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偶然助けた美少女に「貴方に告白するのは十五回目ですっ」と言われても、俺は過去の十四回を知らない  作者: 紐育静
第1章『十五回目の告白』

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第24話 ごめん、ダメだったわ



 ボリノと仲直りしてくる、と小春と約束したものの。

 一体どうやってボリノと仲直りしようか、俺には良案などさっぱり思い浮かんでいなかった。


 それに、まずボリノの姿が見当たらない。講堂では吹奏楽部が練習しているだけで、教室にもいなかったのだ。実は俺と入れ違いで校門に向かってしまったのではとも考えたが、生徒会室にてようやく彼女の姿を見つけたのだった。



 また勝手に一人で隠れて仕事しているのかと思いきや、ボリノは部屋の窓際に立って雨空を眺めていた。

 普段のボリノは態度が大きいから不思議と存在も大きく見えるが、こうして見ると彼女は意外と小柄だ。だからか余計に、その後ろ姿が儚げに見える。


 「おい、ボリノ」


 俺が彼女を呼ぶと、彼女の頭がピクッと動いたように見えた。


 「立川が待ってたぞ。一人虚しく黄昏れてないで、さっさと行ってやれよ、友達なんだろ」


 と、俺は限りなく空気が読めてないことを言う。

 ボリノが意味もなく友人との約束をドタキャン、いやそもそも遅刻するわけがない。こうしてボリノが生徒会室で黄昏れているのは、俺が原因のはずだ。


 だが、ボリノはその場から一歩も動こうとせずに、俺に背を向けたまま、ざあざあと降る雨音に打ち消されてしまいそうな声で呟いた。


 「ごめんなさい、ツバル君」


 それは、俺がボリノから一番聞きたくない言葉だった。


 「ツバル君の気持ちを考えずに、ついワガママばかり言っちゃって……それに、カッとして手を上げちゃうなんて、私ったらサイテーね」


 と、ボリノは自嘲気味に笑っているように見えた。


 ごめんなさいと素直に謝られたら、こちらも素直に許すべきだろう。こちら側も誠心誠意を持って謝るべきだろう。

 だが、俺はそんなのを求めていない。


 「ボリノ」

 「な、何?」

 「俺はお前を許すつもりはない」


 俺がそう言うと、目元を赤く腫らしたボリノが驚いた様子で俺の方を向いた。

 

 「だから、お前も俺を許さなくていい。謝らなくてもいい」


 俺が謝らないからか、あるいは俺が変なことを言っているからか、ボリノはポッカリと口を開けて戸惑っているようだった。


 「確かに、俺はボリノに悪いことをした。それぐらいの自覚はある。だが、俺はお前に謝る気はない。俺は、お前の望みを叶えてやれないからだ」


 ボリノは俺のピアノの演奏をもう一度聞きたいと強く願っている。だがそのことを引き合いに出さずボリノは俺を許そうとした。

 例え今俺達が仲直りしたとしても、ボリノの心の中にわだかまりが残り続けるだけなのだ。それでは結局、何の解決にも至らない。


 「はっきり言っておく。俺はもうピアノを弾くつもりはない。だからボリノ、お前は俺に謝るな。好きな時に好きなだけビンタすると良い」


 すると、ボリノは怒ったように俺の元へズカズカとやって来ると、俺の目の前に立って大きく手を振り上げ────俺をビンタすることなく、ストンと落とした。


 「……バカバカしくて、怒る気にもなれないわ」


 人は相手に価値を見出さなくなると最早怒る気すら失せてしまうが、とうとう俺もそんな立ち位置になってしまったか。


 「わざわざそんな屁理屈を言うためにここに来たの?」

 「あぁ。俺だって仲直りはしたいと思っているが、その誠意を表すことが出来ないからな」

 「大体、ツバル君が謝ったって私が許すとも限らないじゃない」

 「そうか? お前みたいな奴は口では許すと言って、表面上は問題を解決しようとするはずだ。内心にはずっとわだかまりを残してな」

 「何よ、わかったような口きいて……」


 もう俺達は三年生で、一緒に過ごす時間はそう多くない。だがそんな短い期間だとしても、ボリノが抱え込んでしまうような問題を増やしたくはなかった。


 「じゃあ、私達は喧嘩したままってこと?」

 「あぁ、そうなるな。だから好きな時に好きなだけ俺を痛めつけてもらっても構わない」

 

 俺がそう言うと、ボリノはコツンッと俺のスネに蹴りを入れた。今まで俺が食らってきた彼女の暴力に比べれば随分と可愛らしい攻撃だ。硬式の野球ボールが股間に直撃したのとビーチバレー用のボールが股間に直撃した時ぐらいに違う。


 「……明日からまたこき使ってやるから、覚悟しときなさいよ」

 「あぁ怖い怖い。鬼の会長様だこと」

 

