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しんしんと雪が降る

作者: 西順

 窓の外を見れば、しんしんと雪が降っている。しかしこんな擬態語を思いついた人間は天才だ。雪は無音で降っているのに、正にその情景を表すのに相応しい擬態語だから。


 対して私は、暖房の効いた部屋でコタツに潜り込み、斜向かいで同じくコタツに足を突っ込んでいる、彼氏のたっくんとみかんを食べながら、テレビでストリーミング配信のドラマを観ていた。


 観ているのは一昔前のドラマで、その中では男女四角関係で、男が女二人の間で揺れ動いていたり、女が男の気持ちが別の女に向かっている事に悩んでいたり、その女に別の男が優しく声を掛けてきたりと、恋愛するのも大変そうだ。


 対する私たちはと言えば、最後のみかんをどちらが食べるかで視線を交わし、それがじゃんけんに発展し、私が負けてすねて、たっくんがみかんを半分に割いて私にくれた事に、「ありがと」と返して仲直りだ。


 みかんが食べ終わればドラマも終わり、テレビを消して、軽くドラマの感想会から、今日あったあれやこれやへと話題がすり替わっていく。


 会社であったちょっとした良い事悪い事普通の事。会議でミスせず進行出来たとか、逆にこっちは取引先からクレームが入ったとか、誰彼はいつも彼氏が欲しいと言っているとか、そんな他愛のない会話が続き、少し喉も乾いたし、何か食べ物も欲しいと、冷蔵庫を漁るもめぼしい物が無い。そしてたっくんと交わされる視線。


「じゃんけん、ぽん!」


 今度はたっくんが負けて、雪が降る中、渋々コンビニに向かう事に。


「それじゃあ、アイスと飲み物よろしく。気を付けてね」


「ほーい」


 軽い返事をしながら、たっくんはコンビニに出掛けて行った。


 コンビニは家から10分と掛からない場所にある。店内を回って戻ってくるのを考えても、30分くらいだろうと思っていたのに、少し遅い。雪が降っているから慎重に歩いているのかな? と思っていたら、インターホンが鳴った。


 帰ってきたかと思ったけど、いつもならすぐ後に合鍵で入ってくるのに、その様子が無い。そしてまた鳴らされるインターホン。何か配達でも頼んでいたかな? と首を傾げるも心当たりは無い。恐る恐るドアに近付き、ドアの覗き穴から覗くと、向こうもこちらを覗いているらしく、目が合った。


「ひいっ!?」


 恐怖と驚きでドアから数歩下がると、


「しいな居るんだろ? 開けてくれよ。両手塞がっているんだ」


 とたっくんの声。…………おどかさないで欲しかった。両手が塞がっているって、どれだけ買い込んできたのか。そう思いながら玄関ドアを開けると、たっくんは大荷物を抱えていた。


「何それ?」


「いや、クジを引いたら1等が当たっちゃって。どうやらぬいぐるみみたいなんだけど」


 何をしているのやらと思いながら、私はたっくんからその大荷物を受け取り部屋に戻る。


「開けて良い?」


「良いよ」


 たっくんがアイスと飲み物の準備をしている横で、私が箱を開けると、中身は確かに可愛い女の子のビッグサイズのぬいぐるみだった。確か今期人気のアニメのキャラクターだ。


「たっくんこの子好きだったっけ?」


「う〜ん、まあまあ?」


 言いながらたっくんは濃厚チョコレートアイスと缶のサングリアを私の前に。まあまあ好きなんだ。


「結構大変だったんだよ。俺が1等当てちゃったから、後ろに並んでいた人たちが阿鼻叫喚で。しまいには譲ってくれないかって人まで現れてさ」


 人気作品は業が深いなあ。


「それで遅れていたんだね」


「そう言う事」


 たっくんはバニラアイスに缶の白ワインを自分の前に置き、アイスを一口食べながら、中々大変だったコンビニでの出来事を、順を追って話してくれたのだった。


 外はいまだにしんしんと雪が降っている。この積り具合だと、明日は電車のダイヤが乱れそうだ。半休とかにならないかなあ。


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