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過去に書いた作品です。
よろしくお願いいたします。
父に首を絞められたのは、母の葬儀の日。
おれと父以外に家に誰も居ない、深夜だった。
自宅の和室で母の遺影を見つめたままの父を心配して、二階の自室から階段を下りた直後、「お前さえ生まれなければ」という父の言葉と同時に、首を圧迫された。
病弱だった母が、おれを生んだせいで余計に体を悪くし、二十代後半で死んだのは、おれが小学三年生の時。
おれさえ居なければ、母は、もう少し生きる事が出来た。父が愛していたのは母だけで、おれは母以外の家族にとっては必要無い。
唯一、おれの事を愛してくれた母を、殺したのは自分だ。おれが生まれたせいで、母は寿命を縮めた。
抵抗する気も無くして、父の目を見た。
生まれて来て、ごめんなさいという気持ちだった。
父が、おれの首から手を離して、母の遺影の傍に行く。
微動だにしない父を見ながら、逃げる為に、玄関に向かおうとして、おれは倒れた。
呼吸が苦しい。意識が、遠のいていく。
唇だけが動いて、音にならない声を紡ぐ。
おれが生きても死んでも、誰も悲しまないだろうと思った時、涙が溢れて、今、呟いたばかりの言葉を繰り返した。
「誰も、おれなんか要らない……」
まぶたを閉じて、『誰か』からの返答を待ったけど、おれに関心の無い父しか居ない家では、静寂は肯定だった。
価値の無い命。
自分が、そうだと痛感しながら、それでも生きて行かなければならない事が、哀しかった。
最後の後書きまで、この後、前書きにも後書きにも何もコメントは書きません。
興味を持って頂き、ありがとうございます。