悪女だなんてとんでもない! 妹は聖女です
「お姉さま、それわたくしも欲しい」
そんな感じで姉の持ち物を欲しがる妹。
そう聞いて、まず最初にどういう印象を抱きましたか?
姉とお揃いの物を欲しがる可愛らしい妹? 微笑ましい?
それとも、図々しい?
幼いうちはお姉ちゃんと一緒がいいのねー、で済むそれも、しかし年を重ねていってなお続けば可愛い、では済まないのではないでしょうか。特に、毎回欲しがられる側の姉からすれば。
最初のうちは例えば――そう、お人形。そこからお洋服。アクセサリー。
それでもまだ幼いうちはいい。成長してしまえばどうせすぐ小さな服は着れなくなる。
姉のおさがりを喜んで着る妹、ともなればまぁ、家庭によっては安上がりな子、で済まされるかもしれない。
けれども成長してなおそれが続くと、周囲は何となく妹に違和感を覚え始めていた。
姉の着ている服を欲しがるのであれば、例えば最初から妹のための服を用意するにしても、姉と同じようなものを揃えればいい。けれども、似た色合い、似た雰囲気の服であってもそちらには目もくれず姉の着ている物ばかりを欲しがる、となれば……ねぇ?
そして姉から服を貰ったあとは自分の着ない服でも寄越すかと思えばそれはしない。姉は持っていかれるばかり。
アクセサリーだってそう。
それが例えば姉の誕生日プレゼントでもらったものであってもだ。
いいないいなお姉さまが身に着けてるそのイヤリング、とても綺麗羨ましいわ。わたくしもそれと同じものが欲しいわ。いえ、むしろそちらを頂戴?
そんな感じでねだられて、譲るしかない状況に持ち込まれる。
両親は別に妹だけを溺愛していたわけではない。むしろ妹の好みに合わせた服を仕立てたり、アクセサリーだって母と一緒に選んで沢山持っている。
最初の頃は微笑ましく見ていた両親も、度を超えたそれにいい加減にしなさいと苦言を呈する事もあった。
物だけで済めば、まだ可愛らしい話だった。
「お姉さま、お姉さまの婚約者のカイルロッド様、とても素敵な方ね。わたくし、カイルロッド様の事、お慕いしているの。ねぇお姉さま、わたくしに、カイルロッド様を頂戴?」
なんて言って、妹はとうとう婚約者まで奪ってしまったのだ。
これには両親も大激怒。
しかし家の繋がり上、あの家と縁を結ぶのはどうしても必要な事で。
両親は姉に謝りつつも、妹を正式な婚約者としてしまった。
さて、ここまでくれば前世の知識がある私だって「あーね」とか言いながら大体察する。
前世病院の待ち時間の間によく読んでたライトノベルでもそういう話あったし。
一時期やたら流行ってた異世界転生とかと並ぶように存在してた所謂ざまぁと呼ばれるもの。
ジャンルを問わず登場人物さえ揃っていれば可能なそれ。
例えばファンタジーものなら勇者の仲間だったのにお前は役立たずだと言われて仲間を追放された主人公が、実はとんでも有能なキャラで追放した勇者たちはその後主人公がいないせいで見事に転落人生、一方主人公はその頭角をめきめきと現して勇者以上にもてはやされたりだとか、バリエーション豊富なヒロインたちに惚れられてハーレム展開になったりだとか。
恋愛ものだと今のこの私の状況はまさに――
妹に婚約者を奪われたので〇〇
みたいなタイトルのラノベになってそうなやつ。
大体こういうのって婚約者もクソだし妹もクソだしで、落ち度もなく婚約破棄された主人公はその後もっと素敵なイケメンに見初められて溺愛されてとっても幸せ。えっ? 私を虐げてた連中? それはもう見事な転落人生送って不幸な人生でしたよ、みたいなものになってると思うんだけど。
作品傾向には多分、恋愛 婚約破棄 ざまぁ ハッピーエンドとかのキーワードがつくと思うやつだとは思うんだけど。断罪とかもつくのかしら? まぁそこら辺作品に寄るって事で。
ところが私、ざまぁをご所望ではない。
いやなんでよ、と読者の立場なら思う。そんだけの目に遭って素直に身を引くだけってふざけてんの? とか読者の立場なら思う。
けど待って。弁解させてほしい。
私と妹の仲は別に悪くない。
いやおかしいだろ妹絶対姉の事便利なカモとしか思ってないだろって思われそうだけど、私個人としては妹の事は嫌いではない。むしろ感謝している。
よーし私が妹に助けられたあれこれ、語っちゃうぞー。
そんなノリでお聞きください。
ところで人同士ならわかるけど、物にも相性がある、という話はご存じだろうか?
