第17話 大凶パワー全開
今日は朝からボランティア活動だ。内容は俺達が通う松楠高校周辺の清掃である。
こういう風に松楠高校の生徒が参加するボランティア活動は年に数回実施されており、地元への奉仕だとか地元住民との交流という崇高な目的もあるが……強制参加である生徒会役員や一部の部活動生を除けば、わざわざ貴重な休日という時間を使って参加するような生徒は少ないのが現実だ。
秋頃には海岸の方にまで出向いて海岸一帯の清掃活動もあるし、それに比べたら全然マシな作業である。
そして俺はボリノと共に集合時間より早く集まり、清掃に使う用具の準備などを手伝い、今回の清掃活動に参加する生徒や地元住民らが集まる号令を行った。
号令と行っても、ウチの校長や生徒会長であるボリノが校庭の一角で短く挨拶するだけだ。その後は各班ごとに分かれて、指定された区域の清掃を行う。
「さぁ、一緒に頑張りましょうね、昴さんっ」
と、えんじ色のジャージ姿の神城が朝から眩しい笑顔を俺に届けてくれる。
「……あぁ、そうだな」
……。
……どうして、ウチの学校の生徒ではない神城がここにいるのだろうか。
「あぁえっと、その、私は元々ゴミ拾いが好きでして。ほらっ、やっぱり綺麗になっていくのって見ていて気持ちが良いではないですかっ。自分の働きによるものなら尚更です、このやりがいというものが良いんですっ。それにその、なんと言いますか、あっ、やっぱり私の学校とあまり交流がないからこそ、こういった活動をきっかけに両校間の交流を深めてですね、色々と良くしていけたら……な、なーんて」
と、神城は俺達に熱意を語ってくれたが。
そんなに顔を真っ赤にしてあたふたと落ち着きがない様子で説明されても、何も説得力がない。
「……神城さん。実際のところ、彼氏である津々見先輩と一緒にいたかっただけなのでは?」
生徒会役員としてこの清掃活動に参加している長沼が、神城に疑いの目を向ける。俺達の学校の黒地に白のラインが入ったジャージとは違うリハジョのえんじ色のジャージを着ている神城のお外れ者感が際立っている。
「あ、あうぅぅ……」
そして、神城は恥ずかしさのあまり体を縮こませてしまっていた。
どうやら神城はどこからかこの清掃活動が実施されることを聞きつけて、というか昨日俺が直接伝えてたっけか。そして松楠高校の生徒だけでなく地元住民も参加出来ると知った神城は、全然地元じゃないのに地元住民枠としてしれっと参加していたのだ。わざわざリハジョのジャージまで着て。ちなみに他にリハジョの生徒は一人もいない。
そこまでして俺と一緒にいたいと思ってくれているようで、それは確かに彼氏としてとても嬉しいことではあるのだが、ここまで来るとちょっと怖くもあった。
しかし、俺に彼女がいること、そしてボリノが神城の顔を知っているため、不純な目的で参加している神城の扱いをどうするか話し合われているのだが──。
「神城先輩」
長沼は、恥ずかしさに悶えている神城の肩をポンと優しく手を添えた。
「貴方の心意気、とても素晴らしいものではないですか」
何を言っているんだコイツは。
「彼氏と少しでも一緒の時間を過ごしたい……あぁなんと可憐でいじらしい乙女心なんでしょう! 一体誰が二人の恋の邪魔をするというのでしょうか!」
「は、はい……?」
「良いでしょう神城先輩! 我々松楠高校生徒会は貴方の参加を認めます!」
「ほ、本当ですか!?」
「ねっ、良いですよね皆さん?」
そう言って長沼は俺達の方を向く。いや、会長や副会長、ましてや先輩を差し置いて何を出しゃばっているんだ会計が。
大体、話し合うって言ったって、別に神城が何か悪いことをしているわけでもないし、俺以外の生徒会役員はただ微笑ましそうに見守っているだけなのだ、この寸劇を。俺の幼馴染で親友であるはずの湊に至っては呑気に拍手をしている始末。
