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家の前に、父さんの車が停まっている事に気づいて、どこか違う場所で時間を潰そうかと考える。
母さんが死んでから、生活に必要なお金を置いて行くだけで、父さんは家に帰らなくなった。たまに帰って来ていると、どんな態度を取っていいか分からなくなる。
深呼吸して、自宅に入った。もし、何かの気まぐれや事情で自宅に戻って来たなら、今後は父さんと顔を合わせる事になる。逃げても無意味だ。
玄関に入ると、父さんが、靴を履いている所だった。
「……久しぶり。何か有ったの?」
おれの問いに、父さんは無言で、自分あての郵便物を見せる。
必要な郵便物が、自宅に届いていたから、父さんは、それを取りに来ただけなのだと推測しながら、脈拍が速くなるのを感じていた。
怖い。逃げたい。父さんと話していたくない。
父さんは、俺の顔を一瞥すると、興味が無いものを見たように視線を外して、玄関から出て行った。
分かっていた事だ。
おれが痣を作ろうが、怪我をしようが、父さんにとっては、どうでもいい事。
伊月達から殴られて、口の端は切れていたけど、それを見ても、父さんは何も言わなかった。
一生、このままだろう。
心配してくれるなんて有りえない。
父さんと、おれは、血が繋がっているだけの他人なんだから。