パワーストーンなんかだと聞いた事あるって人いるんじゃないですかね。
人によって明らかに効果がある、ってわかる感じで幸運を運んでくれるのとか、持ってるけど何の効果もないよ、って人とか。
相性が良ければ何かちょっとした良い事が起きたりするとか言われてるし、逆に相性が悪いと悪い出来事に巻き込まれたりだとか、っていう話は実際に体験したり耳にした事がなくても多分パワーストーンブームの時にそんな感じの話が漫画なり小説なりゲームなんかで使われてたように思う。
こう、ゲームだと悪い力を溜めこんで邪悪な魔物を生み出したりだとか、って感じだったり、少女漫画あたりだと友人が買ったパワーストーン、友人とは相性悪いけど代わりに主人公が持ってみたらめちゃくちゃ相性良くてラッキーな出来事連発、みたいな展開で友人がそのパワーストーンのラッキーさに主人公にあげようとしてたけどやっぱ自分で持っておくわ、とかで不幸な目に遭ったりするってのがあったようななかったような……
ただ、こういうのってパワーストーンに限った話じゃないんだよね。
それ以外の物にもそういう相性っていうのは確かに存在している。
最初は人形だった。
姉妹揃ってもらったやつ。
顔の作りはそこまでリアルじゃないから幼い子でも怖がらないタイプの可愛らしい感じの女の子の人形。
妹とお揃いで、違うのはお人形が着ているお洋服の色くらい。
でも、色だけなら別に着替えさせてしまえばいいだけ。
……だったんだけどねぇ。
当時既に前世の記憶を思い出していた私は、その人形になんともイヤ~な雰囲気を感じ取っていた。
なんだろ、可愛い見た目してるんだけど、悪意がにじみ出てるっていうの? 明確に言葉で言い表せないけれど自分だけが感じる嫌な気配。
でも貰い物だから、ケチつけるわけにもいかないじゃない?
いくらこどもの言う事って言ってもさ……単純にお人形あんまり好きじゃない、とか言えればよかったけど当時私も妹もお人形大好き、って感じだったからね。
だから誕生日にって事でお揃いのやつをプレゼントされたんだもの。
なのにこの人形だけはヤだ! とか言うのも親も困るし贈ってくれた相手にも失礼だし……ってなるじゃないよ。
けれども妹がその時そのお人形もいいな、お姉さまください、ってたどたどしい言葉ながらも引き取ってくれたの。え、いいの? 私これどうやって遠ざけようか考えてたのにそんなあっさり引き取ってくれるの?
と、これ幸いとばかりに私は妹に人形を押し付けた。
両親は「こら、お姉ちゃんの物でしょ」と叱っていたけれど、私は全然構わなかった。
私は人形を手放せてホクホク。妹は人形を手に入れてホクホク。
まさしくWIN―WINの関係。
ついでに両親からの私の株もちょっとだけ上がった。
次によくあったのは服だ。
とはいっても、何も妹は私の服を根こそぎ持って行ったわけじゃない。
例えば誕生日プレゼントだとか、何かの折に贈られてきたもの。パーティーに行く時に着るドレス。
妹が欲しいと言ったのは大体そういったやつだ。
いかにも高価なドレス! って感じのものが多かったから、これもまた両親が妹に苦言を呈したりもしたんだけど……
一つ、私の趣味じゃない。デザインはいいけど色はちょっと……みたいなやつ。
一つ、見た目は気に入ってるけどサイズがね……ってやつ。
一つ、見た目はやっぱり気に入ってるけど着心地があまりよろしくないなってやつ。
妹が欲しがるのは大体こういったものだった。
いやホントにね! ちょっと高価なドレスとかであっても、自分が気に入ってないのをそう何度も着たいとは思わないし、プレゼントしてくれた人には申し訳ないけれども、でもやっぱり好きな服着れるなら好きなの着たいじゃない?
あとサイズもちゃんと合ってるの着ないと結構苦しいのよね。
これがジャージとかスウェットとかならまだしも、ドレスだよ? サイズ違うともうね、胸とか腰とかおしりとかつらいの。それでなくともコルセット装着する事もあるのにそれでもまだサイズ違うとかさ、これ何の修行? ってなるからね。
そんな状態でパーティー行って踊れって拷問かよってなるからね。内臓口から吐きださないだけでもう褒めてほしい。むしろ息して動いてるだけで褒め称えてほしい。
もっというならその状態で笑顔浮かべて完璧にパーティー乗り切った時点で崇め奉ってほしい、とか思うくらいにサイズが異なるのは厳しい。
パッと見そこまででもなさそうなやつだから、言うに言えないのよ。でも着てわかる地獄の辛さ……
三つ目のも二つ目と似たような理由だけど、サイズがちゃんと合ってるからって着心地が良いものばかりとは限らんのですよ。
こう、ドレスを仕立てる職人の腕がですね、必ずしも一流とは言えない場合がありまして。
デザインはいいの。見てるだけならとっても素敵。うっとりするくらいで思わず「ほぅ……」と溜息吐いちゃうくらいに素敵なの。
でもね?
