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偶然助けた美少女に「貴方に告白するのは十五回目ですっ」と言われても、俺は過去の十四回を知らない  作者: 紐育静
第2章『十六回目の告白』

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第30話 変わらない人



 眠れない夜、どんな音楽を聞けばリラックスできるかと、私は昴さんに聞いたことがある。きっと昴さんは覚えていないだろうし、私がどのタイミングで昴さんにそれを聞いたのかも詳しくは覚えていない。


 でも、私は昴さんが教えてくれたことを忘れないようにしている。

 私にとっては、どれも大切な思い出だから……。



 レコードプレーヤーを部屋まで持ってきて、お父さんのコレクションの中から見つけ出したレコードをセットする。


 ドイツの作曲家、ロベルト・シューマンが作曲したピアノ曲、『子供の情景』より第7曲、『トロイメライ』……トロイメライはドイツ語で『夢』を意味する。

 その曲名が表すように、まるで夢見心地を表現しているかのようなゆったりとした曲調で、そのまま夢の世界へと誘われるような感覚になる。


 

 昴さんと出会って間もない頃、私は彼をただクラシックに詳しい人なのだと思っていた。最近の流行曲よりも先にクラシックの話題が出てくるのは、何だかそういうかっこつけたキャラでも演じているのかと思っていたけれど、昴さんはクラシックを語る時、決まって顔を曇らせてしまう。


 あんなに良い人なのに時折陰りがあるように見えて、その陰はどうやって生まれているのだろうと、一体何が原因なのだろうと、私はこれまでに何度も探ろうとした。

 その問題を解決することで未来が変わると信じていたから。いや、信じたかったから。


 でも、昴さんから直接聞きだすことは出来なかった。私が偶然を装って楽団のミニコンサートや雫さんの演奏を意図的に聞かせた時に昴さんの本音を聞けるかもと思ったけれど、昴さんはそれについて詮索されるのを嫌っているようだった。



 だけど、私は確信している。

 昴さんは、ピアノを弾けるはず。

 妹の雫さんとの関係が上手くいっていないのは、多分ピアノに関して何かあったからだと思う。


 私は、これまでの世界とは常に違う行動を取り続けないといけない。今までと同じ行動を取っていても、同じ結果にしかならないだろうから。

 

 だから、私は今回初めて、昴さんに伝えてしまったのだ。

 四日後に、貴方は死んでしまいますと。


 

 何度もタイムリープを繰り返したのに昴さんを救えなかった人間が、一体何を言っているのだろう。



 私はレコードプレーヤーを止めて、ベッドの上に座った。

 側に置かれているぬいぐるみ達を見ても、前にゲームセンターで二人で頑張って取ったイヌのぬいぐるみも、一緒に水族館に行った時に昴さんがプレゼントしてくれたイルカのぬいぐるみも、たまたま立ち寄ったお店で見かけてプレゼントしてくれたアニメキャラのぬいぐるみも、私の思い出の中に存在するだけで目の前にはない。


 昴さんに真実を打ち明ければ、少しは心が軽くなるものかと思っていた。

 でもそれは結局、私の罪悪感をより強めるだけだった。


 昴さんは私の前では平気そうに振る舞っていたけれど、余命を宣告されて、しかも余命はたった四日間しかありませんと告げられて平気でいられるはずがない。私は昴さんが生き延びられる道を探しているけれど、これまでにもう十五回も失敗していて、本当にそんな未来が存在するのかもわからない。



 ……いや。

 私はまだ、昴さんに隠していることがある。

 でも、昴さんに嫌われてしまうかもと、相手にされなくなってしまうかもと思って、私は躊躇ってしまっている。


 どうせこの世界もダメになってしまうかもしれないのに、私は……昴さんに嫌われることに、ひどく怯えていた。



 私はサイドテーブルの上に置いていた携帯を手にとって、LIMEの画面を開いた。ついさっき登録したばかりの、でも私にとっては見慣れた『昴(BRZ)』というアカウントが表示されている。


