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偶然助けた美少女に「貴方に告白するのは十五回目ですっ」と言われても、俺は過去の十四回を知らない  作者: 紐育静
第2章『十六回目の告白』

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第27話 愛と死の宣告



 「ここが、昴さんのお家……」


 俺は神城と二人で我が家を見上げる。俺の両親が苦労して建ててくれた二階建ての一軒家だ。

 


 ……結局、俺は神城を家に招くことになってしまった。


 最初は神城なりの冗談だと思っていたのだ。だから最初は「いや気が早すぎるだろ」なんて俺は笑いながらやんわりと断ったのだが、神城はどうも本気だったらしく、昔から彼氏の部屋に入るシチュエーションに憧れていただとか、俺の家族に挨拶したいだとか、俺と二人きりになれる場所がほしいだとかとにかく色々な理由をつけて俺の家に上がり込もうとしていた。


 俺だって、そういうシチュエーションに憧れを持っていないわけではない。だがそういうのはもっと段階を踏んでからあるべき展開のはずで、俺は神城と付き合い始めてまだ一日目、おそらく三時間も経っていないぐらいだ。

 元々親しい仲だったならまだしも、俺と神城は今朝初めて会話したぐらいのレベルなのである。この世にはスピード婚なるものもあるが、俺は慎重派でいたいのだ。


 しかし、俺がそういった御託を並べても神城は納得してくれなかった。結局ディベート対決で敗北してしまい、神城をここまで連れてきてしまったのである。


 「ほ、本当に良いのか?」

 「覚悟は出来ていますので」


 な、何の覚悟なんだ……? 俺は何も覚悟してないんだが? ウチの両親が高校生の時にデキ婚しているというあまりよろしくない事例を俺に教えてくれているからますます怖いんだが?


 「でも、中の明かりがついてますね。ご両親の他に誰かいらっしゃるんですか?」

 「あぁ、妹が一人な。二つ下の」


 都合がいいことに、いや俺にとっては断る理由が欲しかったからいてほしいぐらいだったのだが、両親二人とも出張で数日家を空けている。早くても帰ってくるのは月曜か火曜ぐらいだ。


 「では、妹さんに挨拶しないとですねっ」

 「気難しい奴だから注意しろよ」


 そして、俺はとうとう玄関の扉を開く。

 

 「ただいま」

 「お、お邪魔します」


 いつもなら俺が帰ってきてもアイツが出てくることはないのだが、俺とは違う人間の、しかも女子の声が聞こえたからか、妹の雫がリビングから顔を覗かせた。


 「だ、誰……!?」


 いつも家じゃ仏頂面の雫がメチャクチャ驚いた顔をしているのが何だか面白い。雫のそういう素直な反応を久々に見られて、少し嬉しくもあった。

 

 「初めまして。私は神城小春と申します」

 「は、初めまして……えっと、私は津々見雫です。その人の妹で高校一年生です……あの、お兄ちゃんの友達ですか?」

 「いえ、私は昴さんとお付き合いをさせていただいてます」

 「え? ってことは、か、彼女ってこと……!?」


 小春が丁寧に自己紹介すると、雫はますます驚いているようだった。俺が高校に入ってからこの家に連れてきた友達は幼馴染の湊ぐらいだし、初めて女子を、しかも恋人を連れてきたのだから驚きもするだろう。


 「少々お邪魔させていただきますが、あまりお気になさらず」

 「あ、はい。ご、ごゆっくり……」


 こういう時、雫はあまり驚きという感情を表に出さないものかと思っていたからそういう反応は意外でもあった。確かに俺も雫が彼氏か彼女を家に連れてきたら驚くだろう。いや驚くというレベルじゃないかもしれないが。



 俺は神城を連れて二階へと上がり、自分の部屋の扉の前に立つ。

 家族以外の異性を入れるのは初めてである。ここまで来て少し緊張していると、隣に立つ神城が首を傾げながら口を開いた。


 「お部屋の中、お片付けしなくても大丈夫なんですか?」

 「ある程度整頓していないと落ち着かない性分なのでな。見られて恥ずかしいものはない」

 「昔書いたポエムが綴られているノートとか……」

 「そんな楽しそうにうずうずされても、そういうのは置いてないからな?」


 俺は部屋の扉を開き、神城を部屋の中へと招き入れた。


 「お、お邪魔します……!」

 「そこの椅子にでも座ってくれ。俺、飲み物とか持ってくるから」


 ちゃぶ台とか座布団もないので、俺は神城を勉強机の前にある椅子に座らせて、部屋を出て飲み物やお菓子を取りに行く。

 そして俺が台所でお盆やコップを用意していると、リビングで時間を潰していたらしい雫が声をかけてきた。


 「ねぇ、お兄ちゃん」

 「どうした?」

 「いつの間に彼女作ってたの?」

 「今日だ」

 「きょ、今日!?」

 「あぁ」


 今日付き合い始めたばかりでいきなり彼女を家に連れてくるとか、中々正気じゃないように思える。もし雫がそんなことをしたら俺はまず親に連絡を入れるだろう。

 

 「……変なことに巻き込まないでね」


 と、雫は素っ気なく呟いてリビングへと戻る。

 確かに、純粋過ぎる俺は神城が単なる好意や興味で俺の家に来たがっていたのかと思い込んでいるが、もしかして変な事に勧誘されたり毒殺されたりしないよな……?


