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偶然助けた美少女に「貴方に告白するのは十五回目ですっ」と言われても、俺は過去の十四回を知らない  作者: 紐育静
第2章『十六回目の告白』

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第32話 毎日こんなの食えたら幸せだろうなぁ(他人事)



 卵焼き。オクラの肉巻き。ささみカツ。ほうれん草のおひたし。ミニトマト。ブロッコリー。

 二段弁当のおかずが入った方の蓋を開けると色鮮やかな世界が広がっていて、下の段に詰められたご飯にはゆかりのふりかけがかけられていた。

 そんな世界を目の当たりにした俺は一種の感動を覚えつつも、若干の恐怖も感じていたのだった。


 「……なぁ、ボリノ」

 「な、何? もしかしてトマトとかブロッコリー苦手なの?」

 「いや、そういうのは全然問題ないんだが……これ、本当に俺が食べて良いのか?」

 「別にそんなかしこまらなくていいわよ。ほら、さっさと食べなさい」


 別に親が不在だからって一応作り置きもあるし、足りない分は食費も貰ってるからひもじい思いをしているわけでもない。別に購買で売ってる安いパンとかサンドイッチも十分美味しいし。

 いつもそんなもので満足しているから、こんな贅沢なものを見せられると恐ろしくなるのは何と悲しい性なのだろう。


 そして、俺はまずふっくらと美味しそうに焼けている卵焼きに箸を伸ばそうとしたのだが──。


 「……おい、ボリノ」

 「ど、どうしたの?」

 「その、そんなジッと見つめられると緊張してしまうんだが」


 まるで俺の一挙手一投足を全て監視しているかのようにボリノが俺のことを見つめてくるから、緊張して中々箸が進まない。


 「そ、そういうの気にしなくていいから、ほらさっさと食べて」

 「ま、まぁ、いただきます……」


 俺は卵焼きをパクッと頬張った。


 「うん、美味い」

 「そ、それは良かったわ」

 「何か食レポした方が良いか?」

 「そういうのいいから」

 「なんかこう、なんというか……美味しい卵焼きだと思う」

 「多分ペットの方がもっと嬉しそうにご飯食べるわよ」

 

 続いてオクラの肉巻き、ささみカツとおかずを一口ずつ食べていく。どれも食材や料理としては初めて食べたものではないはずなのに、なんだか涙が出てきそうだ。

 どれもちゃんと美味しいし、なんだろうこの満足感と幸福感は……こんなもの食べさせられたら、惣菜パンやサンドイッチを食べられなくなってしまう。


 「どう? ちゃんと食欲進んでる?」

 「あぁ、結構箸が進むぞこれ」

 「特にどれが美味しかった?」

 「卵焼きだな。ウチの親とはちょっと味付けが違うが、なんだか新鮮に感じるしいくらでも食べたくなるぐらいだ。これって親御さんが作ってくれてるのか?」

 「ううん、殆ど冷凍食品。作ってるのは卵焼きぐらいよ。作ったの私だけど」

 「……え? この卵焼き作ったの、お前なのか?」

 「そうだけど」


 俺は弁当の中に入っているおかずをもう一度見る。確かにささみカツやほうれん草のおひたしが冷凍食品なのはわかるのだが、この卵焼きを作ったのがボリノだと……?

 俺が感じた衝撃が顔に出てしまっていたのか、ボリノはとてもご機嫌そうにニヤニヤと笑いながら言う。


 「どうだったの? 私が作った卵焼き、そんなに美味しかった?」

 「今からでも口を泥水で洗いたいぐらいだ」

 「ねぇそれどういう意味よ。私の手料理で汚れた口を泥水ですすごうっていうつもり? 泥水の方がマシだって言ってるの?」

 「すまんすまん、冗談だ。もしかして毎朝自分で用意してるのか?」

 「そうよ。ウチの親も忙しいし、夕飯を自分で作ることもあるから。卵焼きぐらいは簡単に焼けるし」


 卵焼きぐらい簡単に焼ける……?

 ウチの家族の前でそんなことのたまったら、母親以外全員ブチギレるぞ……? いや母親もブチギレるかもしれないぞ……?