 このBRZって何だろうと思って調べたら、とある車のブランド名だった。以前昴さんに聞いたら、彼のお父さんが好きだけど高くて買えないと嘆いているということを教えてもらった。


 そんな思い出を懐かしみながら、私はトーク画面を開く。まだお互いに何も送信していないまっさらな状態。



 『こんばんは。まだ起きてらっしゃいますか?』



 そんなメッセージを打ち込んだけれど、私は送信するのを躊躇っていた。

 今は夜の二時を過ぎた頃。もしかしたら昴さんは寝ている頃かもしれない。もしかしたら、昴さんも……私と同じように眠れてないかもしれない。


 今、昴さんは何を考えているのだろう?

 私があんなことを言っちゃったから、不安に襲われていないかな?

 私の、せいで……。


 私が、励ましの言葉をかける?

 今まで誰も救うことの出来なかった私が何を言えるの?

 昴さんを不安にさせている張本人が、なんて無神経な……。


 

 私はメッセージを送信できないまま、昴さんが側にいてくれないと正気を保てなさそうになるほどの孤独感と、どう足掻いても昴さんは死んでしまう運命にあるんじゃないかという絶望感と……もう何をしても無駄なのでは、という虚無感に襲われていた。


 「昴、さん…………っ!」


 もし、素直にワガママを言えるなら……。


 やがて涙が堪えられなくなり、布団の上にポツポツと滴る涙を見つめていると、こんな時間に突然LIMEのメッセージが来た。



 『昴(BRZ):こんばんは。まだ起きてるか?』


 

 私は画面に表示されたメッセージを信じられなくて、目をゴシゴシとこすってもう一度確かめてみる。

 確かに、昴さんからメッセージが届いていた。


 え、えっと、なんて返そう……。


 『神城小春:こんばんは。中々寝付けません』


 昴さんにとってはこれが初めてのメッセージかもしれないけれど、私は今までに何度も昴さんと連絡を取り合ってきた。でも、このタイミングでこんなメッセージが送られてきたのは初めてだった。


 『昴(BRZ):眠れそうか?』


 昴さんは、どうして私にメッセージを送ってきたのだろう。私のことを心配して? それとも昴さん自身が不安だったから? それとも両方?

 でも、明日も学校があるのにあまり時間を取らせるのも悪いと思って、私は……。


 『神城小春:そんな心配なさらずとも、大丈夫です』


 そんなメッセージを送ってしまった。

 

 こういう時に素直に人を頼れない自分を呪う。昴さんを頼ることが出来るなら、一体どれだけ幸せなことだろう。

 でも、昴さんは私のせいで苦しんでいるのに、私が昴さんを頼るわけには──なんてネガティブなことばかり考えながら泣いていると、突然携帯の着信音が鳴り響き始めた。


 「え、えぇっ!?」


 メッセージの着信ではなく、電話の着信だ。しかも画面に表示されているのは昴さんの名前で、私はびっくりして携帯を落としそうになった。


 「わっ、わ、わわっ、っとと、って、にょっ、わっ、あぁー!?」


 あまりにもびっくりしすぎて、私は携帯をお手玉している内に体勢を崩してベッドから転げ落ちてしまった。


 「いたたぁ……」


 床に顔から突っ込んでしまったけれど、丁度目の前に携帯が落ちていたので、私はすぐに拾ってようやく昴さんからの電話に出ることが出来た。


 「も、もしもし? 昴さんですか?」

 『あぁ、こんばんは神城。すまない、こんな時間に電話をかけてしまって。大丈夫だったか?』

 「は、はい」

 

 びっくりしてベッドから転げ落ちましただなんて恥ずかしくて言えない。


 「あの、何かありましたか?」

 『いや……神城のことが心配になってな』


 私はさっき大丈夫だとメッセージを送ったのに、私のことを心配して?

