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偶然助けた美少女に「貴方に告白するのは十五回目ですっ」と言われても、俺は過去の十四回を知らない  作者: 紐育静
第1章『十五回目の告白』

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第15話 え~、貴方は私の心を盗んでいったんですねぇ



 明くる土曜日のこと。

 俺は昨日神城と約束した通り、近くにある市立図書館で一緒に勉強することとなった。


 昨日一昨日と、俺は神城とお付き合いを始めてから二日連続で放課後デートを楽しんだわけだが、今日のデートは一味違う。

 何が違うかって? フッ、神城みたいな可愛い彼女を持ったことのない諸君にはきっとわからないだろうな! って、いだだだだっ!? ハトがめっちゃ突いてくる何で!?


 ……気を取り直して。

 昨日一昨日の放課後デートは、俺も神城も共に学校帰り、つまり制服姿のままだった。

 しかし今日は休日! 神が与え給うた素晴らしい休日だ! つまり神城はし☆ふ☆く! 至福! じゃなくて私服! そう、神城の私服を拝めることが出来るわけだ!


 ……いや、浮かれ過ぎか俺は。あまりに興奮しすぎて自分のキャラを見失うところだった。

 少し早めに図書館に到着した俺は、入口の側にあるベンチに座って側で地面を突いているハトを眺めながら自分を落ち着かせる。


 待ち合わせの時間は十三時としているが、現在時刻はお昼の十二時過ぎ、一時間ぐらい早い。やっぱり俺は恋の熱に浮かされてしまっているのだろうか。

 どうだろう、神城が来た時に「全然待ってないよ」ってスマートに言ってみたいけども、あまり早く来すぎるとそれはそれで神城に気を遣わせてしまいかねない。いやぁでも居ても立っても居られないぐらいだったし、あぁもうどうすれば──。


 「す、昴さん!?」


 俺の名前を呼ぶ声が聞こえて、俺はハッとして声がした方を向く。すると、そこには私服姿の神城が佇んでいて、俺があまりにも早く来すぎていたからか驚いた様子を見せていた。



 俺は、そんな神城の姿をジッと見つめる。脳裏に焼き付けるようにじっくりと。


 おさげ髪に白いリボンというのはいつもと変わらないが、フリルが付いた上品な雰囲気の白いブラウス。春らしい桜色のフレアスカート。可愛らしいストラップシューズ。そして肩にミルク色の薄手のカーディガンを羽織って──あぁ、なんという王道ガーリーコーデ。いや、ガーリーコーデが何なのかは知らないが、今の神城のコーデを見て一体誰がガーリーではないと言えようか! 


 「け、結構お早いんですね。私も楽しみで早く来ちゃったんですけど……」

 

 ここで彼氏である俺は全然待ってないよ、と言うべきなのかもしれないが、そんなスマートなことを言っていられるほど、今の俺は落ち着いてられなかった。

 俺はベンチから立ち上がって神城の元へ一歩近づくと、腕を組んで首を少し傾けながら、そしていつもと声色を変えて口を開く。

 

 「え~、あなたね。一体どういうおつもりですか? そんなバレバレなことをして」

 「は、はい?」

 「今日の貴方のその格好……どうしてそんなに可愛いのか、私は全部わかりましたよ」

 「か、可愛いですか? えへへ……」


 と、照れながら笑う神城の周りをゆっくりと歩いて周りながら俺は話を続ける。


 「えぇ、わかっていますよ。貴方、私を動揺させるおつもりだったんでしょう? ん~、これはまんまと引っかかりましたよ。正直参りましたねぇ~」

 「な、何だか探偵っぽい言い回しですね……」

 「ん~、おかしいですねぇ。貴方がここに来た瞬間、景色が一変しちゃったんですよ。それはもう別世界のようでした。そこで私は気づいたんです──え? 俺の彼女、可愛すぎね?と」

 「人格が二つあるんですか……?」


 たまに指を立てたり肩をすくめたりしながら、俺は戸惑う神城の周りをゆっくりと周りながら話を続ける。


 「実に見事ですよ。そのフリルの付いたブラウス、桜色のスカート、その雰囲気……貴方の可愛らしいおさげと綺麗な白いリボンによく似合ってるんですよ、これが。そう、全てが完璧な計算の元に成り立っている、と私は言いたいんです」

 「えっと……もしかして、古畑◯三郎のモノマネですか……?」

 「すなわち、犯人は貴方です。そう、私の心を盗んだね」

 「わ、私がですか!?」

 「ん~、元々ね、証拠は揃っていたんですよ。貴方の可愛さというのは日頃から実感していたつもりでしたよ私は。でもね、それを直接伝えるのも恥ずかしいものですから、あまりにときめき過ぎると人はこんな風に誰かのモノマネをして誤魔化さないといけないんです。う~ん実に面白い」

 「なんか違う人入ってきませんでした?」

 「しかし真実はいつもひとつ」

 「やっぱり違う人がいますよね?」

 「はい、もう認めます。今日の貴方は完全に反則です。反則級の可愛さです」


 俺の得意な古畑◯三郎のモノマネを目の前で見せられた神城は最初は戸惑っているようだった。しかしこれが俺のただの照れ隠しであると気づいたのか、俺が話を終えると神城は上品に自分の口元に手を当てながらクスクスと笑っていた。