 

 「ごちそうさん」

 「はいはい、お粗末様でした」


 まだ体調が万全ではなかったため女子の量でも完食できるか不安だったが、食べていく内に食欲が進んで結局完食してしまったのだった。


 「ありがとな、弁当食べさせてくれて。美味しかった」

 「そ、そう? 満足してもらえたら何よりだわ。そんなにたくさん食べてるの見たことないから少食だと思ってたし」

 「いいや、そんなことないぞ。家だと結構食べるし。でも、毎日こんなの食えたら幸せだろうなぁ」


 と、俺が何気なく口にした言葉がボリノの動揺を誘ったのか、トートバッグの中に戻そうとしていたお弁当ををどういうわけか手を滑らせて床に落としてしまっていた。


 「へ、変なこと言わないでよっ」

 「え? 俺、何か変なこと言ったか?」

 「もういいわっ。飲み物は泥水で良かったかしら?」

 「そうだな。食後の一杯はやっぱり新鮮な泥水に限る……って良いわけないだろ」

 「冗談よ。ブラックコーヒーだったわね」

 「お前の顔に吹きかけるぞ。毒霧みたいに」

 「冗談だって。はいココア」


 良かった。ボリノの虫の居所が悪かったら本当に泥水が出てきていた可能性もなくはなかった。

 

 にしても、俺の体調を気遣ってくれるなんて、相変わらず気が利く奴だ。元々湊が見舞いに来る予定だったのだから彼に任せればよかったものを、ますますあの噂の信憑性が上がってしまいそうだ。


 「それで、体調の方はどうなの?」

 「大分マシになったから、午後の授業には出れそうだな」

 「それは良かったわ。でも体調が万全じゃないようだったら、今日の生徒会の仕事は休んでも大丈夫よ。明後日の清掃ボランティアの方が大変なんだし」

 「そうだな。様子見て後で伝えるよ」

 「うん」


 俺が元気な時はとにかく鞭で叩いてくるが、こうして体調を崩すとびっくりするぐらい気を遣われるから申し訳なさすら感じてくる。

 そういった気遣いはとてもありがたいものだ、素直に受け取っておこう。


 「それよりも、今ってツバル君の家、親御さんいないの?」

 「え? 二人ともちょっと出張に行ってるけど、それがどうかしたのか?」

 「空腹に耐えかねたツバル君が道端に生えていたいかにもヤバそうな毒キノコを食べたって湊君が言ってたから……」

 「信じるなそんなフェイクニュースを」


 ボリノは心配性なところもあるからか、こういう時に変に純粋になって嘘を信じ込んでしまうタイプだ。ボリノは俺が極限状態に陥った時にいかにもヤバそうな毒キノコを食べる奴だと思っているのだろうか。食えそうなのならまだしも、流石にいかにもヤバそうなのは口に入れたくない。


 「じゃあ風邪でも引いたの?」

 「いいや、ただの寝不足だ」

 「夜ふかしはあまり良くないわよ?」

 「まぁ、この時期の男子高校生は何かと盛んでな……」

 「って、そこまで聞いてないわよ!」


 と、ようやくボリノの蹴りが炸裂した。相手が一応病人だからか威力はいつもより控えめだが。


 「本当に大丈夫? 最近何か忙しいの?」

 「いや、別にそういうわけじゃないんだが……」


 ここでふと、俺はあることを思いついた。

 神城がタイムリープを繰り返していることをボリノに伝えたら、ボリノも何か協力してくれるのではないか。と。

 

 しかし、突然そんなことを話されて信じることが出来るだろうか? 一応は親しくなった神城とボリノの関係にヒビが入るのは避けたいため、俺は神城の名前は伏せて──。


 「実は俺、タイムリープしてるんだ」


 そんなジャブを打ってみたのだが。


 「……はぁ?」


 ボリノは何言ってんのよと言わんばかりの声色と表情だった。


 「実はな、三日後に突如として地球に巨大な隕石が衝突して人類は滅亡してしまうんだ。俺はそんな未来を帰るべく、タイムリープを繰り返しているんだ……!」

 「ど、どうしたのツバル君? 寝てる間に変な夢でも見たいんじゃないの? それとも本当にいかにもヤバそうな見た目の毒キノコを食べちゃったの?」

 「わからない。確かに今朝、駅の自販機の下に生えていた鋭いトゲのついたどす黒いキノコは口にしたが、あんな美味しいものが毒なわけがないだろう」

 「何考えてたらトゲのついたどす黒いキノコを食べようという発想に至るのよ……」


 結局、俺はタイムリープの件についてボリノに明かすをやめた。

 大体タイムリープしているのは俺じゃなくて神城なのだから、俺がどれだけそれっぽく話しても信憑性が出てこないだろう。俺が神城の話を信じることが出来たのは、神城が知らないはずの俺の個人情報を色々話してくれたからだし。


 協力者が多いに越したことはないだろうが、かといってお人好しでお節介焼きなボリノのことだ、多分神城の過酷な道のりを知ったら全てを投げ売って協力するに違いない。

 


 それに……。

 もしも俺が死んでしまったら、ボリノはどれぐらい悲しんでくれるのだろう……?



 お読みくださってありがとうございますm(_ _)m

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