服って基本的に縫い目はどこにあるのってなると見えない部分じゃないですか。基本的に服の表側に見えないように裏側にくるじゃないですか。
その、裏側で縫われた部分、それがね、酷い時がある。
別に裏側なんて洗濯する時に引っくり返したりしない限り見ないよ、って事多いと思うんだけど、どんだけ糸往復させまくったのよ、みたいなやつとかがですね、あるんですよ。
お値段お高い布だから、簡単にほどけたりしないようにしっかり縫わねば、みたいな意識があったのかどうかはわからないけれど、糸の塊みたいなのがそのせいであたるのよ、肌に。背中があいてるドレスだと腰のあたりだとかでチクチク、背中のあいてないドレスだと背中にあたってチクチクゴワゴワ……
靴の中に小石入った時ってさ、すっごく痛いわけじゃないけどでも歩くたびに異物感あって気になったりするじゃない? あれに近い。
痛い! って叫ぶ程じゃないんだけど、なんていうかずーっと地味につつかれてる、みたいな感覚がある。
一度ほどいて縫い直すにしても、なんかすんごく頑丈に縫われてる感あってこれは……私がやるより使用人に任せた方がいいんだろうけど言いにくいなぁ……みたいなのを妹は欲しがるのだ。
ちなみに妹と私の背丈は若干異なるので私があたって痛いなぁ、気になるなぁ、って思う部分とはまた別の部分にあたっているのか、それとも妹はそういうの気にしないタイプなのかあげた後で文句が出てきた事はない。
妹の趣味に合ってるっぽいのだけ欲しいって言われてるみたいだし、私はもう着る事のない服を片付ける事ができてホクホク。
妹は欲しかった服をもらえてホクホク。
ほら、やっぱりWIN―WINってやつよね。
妹の好みはフリルとかレースたっぷりめのやつとか、リボン付いたやつとか、なんていうの? ゆめかわ? 甘ロリ? まぁそういう系統のなんだけど、私はほら、前世の記憶とか思い出しちゃうと何かそういうの今着るのはちょっと勇気いるなってなっちゃってね……見た目は好きなんだけど自分が着るのは……ってのもあるから。
気持ち的には学校卒業して何年も経ってもう結婚出産してるのに当時の制服着る、みたいな辱めを受けてる気持ちに近い。当時は着ていて当たり前だけど、そこから何十年も経ってたら何のコスプレよってなる感じのやつ。部屋着に高校時代のジャージとかはまだしも、外出する時に制服着て外行こうとはならないよね、流石に。
よって私が好んで着るのはどちらかといえば落ち着いた感じのデザインのやつだ。けど妹からすればそれは地味で可愛くないらしい。
私からすれば綺麗めの落ち着いたお姉さまが着るようなやつ、って感じで着こなせたら素敵って思うやつなんだけども。
はい次。アクセサリー。
これも妹は一杯ねだってきた。
いいなあいいなあお姉さまそれ頂戴。なんて言葉はもう何度も聞いた。
そのたびいいよいいよーって感じであげた。
大半は両親の交友関係とかそういった繋がりのある人物からの贈り物だったが、そんなもの知った事かとばかりにあげた。
いやあの、聞いてほしい。
まずイヤリング。
転生したこの世界にピアスがあるかは知らないが、あったとしても身体に穴を開けるとかいうのが貴族的に駄目とかいう可能性もあるのかはわからないけど、割と贈られる事が多いのがイヤリングだ。
あ、今更だけどうち伯爵家です。
つまり私は伯爵令嬢。
そういうわけで贈り物は何かの折にそこそこある。
そして増えていくイヤリング。
いや、そんなにいらんがな。そう思っても私の口から言うわけにはいかない。下手な事言って人間関係に亀裂入れたらと思うと言えないわ。むしろにこにこ笑って受け取っておけばそれだけで大体円満になるならそうしておくのが一番無難。
とはいえ。
貴族の家への贈り物だ。当然安物ではない。
つまり使われている宝石なんかは確実に本物だし、ましてや伯爵家ともなれば貴族の中でもそこそこの立ち位置。うちより上の位の貴族の家は勿論あるけれど公爵家侯爵家の数はそこまであるわけでもない。国の貴族の数を見て全体的な感じで見ればうちもそれなりに上の方にいる、って感じかな?
