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自宅に入った後、リビングのテーブルの上に置かれた回覧板に気づいて、次の人に回さなければならないと思う。
家を出て、目的の家に行く途中、曲がり角の向こうから、貴利也の声がした。
「もう敬吾には関わるな」
加奈の声が「貴利也君まで、そんな事言うの? どうして?」と返す。
「危険なんだ。伊月は何をするか分からない」
「伊月君が危険な事と、敬吾は関係無いよ。敬吾と私は仲良かったんだし、また昔みたいに話したいだけ」
「とりあえず、今日は帰れ。おじさんは知らないんだろう?」
「今の高校に通いたかった本当の理由は、お母さんにしか言ってない。お父さんは、貴利也君が通ってる高校だから、転校したかったんだと思ってる」
「あんまり、おじさんに心配掛けるなよ。送るから、帰った方がいい」
少しの間の後、加奈が「分かった」と頷いた。
貴利也と加奈に、面識が有るらしい事は、会話で分かった。
二人が歩き出さない内に、違う道を行く事にする。
小学生の時、加奈に自分がした事なんて覚えていない。仲は良かったかもしれないけど、だから今も仲良く出来るかと問われれば、それは難しいと答える。
貴利也が加奈に話したように、伊月が何をするか分からないからだ。