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翌日、登校すると、加奈が、おれの口の端が切れている事に気づいて「大丈夫?」と尋ねて来た。
女子の一人が、加奈に「話し掛けちゃ駄目」と伝え、おれから彼女を引き離したので、席へ向かった。
授業を受けている間、加奈が、おれを何度か見ていたけど、そちらは見なかった。
昨日、呼び出された倉庫の裏に、放課後になったら来るよう、伊月に言われていたからだ。
全ての授業が終わった後、倉庫の裏に向かった。
伊月の側に、峰希と唯次も居たので、昨日と同じ事が、これから始まるのだろうなと思う。
峰希と唯次が、おれを殴り、続けて、伊月が拳を振り下ろそうとした時、おれの前に頭一つ小さな影が割り込んだ。
影が、少し遠くに吹き飛んだのを目にして、そちらに視線を向ける。
「――加奈」
思わず、言葉にしていた。
彼女は、座り込んだまま、自分の右頬に軽く右手の平を当てて、伊月達を見た。
「何、考えてるの。敬吾を殴って、何が楽しいの」
伊月に視線を向けると、彼は今にも加奈を痛めつけそうな目をしている。
加奈と伊月の間に歩を進め、おれの後ろに居る彼女に「何してんだよ。帰れ」と声を上げた。
「敬吾が殴られてるのに、帰れる訳、無い」
「じゃあ、お前が代わりに殴られる?」
峰希が加奈を視界に入れ、唯次が「おれらは、どっちでもいいけど」と笑う。
黙っていた伊月が「お前ら、この女を押さえとけ」と峰希と唯次に命じた。
言われるまま、二人が加奈を無理やり立たせて、彼女の腕を押さえた。
「お前が抵抗したら、東堂さんを代わりに殴る」
伊月は本気だろう。
おれが伊月の方に歩み寄ろうとした時、峰希が「この女」と口にしたので、後ろを振り返る。
すねを押さえた峰希が、しゃがみ込んでいて、唯次は、その近くで峰希を見ている。
抵抗した加奈が、峰希の向こうずねを蹴って、とっさに拘束を解いたらしいが、彼女は、おれの傍まで来て、「逃げよう」と、おれの腕を掴んだ。
伊月が加奈の肩に手を置いた後、自分の方に引き寄せ、次の瞬間、彼女を殴ろうとしたので、反射的に加奈を伊月から引き離し、おれは彼を殴った。
加奈の手を取って、走り出す。
やり返される前に、加奈を、この場から逃がしたかった。