 なんて若干の不安も抱えながらジュースとお菓子を用意して部屋に戻り、ドアをノックしてから入ったのだが──。


 

 「……し、神城?」


 椅子に座って待っているかと思いきや、神城はなんと俺のベッドの上にうつ伏せで寝転んでいて、枕に顔を埋めていたのだった。

 

 「お、おい、神城?」


 ベッドの側まで行って声をかけると、神城はムクッと起き上がった。そして満面の笑みでこう言った。



 「良い匂いですね」



 ……そりゃ良かった。


 「私は初めて昴さんの枕の匂いを嗅がせていただきましたが……」

 「初めてじゃなかったら怖いんだが」

 「とても落ち着く匂いですね。この枕、持って帰っても良いですか?」

 「俺が眠れなくなってしまうからやめてほしい」

 「ふふっ、冗談ですよ」


 一体どこからどこまでが冗談だったのだろう。


 神城の第一印象はとてもおしとやかで上品で可愛らしいお嬢様だったのだが、今までに俺に十何回も告白してきたりだとか、まだ早い時間なのに終電がなくなったと言い出したりだとか、何かとぶっ飛んだボケをかましてくるぐらいにはお茶目なのかもしれない。


 いや、本当にボケなんだろうか。神城は本気で言っているのだろうか?

 創作の世界だと愛が重すぎて病んじゃってるタイプの女の子もいたりするから、それが本当に冗談なのかもわからないのである。


 神城を可愛らしく思う気持ちよりも戸惑いの方が大きかったが、神城は俺の枕を抱きながら起き上がり、ベッドの上に座った。


 「普通に待っているのもどうかと思いまして。ベッドの下も探ってみたのですが何も見つからず……」

 「ウチの母親は勝手に子どもの部屋に入ってきて掃除していくタイプだからな。そう簡単には見つからないだろう」

 「つまり、この部屋のどこかにそういうものがあるということですか?」

 「……見つけられるものなら見つけてみるといい」


 俺は机の上にお盆を置いて、コップにジュースを注いで神城に渡した。俺も自分の分を注いでお菓子の袋も開けたが──さて、どうしようか。



 こういう時って、一体何をすれば良いんだ? どんなことを話せば良いんだ? もう漫画とかアニメとか音楽とか、そういう趣味の話はもうしてしまったし、なんだろうか……家族関係のことは神城のお兄さんのこともあるからあまり話題にしたくないし、ウチの家庭環境だってそんなに面白いものではない。


 どうしたものかと俺が頭をフル回転させながら悩んでいると、神城はジュースを一口飲んでからクスッと微笑んだ。


 「本当に、彼女を部屋に連れてくるのは初めてなんですね」

 「家族以外だと、男友達ぐらいしか入れたことはないからな……」


 異性の家に上がり込んだことはあるが、この家に異性を呼ぶ勇気もなければそもそもそういう用事もなかった。やっぱり向こうの家に上がり込む方が多かったし。


 「私が初めてというのはとても嬉しいです。でも、もしかしたらこれが初めてじゃなかったかもしれません」

 「え? もっと早く出会ってればってことか?」

 「いいえ……」


 神城が何を言いたいのかわからず俺が不思議に思っていると、神城はコップをサイドテーブルの上に置いて、そして俺の枕を大事そうに抱きしめながら伏し目がちに口を開いた。


 「昴さん。どうして、私が昴さんの家に来たかったかわかりますか?」

 「彼氏の家に行くのが憧れだったから、とかじゃなくてか?」

 「勿論、それも大いにありますが……私は、昴さんと二人きりで落ち着ける場所を探していたんです」


 確かに、二人きりで落ち着ける場所というのは中々限られているかもしれない。

 だが、俺の部屋というのは攻め過ぎではないだろうかとも思う。俺は中々落ち着けないし、あまりにも展開が急過ぎるから何か完全犯罪でも仕組まれるんじゃないかという突飛な発想まで思い浮かんでしまうぐらいには不安にも襲われていた。


 と、俺はそんなテキトーなことばかり考えていたのだが、どこか落ち着かない様子の神城は俯いて喋らなくなってしまい、彼女のお兄さんも件もあるし、何か複雑な事情を抱えているんじゃないかと心配する。


 そして俺が神城に声をかけようとした矢先、彼女が顔を上げて、決心したような様子で俺の目をジッと見据えて口を開いた。




 「昴さん。貴方は、四日後…………月曜日の夜に亡くなります」




 それは、俺が予想だにしていなかった告白、いや──死の宣告だった。



 お読みくださってありがとうございますm(_ _)m

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