聞いてましたので、私の家と大体同じ味付けにしてみました。喜んでいただけて何よりです」

 「あぁ。こんなに美味しいのを毎日食べられたら幸せだろうな」


 俺がそう口にした瞬間、何故か小春は自分の箸をテーブルの上に落とし、雫はジロリと俺の方を見る。

 え? 俺って何か変なこと言った? 別に間違ったことは言ってなくないか?


 「あ、あのっ、昴さんっ!? そ、それはどういう意味で……」

 「え? いや、そのままの意味だが」

 「あ、あうぅ……」


 ……以外とこういうストレートな言葉に弱いのか、小春は真っ赤になってしまった顔を両手で覆って黙り込んでしまった。何だか悶えるように体をうねうねさせている。

 一方で、そんなイチャイチャを目の前で見させられえていた雫は我関せずという風にパクパクと卵焼きを食べ進めていた。


 「まぁ、いずれ社会人になった時、やっぱり色々と仕事で失敗することだってあるかもしれないだろ?」

 「は、はぁ」

 「例えば会社の大事な会議で、自分が会心の出来だと思っていた自信満々のプレゼンが、上司から『それって何の意味があるの?』とか『具体的に何を言いたいの?』とか『それってそんな難しく言う必要ある?』とかクドクドとダメ出しされてテンションだだ下がりな一日もあるだろう」

 「な、何だか具体的な例ですね」

 「気分が落ち込んでそれを一日引きずったまま帰宅して、愛しの彼女が作ってくれたこんなに美味しい卵焼きなんか食べてみろ。きっと涙が止まらないはずだ」

 「そ、そんなにですか?」

 「もし彼女がいなかったら、酒に逃げて発散するしかなくなるんだ……」


 今や俺の両親は方や経営者、方やスーパーの店長という立場にあるが、仕事で色々とやらかしたこともあったらしい。それでもやってこれたのは、お互いに支え合ってこれたからだと、これも愛の力だと胡散臭い話ではあるが……実際に彼女を持つと、あのおしどりバカ夫婦が言っていることも少しはわかってきたような気がする。


 「あと、この煮物も美味しいですね」

 「あぁ、ウチの母親は結構料理にこだわりあるからな。父親も料理は出来るが、なんというか……美味しいは美味しいんだが」

 「お父様もお料理されるんですか?」

 「一応な」


 両親共に忙しくてどっちかが家を空けていることも結構多いから、各々で料理をすることもある。母親は色んなレシピが頭の中に入っているし時短の方法も色々知っているから料理が上手いが、父親はもう自分の感覚を信じて作ってしまうから……。


 「お父さんのは、胃がもたれる……」


 うんざりした表情で雫がそう言うと、色々と察したらしい小春は苦笑いしていた。

 昔から土方やってたから朝からガッツリ食べたいのかもしれないが、朝から二郎系もびっくりのメガ盛りラーメンを食わされるのはキツい。

 昔、姉貴は喜んで完食したのを覚えているが……。



 「私の卵焼きと琴乃さんの卵焼き、どちらの方がお好きですか?」


 昼食後、小春と二人で食器の片付けをしていると、彼女はお皿をすすぎながら問うてきた。


 「勿論、小春の方だ」

 「本当ですか?」

 「あぁ、俺の頭の中では衆参両院を通過した」

 「卵焼き法案が!?」


 ボリノには申し訳ないが、軍配は小春に上がった。もう文句無しというぐらいだ。

 ただ、ボリノの勝ちと言ったら小春がどんな反応をするのかという興味もあったが、そういう遊びや冗談は良くないかと思って胸の内にしまった。


 「でも、私はちょっとずるいことをしちゃいましたね」

 「え? どういうことだ?」

 「ほら、昴さんが食べた琴乃さんの卵焼きはお弁当のおかずではないですか。つまり作りたてではないのです」


 確かにボリノのお弁当に入っていた卵焼きはすっかり冷えていたし、その影響もあったのだろうか。


 「でも、作りたてを食べてもらえるってのは彼女の特権だろ」

 「確かに!」


 今度ボリノに会った時、小春が作った卵焼きの方が美味しかったと伝えたら彼女はどんな反応をするのだろう。いや、考えるだけ無駄だ。友人とはいえ、彼女の前で他の女のことを考えるのはご法度だ。


 小春がこれだけボリノに張り合うのは、ボリノが俺と結構親密な仲だからだろう。同級生や後輩にもとっくのとうに付き合っているものだと勘違いされていたぐらいだし、今までに彼女が見てきた十五回分の世界でもそれは実感できたはずだ。


 ともすれば、今、俺の隣にいたのが小春じゃなくてボリノだった可能性もありえたのだろうか?


 ……そんなことを考えてしまうぐらいには、俺の心の中に存在するボリノの存在は中々に大きいらしい。



 食器の片付けを終えた後、俺と小春はリビングへと向かう。言うて隣の部屋だが、台所を出る時に小春が言う。


 「あの、昴さん。少し雫さんをお借りしても良いですか?」

 「え? あぁ、良いけど……俺は席を外した方が良いか?」

 「そうですね……あぁいえ、別の部屋にいてくだされば良いので、大丈夫です」


 リビングでは雫がソファの上に寝転んで携帯をいじっていたが、小春が来ると姿勢を正した。小春はそんな雫に言う。


 「あの、雫さん。少しよろしいですか?」

 「なんですか?」

 「私に、ピアノを教えていただけませんか?」


 さて。

 小春が打ったこの一手が、果たしてどんな結果になるのやら……。



 お読みくださってありがとうございますm(_ _)m

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