 この喧嘩をきっかけとして俺に口を利かなくなるぐらいボリノは子どもなわけではない。お互いに決して相容れない部分があるのは珍しいことではないはずだ。


 例えどれだけ仲が良い間柄でも秘密の一つや二つぐらい抱えているものだ。時には、知らない方が幸せなこともある……。


 「ただ、一つだけ言っておく」


 俺は踵を返し、ボリノに背を向けて言う。


 「お前が称賛している奴の演奏とやらは、あくまでお前がそう思っているだけで、本人にとってはそうではない」


 ボリノは、あの日の演奏を半ば狂信的に崇拝しているように思えた。

 だが、そう思っているのはボリノ本人だけだ。いや、他にも観衆がいたらボリノと同じようなことを考える人間もいるかもしれないが、演奏者だけは絶対に違うと言い切れる。


 「俺は、あんなものしか演奏できなくなったからピアノをやめたんだ。ボリノ、お前が心酔しているあの音は、俺が一番嫌っている音なんだ。それを忘れないでくれ」


 そう吐き捨てて、俺は生徒会室を後にする。


 これでいい。これで良かったはずだ。

 俺達の関係に入りかけていたヒビが修復することこそ無けれど、それが広がることは防げたはずだ。

 もっとも……小春や立川達が望んだ結果ではないだろうが。



 ◇◇◇



 「ごめん、ダメだったわ」

 「ドアホー!」


 学校の近くにあるファミレスで小春と立川の二人と合流すると、案の定立川に思いっきりどつかれた。まだ大して親しい関係でもないのにボリノより威力が強い。


 「な、仲直り出来なかったんですか?」

 「別に、そんな険悪になったわけじゃない。今回の件はもうお互いに相容れない、それを確かめあっただけだ」

 「何やその閣僚級会合みたいなノリは。そんな難しい話しとったんか?」

 「あぁ、そうだ。生成AIの乱用が今後の人類の芸術に対してどのような影響を及ぼすのかを建設的に話し合い──」

 「難しい話やめい」


 立川は俺の胸をペシンッと叩いてツッコミを入れ、小春は俺の説明を聞いてわけがわからなさそうにしていた。小春は俺とボリノの綺麗な仲直りを望んでいただろうに、申し訳ないことをしてしまった。


 「ちょい耳貸せ」


 そして立川は再び俺の耳をつまんで引っ張ると、小春から少し離れてから彼女に背を向けて、肩を組んでコソコソ話を始めた。


 「で、実際どうだったんや? なんであかんかったん?」

 「仮に俺がボリノに謝ったとしても、ボリノが望むことをしてやることは出来ない。だから俺は謝らなかったし、ボリノに謝らせたくなかった。それだけだ」

 「んで、のぼりんは納得したんか?」

 「呆れて怒る気すら失せているようだった」

 「そりゃそうやわ……」


 立川もまた、ボリノと似たような反応を見せる。俺の言っていることが滅茶苦茶だからだろう。


 「ちなみにやけど、その喧嘩ってもしかして春ちゃん絡みだったりするん?」

 「直接の原因ではないが、多分ボリノは小春のことを考えていたのかもしれない」

 「なるほどなぁ……のぼりんのことやから、春ちゃんにお節介焼いたに違いないわ」


 立川は俺とボリノの喧嘩については怒っているようだったが、その原因が何かについては追及してこようとはしなかった。まだ俺と知り合って間もない自分が深入りすべきことではない、と判断したのかもしれない。


 「最近は春ちゃんから彼氏との惚気話をされたり、のぼりんからは自分の右腕が優秀だのと自慢話をされたりともう嫌になってたぐらいやし、君のことは一応信頼しとる。でも、春ちゃんやのぼりんを悲しませるようなことしたら許さんからな。あと、くれぐれも人と喧嘩したのを彼女のせいにしたらあかんで」

 「あぁ、肝に命じる」

 「んじゃ、気張って行けや!」


 そう言って立川は俺の背中をバシーンッと引っ叩いた。

 なんとなくだが、立川と親しくなってしまうと俺の身近な交友関係に暴力系ヒロインがもう一人追加されてしまいそうな気がした。



 「……終わりましたか?」

 

 立川とのコソコソ話も終えて小春の元へ戻ると、今度はどういうわけか小春が不機嫌そう頬を膨らませていた。

 その姿は可愛らしくもあるが、やはりボリノと仲直り出来なかったことを怒っているのだろうかと思って俺が慌てていると、立川はニッコニコの笑顔で小春に声をかける。


 「どうしたんや春ちゃん、もしかしてウチが津々見君のこと独り占めしてたから嫉妬しとるんか?」

 「ううん、別に。まだ二回しか会ってないのに随分と仲良さそうだなと思って」

 

 そう言って小春はプクーッと頬を膨らませてプイッと顔を背けてしまう。


 あぁ、小春が嫉妬してる。彼女がやきもち焼いてる姿ってこんなに愛おしいのか。

 そんな欲情を抱いたのは立川も一緒のようで、彼女は小春の頭をワシャワシャと撫で回していた。


 「なんや~やきもち焼いちゃうなんてものごっつかわええやんか~」

 「あ、あまり髪いじらないでよ~」

 「津々見君、今日はいっぱい春ちゃんを可愛がったりや~ドリンク代はウチが出しとくさかい」

 「ありがとな」


 立川に背中を押されて、俺は小春と一緒にファミレスを出る。

 外はまだ雨が降り続いていて、相合い傘に二人で入って駅の方へ向かおうとした時、こちらへ近づいてくるボリノの姿を見かけた。傘の下でボリノも俺達の存在に気づいたようだったが、彼女は俺にプイッと顔を背けて知らんぷりをするのだった。



 お読みくださってありがとうございますm(_ _)m

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