そして、とうとう笑いをこらえられなくなったのか、ボリノがケラケラと笑いながら言う。
「人手が増えるのはありがたいし全然問題ないわ。一応知っている人だし。ね、良いわよねツバル君?」
「俺に聞くなよ」
「津々見先輩! こういう時はですね、『俺は彼女と一緒にいたい!』って叫ばないといけないんですよ!」
「黙ってろ長沼」
「そうだよぉ昴。せっかく可愛い彼女がわざわざ参加してくれてるんだから、もっと喜んであげないと」
「黙ってろ湊。もうゲーム貸してやらないからな」
「そんなぁー」
結局なんやかんやあって、神城は俺達生徒会役員の班に参加することになり、一緒に清掃活動に励むこととなったのだった。
俺達生徒会役員(プラス神城)の班は学校周辺の清掃を担当する。日頃から登校中に空き缶とか煙草の吸殻とかコンビニ袋とかが落ちているのを見かけるが、こうして集めていくとあっという間にゴミ袋がパンパンになっていく。
「エロ本とか落ちてないかな~」
俺の隣を歩く湊が、落ちていたペットボトルを拾いながらそんなことをボヤく。
湊は中性的な顔立ちで一見すると可愛い奴なのだが、考えていることはちゃんと男っぽいというかアホっぽい。高校に入学した時、「もっと身長伸びるから!」と意気込んで買った大きめのジャージは未だにダボダボで萌え袖のようになっているのが良い例だ。
「そういえば見かけたことないよな、そういうの。あれって半ば都市伝説じゃないのか?」
「田舎だと結構落ちてるみたいだけどね。最近は売ってる場所も少ないみたいだし、どちらかというとビデオとかそういう玩具が落ちてた方が面白くない?」
可愛い顔して何を言ってるんだコイツ。実際そんなものが落ちてたら反応に困るだろう。
なんてアホな話をしていると、俺と湊は背後から頭をゴンッと強めに叩かれた。
「いでっ」
「あいたっ」
「何バカみたいなこと話してんのよアンタ達」
振り返ると、ボリノが呆れた様子で溜息をついていた。ボリノの隣では神城がゴミを拾いながら苦笑いしていた。
「何だよ、ちゃんと作業はしてるだろ。こういう作業中でも何か楽しみを見つけないとな。こういう時だからこそ普段はお目にかかれないような珍しい品物を見つけられるかもしれないんだぞ。おっ、ほら見ろよ。このハンドスピナーみたいに一世を風靡した懐かしい品物が見つかるかもしれない」
「なんでそんなものが落ちてるんだか……」
「あっ、昴! 見て見てこれ、一◯風靡セピアのチェキが落ちてる!」
「なんでそんなものが落ちてるのよ……」
珍しい落とし物を見つけながらも、自分達なりに楽しくゴミ拾いに励んでいると、同行していた神城が突然「あっ」と叫んだ。
何事かと思ってみると、神城は学校の周囲に植えられたツツジの植え込みの中とトングで探ると、その先に掴まれていたのは──。
「み、見てくださいっ。え、エロ本です!」
「え、エロ本だってぇ!?」
清楚なお嬢様な雰囲気漂う神城の口から「エロ本」という単語が出てきたこともびっくりだが、まさか本当に落ちているとは思わなんだ。
表紙には、胸部の恥部を丸出しにした可愛い女の子の絵が描かれていた。どうやらそういう類の漫画雑誌のようだ。朝露や雨で濡れたのかカピカピになっていて、ページを開くことは出来なさそうだが。
「ふんっ!」
俺や湊が目を輝かせる中、神城が持っていたエロ本をボリノが奪い取り、彼女は自分のゴミ袋の中にエロ本を乱暴に突っ込んだのだった。
「あぁ、勿体ない……」
「何が勿体ないよ! こ、こういうのを小春ちゃんに拾わせたらダメでしょ!」
ボリノは火でもついたかのように顔を真っ赤にしてプンプンと怒っていた。
相変わらず、ボリノはこういうのに耐性がないらしい。
