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敬吾けいごは、本当に金、要らねぇの?」

 高校に入ってすぐ、友人になった同い年の伊月いづきとは出会って半年だ。

 公園の植え込みの近くで、彼は数枚の万札を手にしながら、おれを振り返ったので、「ああ」と返した。

 伊月の後ろで、峰希みねき唯次ゆいじが、「ありがとうな」と言いながら、同じ高校一年生の貴利也きりやを殴った。

 医者の家系で、代々、金持ち。本人も文武両道で、外見も良い部類。貴利也は、運が悪かったのだろう。伊月達に目をつけられて。彼らから暴力を振るわれ、金を巻き上げられても何も言わず、貴利也は、ただ睨んでいた。彼と目線が合う度、伊月達を止める気力も無い、おれも伊月達と同罪だと思い知る。

 母さんが死んでから、父さんに首を絞められてから、自分の命が無価値と実感してから、何もかもどうでも良くなった。

 貴利也が伊月達に痛めつけられている所を見ていて楽しかった訳じゃない。母さんが生きている間、通わせて貰ったサッカークラブでは、同じクラスだった。家が遠かったし、学校も別で、一緒に遊ぶ事は無かったけど、クラブ内では気が合う方だったと思う。

 両親が試合の度に応援に来ていた貴利也は、怪我をして帰れば、労わってくれる家族が居るのだろう。そうではない自分が惨めに感じる。貴利也は、高校三年間、我慢すれば、後の人生は問題無く進むだろう。伊月達を諌める努力をした所で、伊月達の次のターゲットが、おれになるだろう事は、たやすく想像出来る。

 貴利也の代わりに自分が殴られる覚悟も無く、伊月達の暴力を止めさせる事は不可能だ。

 強く目を閉じてから、公園の入り口に視線を移す。

 唯次と峰希の暴行を、見ていたくなかった。

 その瞬間、まずいと思ったのは、七十代近い男性が、こちらを見ていたからだ。

 杖をつき、立ち止まっていた男性は、公園に入って来て、貴利也の顔を殴った峰希に近づいきながら「止めなさい」と声を上げる。

「人をいじめるなんて意味が無い。もっと、自分の命も人の命も大事にしなさい」

 唯次が馬鹿にしたように笑いだし、峰希も、それに続いた。

 ただ一人、伊月が険しい顔をしている。

「死にたくねぇなら黙ってろよ」

 伊月に、不愉快そうな視線を向けられて、男性は「君も、その子を殴ったのかね」と尋ねた。

 舌打ちした伊月が、男性を突き飛ばす。

 杖が遠くに転がり、男性は、その場に倒れる。

 とっさに体が動いて、伊月の前に立っていた。

「……老い先短いじいさん相手に、腹を立てたって仕方ないだろ」

 おれに言葉に「じじいには殴られてたからな。年寄り見ると、ムカつくんだよ」と、伊月が不愉快そうに返した。

 実の祖父から暴力を受けていた事は、伊月から聞いて知っていたので、「おじいさんと、この人は違うだろ」と返す。

 杖を拾って、男性に渡したら、目を見られた。

「お母さんが悲しむぞ」

 ひどい事をしている、おれ達に、本気で言ってくれているのだろう。でも、おれと伊月達には、悲しんでくれる母親など居ない。だから、「小三の時に死にました」と答えた。

 伊月達の母親は生きているけど、だからと言って子どもに関心が有るとは限らない。

 彼らが犯罪を犯した時、迷惑を掛けられたと毒づくぐらいはするかもしれないが。

 伊月が歩き出したので、おれも峰希も唯次も、公園から出た。

 男性が、貴利也に「大丈夫か」と声を掛け、貴利也が何か答えるのが聞こえたけど、内容までは分からなかった。

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