 あのメッセージが嘘であると、どうして見抜けたのだろう?

 そんなことを考えていると、電話の向こうから昴さんの乾いた笑いが聞こえてきた。


 『というのは建前で、俺が怖くてしょうがなかっただけなんだ。だから神城の声を聞いて安心したかった、それだけなんだ』


 怖くてしょうがない。

 それを聞いて、私は胸が痛くなった。

 やっぱり、もうすぐ死んでしまうかもと告げられて平気でいられるはずがない……。


 「すみません、私が変なことを言ってしまったばっかりに……」

 『いや、神城のせいじゃないよ。むしろ神城の方が辛いだろう? 俺が神城の話を信じないという可能性もありながら真実を伝えるのには勇気がいっただろうし、神城は嫌でも俺が死ぬのを何度も見せられてるんだ。そんなこと考えてたら、不安にもなる……』


 ……どうして。

 どうして、昴さんはこんなにも私のことを考えてくれるのだろう。

 もうすぐ自分が死んでしまうかもしれないという状況にあるのに、どうして人のことを心配することが出来るのだろう……。


 『俺にはSOSに聞こえたんだ。これまで十六回もタイムリープを繰り返して、一人で運命と戦ってきた神城が、助けを求めてるんじゃないかと思ったんだ。俺は凄いと思うよ、神城のことを。俺には到底真似できないことだ、きっと五回もいかない内に挫折してしまうだろうさ』


 ……ダメだ。

 昴さんから優しい言葉をかけられるだけで、自然と涙が溢れ出してくる。


 『俺は、神城が俺のために頑張ってくれていることに感謝しているし、尊敬もしているし、とても嬉しいよ。でも、無理はしないでほしい。無理を続けると、いつか……信じられないぐらい弱くなってしまうんだから』

 

 私は、間違っていたんだ。

 昴さんがこんな人だと私は知っていたはずなのに、私は昴さんを信じることが怖かったのだ。



 だって……さらに、昴さんのことを好きになっちゃうんだもん…………。



 いっそのこと嫌いになってしまえば、もっと楽になれるはずなのに。心を鬼にすることが出来るなら、極悪非道な人間になることが出来るなら、昴さんを見捨てるという選択肢も生まれてくるのに。

 好きになればなるほど、別れと再会がさらに辛くなるだけなのに……。



 「大好き……」

 『え?』

 「大好きです、昴さん……」


 

 今まで堪らえようとしていたものが堪えられなくなって、私は突然そんなことを言ってしまった。

 きっと私の嗚咽も聞こえているかもしれないけれど、昴さんは笑って「ありがとう」と答えたのだった。



 ◇◇◇



 その後、私は眠気が来るまで昴さんと電話でおしゃべりしていた。でもタイムリープとかそういう話は避けて、話題はもっぱら睡眠についてだった。


 「私は中々寝付けない時、よくクラシックを流すんです」

 『どんな曲を聞くんだ?』

 「えっと、ロベルト・シューマンの……」

 『あぁ、もしかしてトロイメライか?』


 昴さんが先にそう答えたので私はびっくりしてしまう。

 そしてやっぱり、何度世界を繰り返しても昴さんは昴さんのままなんだと私は安心する。


 「そうです。実は……以前、昴さんにおすすめされたので、よく聞いているんですよ」

 『へぇー。俺らしい奴だな。俺自身だけど』

 「ふふっ、そうですね」


 たまには、こういう夜もありかもしれない。一人で悩みながら、ビクビクと怯えながら眠れずに過ごす夜よりも、大好きな人と電話しながら過ごす夜の方が良いに決まっている。


 そして、気づいた頃にはカーテンの隙間から朝日が差し込んできていて────殆ど眠ることは出来なかったけれど、でも、夢のような時間だったと思う。


 

 お読みくださってありがとうございますm(_ _)m

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