 「昴さんって、結構照れ屋さんなんですね」

 「神城が可愛すぎるのが悪い。よく似合ってるぞ、その服」

 「ふふっ、ありがとうございます。昨日から悩んだ甲斐がありました。昴さんのコーデもスマートでよく似合ってますよ」

 「あぁ、ありがとな」


 俺のモノトーンなファッションとはちょっと華やかさが違いすぎて申し訳ないぐらいだ。


 「何だか意外です。昴さんってたまにストレートに私を褒めたりしてくれるので。照れることもあるんですね」

 「たまにこうしてふざけないとバランスが取れないんだ」

 「でもとても面白かったです。次のデートの時も是非モノマネを見せてくださいねっ。次は明智◯五郎でっ」

 「流石にそれは俺のレパートリーにないぞっ」


 俺のモノマネショーが終わった後、二人で図書館へと入って学習用のテーブルがある席へと向かい、二人で並んで座った。


 

 さて、今日の本来の目的は、文系選択なのに社会科目が苦手な神城に勉強を教えるための勉強会なのだが。

 ぶっちゃけ、この勉強会はあまり意味がないように思えた。


 「ここって木綿、麻、銀の組み合わせで合ってますか?」

 「ん、そうそう。昔の人は木綿豆腐の服を着ていたからなぁ」

 「そうなんですか!?」

 「いや、冗談冗談」


 だって神城、社会科目が苦手だって言っていたのに全然問題がないように見えるんだもの。これで苦手って言うだなんて、リハジョってそんなにレベルが高い学校なのか?


 ただ、大事なのは勉強が苦手とかどうとかではない。勿論コツコツと勉強する時間は大切だが、俺と神城が求めているのは二人で一緒にいる時間なのだ。


 ふと、問題を解くために集中している神城の横顔を見ると、いつもとは違う彼女の真剣な表情を見られて、ますます惚れてしまいそうになる。しかも俺が見ていることに気づくとニコッと微笑んでくるのだから、これは参りましたねぇ、完敗ですよ。こんなにも悪どい犯人は初めて見ました。彼女はきっと私を籠絡するために現れた悪魔に違いありません……って、推理モノが急にファンタジーな世界観になってしまう。



 勉強も一段落ついた頃、あまり長くやっても集中力が持ちそうにないため、二人で文学コーナーへ向かってお互いのおすすめの本について紹介しあうことになった。


 「昴さんはやっぱり推理小説とかお好きなんですか?」

 「いや、さっきのあれは父親が好きでドラマを見ているだけで、俺はあまりそういうのは読まないな。有名な小説も映画版とかドラマ版を見るぐらいだ。まぁ、好きなのは強いて言えばミヤケンとか」

 「み、ミヤケンとは?」

 「宮沢賢治」

 「宮沢賢治のことをそう呼ぶ人は初めて見ました……」


 俺は夏目漱石のことをなっちゃんと呼ぶし、与謝野晶子のことはアッキーと呼ぶし、グリム兄弟のことはブラザーと呼ぶ。後世に大きな影響を与えたとはいえ人は人。そういう親しみを持った呼び方ってのも大事だと思う。


 「私、『銀河鉄道の夜』や『風の又三郎』、『注文の多い料理店』とかは読んだことあるんですけど、他に何かおすすめはありますか?」

 「んー、『ポラーノの広場』とか『よだかの星』とかかな。後はクラムボンがかぷかぷ笑ってるやつ」

 「あ、それは教科書で読んだことあります」

 「やっぱりあるよなぁ」


 大人は教科書にあんなものを載せて、子どもに一体何を教えたいのだろう。あれを海外の人向けの日本語の教科書に掲載したらすんげぇクレーム入りそう。


 「私も、明治から大正、昭和初期にかけての文学作品を読んだりするんですけど、やっぱり時代背景が複雑だから理解するのが難しいところもあって……」

 「え? 俺も宮沢賢治の作品読んでも、全然理解してないけど?」

 「そ、そうなんですか?」

 「だって、イーハトーブがどんな世界なのか想像つきにくいし、又三郎の友人達が何を言ってるのか方言が強すぎてわからないし、ジョバンニとカムパネルラが見ていた世界が何を意味していたのか、全然わからない」


 今でこそ色んな異世界作品がありふれた時代になったが、現代に生きる俺からすれば、もう昭和初期ぐらいの日本でさえ異世界のように思えてしまう。競馬場に住んでいるって書かれていて、「コイツはそんなギャン狂なのか?」って疑問に思うこともある。


 「でも、なんとなく好きなんだ、世界観が。雰囲気だけはなんとなく感じられる。難しいことを考えるのは嫌いだが、それぞれの作者が持ってる独特の世界観が作中に垣間見えると、それに引き込まれる」

 

 と、俺はそれっぽく語ってみせるが、実際それっぽいことを意味ありげに語っているだけで、その世界を理解できていない凡人に過ぎない。


 「なんだか昴さんらしい考えですね」

 「それっぽく言ってるだけだ」

 「いえいえ。何だか、そういうのって音楽にも通ずるものがあると思ったので」

 「あぁ……まぁ、あれは最早言葉では教えてくれないからな。でも、言葉の壁に阻まれずに世界中の人に伝わる芸術ってのも悪くない」


 俺がなんとなく宮沢賢治の世界観が好きな理由は、結局世界観が好きという感想に行き着いてしまうのだろうか。

 それともまだ、俺の中には音楽を求めている誰かがいる……?



 「あれ、ツバル君に小春ちゃんだ」


 すると、突然聞き覚えのある声が耳に入った。神城と同時に振り返ると、ボリノこと幟琴乃が通路に佇んでいた。


 ど、どうしてボリノがここにいるんだ……?


 

 お読みくださってありがとうございますm(_ _)m

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