「で、でもっ、こういうのを見るっていうのもスリルと言いますか何と言いますか、とてもドキドキしませんか?」
「ほら、神城もこう言ってるし」
「た、確かにドキドキはするけど……だ、だからって今そういうことを考えるのは良くないと思うわ。ほら、まだゴミ拾い終わってないんだから!」
正直、神城が急遽参加することになって他の面々と馴染めるかという不安はあったが、元々面識のあったボリノをともかく、湊達が神城の存在を温かく受け入れてくれているのがありがたい。まぁ、奴らはこの状況を面白がっているだけかもしれないが。
それにしても……。
エロ本を持っている神城の姿はこう、なんか色々とクルものあったなぁ……。
と、バカみたいなことを考えていると、俺達は学校の校門から近いところにある交差点へと辿り着く。
「あと少しですねっ」
「結構早く終わりそうね、小春ちゃんのおかげかしら」
「早く終わらないとデート出来ないもんねー」
「な、なんで湊がそれを知ってるんだ!?」
「アツアツね……」
神城も交えて和やかな雰囲気でゴミ拾いを続け、あと少しで学校の外周を周り終えるというタイミングで──その事故は起きた。
交差点の向こうから、耳をつんざくようなけたたましいエンジンの唸りとクラクションが響いてきた。
俺達は反射的のそちらを向く。見ると、一台の大型トラックが赤信号という存在をも跳ね飛ばすかのように猛スピードで交差点へと突っ込んできていた。
大型トラックは横断歩道を通っていた自転車や交差点に進入していた乗用車、右折待機していた路線バスに次々と衝突していき、その衝撃で進路を変えて俺達の目前へと迫っていたのだった。
「し、神城!」
俺の体は考えるよりも先に動いていた。ボリノや湊に目もくれず、俺は真っ先に神城の腕を掴んでいた。
そして、そのまま神城の体を抱き寄せて、右か左か──どちらに避けるか、生死を左右しかねない一か八かの選択。
だが、考える余裕などなかった。ただ本能から咄嗟に避けたいと、死にたくないとそう願っただけで、自分ですらどう回避したのかはわからない。
トラックは激しい轟音と共に街路樹に衝突し、街路樹をなぎ倒しながら横転。学校の周囲にあるツツジの植え込みに突っ込んでようやく止まったのだった。
「や、ヤッバ……」
俺と同じように、地面に滑るように倒れ込んで回避行動をとったボリノが、腰を抜かした様子で横転したトラックを眺めていた。
「うひぃ~。あ、危なかった~」
同じく湊も地面に倒れて……まぁコイツは結構平気そうだな。
「だ、大丈夫か、神城」
俺は咄嗟に抱きかかえた神城の体を離して彼女に問いかける。
だが、神城は俺の問いかけには答えてくれない。まだ舞い上がる粉塵に包まれているトラックを呆然とした様子で見つめ、そして──。
「い、いや……!」
と、か細い声が漏れた。
さっきまで穏やかな笑顔を浮かべた神城の表情が引きつり、その小さな体を震わせていた。
そして、俺は思い出した。神城の過去を。以前、神城が凄惨な場面を目撃した可能性を──。
「い、いやああああああああああああああああっ!!!!」
神城の悲鳴が周囲に響き渡り、現場に集まっていた人々が一斉に神城の方を向く。
「神城! 落ち着くんだ!」
俺は咄嗟に神城の体を抱きしめた。しかし神城は体を震わせながら悲鳴を上げ続ける。
「いや、いやっ、やだぁっ……!」
側にいたボリノや湊も何事かと心配そうな面持ちで俺達の元へ駆け寄ってくる。
神城には目立った外傷こそ見られない。しかし──。
「私を、置いていかないで……!」
神城は、見えない場所に大きな傷を負っていたのだった……。
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