そんな本物の宝石をこれでもか、と使われたアクセサリー。地味に重たい。
いやあの、ネックレスとかはね、まだいいの。でもイヤリングはね、きつい。
何がって実際装着すると最初のうちはいいんだけど、時間経過とともに耳たぶが痛くなってくる。
えーとほら、あれ、あの……前世のアフリカの方とかそっち方面にある部族で首とかに金属の輪をいっぱい嵌めて長くしたりだとか、耳たぶに重さのある飾りをつけて耳たぶを伸ばしたりだとかっていうのがあったような気がするんだけども。
そっちはそれが魅力的だから、でやってるけど別にこっちの世界のこの国にそういった風習だとか美意識はない。
だがしかし貰い物のイヤリングは地味に重たいので長時間つけているとなんだか耳たぶがじわりと引き延ばされている感じがする。
正直あまりつけたくない。
でもそんな時! ここぞとばかりに妹がもらっていってくれるのだ!
ありがとう妹! ありがとう!! 私の耳たぶがいずれ千切れるかもしれない未来を救ってくれてありがとう!!
大袈裟? そんな事ない。
パーティーとかに参加するとね、ダンスとかもするから拘束時間がそれなりにあるのよ。そこでドレスも着心地悪い挙句装飾品も負担をかけてくるとなればまさに地獄。
靴に至っては言うまでもなくヒールのあるタイプだから足の先から頭の近くまでがじわじわとHPを奪いにきている。
ドレスが苦にならないタイプのやつならまだしも、贈られたやつを最低一度は着なければならない、みたいな時だともう最悪。華やかで煌びやかなパーティー会場は下手をすれば身体に重りという負荷をかけた修行場になりかねない。オラそんな夜会イヤだ。
ペンダントとかネックレスとかの首回り関係のアクセサリーも物によっては首を絞めてるような感覚のがあって、そういうのも妹はいいないいなぁとねだってくる。
そうなるとあげるよね。いいよいいよー、もってっちゃってー。
元々私首元締め付けるようなアクセサリーとか服とか好きじゃなかったしね。人様が着てるのを見る分には平気なんだけど。
そう、妹は基本的に私がいらないなぁ、でも捨てるわけにもいかないしなぁ、という処分に困る物を的確に見抜いてねだってくるのだ。えっ、もしかして私の心でも読めるの!? ってくらい的確。
他にもちょいちょいねだられた物はあるけど、そういうのも大体私からすればそこまで必要でもないし、といった物ばかりだ。自分が愛用している品ばかりをクレクレされたら妹と私の仲にも亀裂が入ったかもしれないけれど、幸いにもそういった事はなかった。
うちの料理長が作った新作デザートだとかも妹はちょっと多めにもらっていくけど、私は甘い物はそこそこ嗜むがガッツリ食べたい派ではないので是非とも多めに持っていってくれたまえ、となるしむしろ食べたら食べた分体重を気にしなければならなくなるので是非多めに持ってってくれ! となる。
妹は美味しそうに食べるね。ほら、私少しでいいからもっとお食べ。
そんな感じでお姉さま、って呼ぶ妹に私の皿から半分ほどを譲ってやればお互いにっこにこ。
けど両親はいつも妹を叱るのよね。なんでもかんでも欲しがるんじゃありません、って。
そりゃあ、よそ様にも同じようなノリでやらかしたら大変だからそういう躾は必要だけど、でも私と妹に関してはお互い合意の上だからそこまで叱ってやらないでほしい。これで妹が遠慮して私が処分に困る物を持て余したらどうするんだ。
それに、根こそぎ奪い取られてるわけじゃない。私の気に入ってる服はあるし、装飾品だってある。それ以外の生活用品だって私は私の使いやすい物が手近にあるから何一つ困っていない。食事だって、私元々そこまでがっつり食べられないからむしろ妹が持ってってくれた後の量が丁度いいくらいだ。
ところで決定的な件が起きたのは、まぁ言うまでもなく婚約者だ。
カイルロッド。
彼は侯爵家の人間で、私の婚約者であった。
まぁ、外見は整ってる方だと思う。身分良し外見良し内面良し能力良し、とここまでくれば本当に実在してる人間か? と疑いたくもなるような男だ。
うちは一応弟もいるから跡取りは弟で決まっているし、私と妹はいずれ嫁に出て家の繋がりを強固にするための――いわゆる政略結婚の駒だ。
前世の価値観が政略結婚とかいつの時代だよ、とうんざりしているけれど、しかし同時にこの家に生まれた以上はそれが当然である、という教育の結果の常識のようなものもある。
けどまぁ、一応カイルロッドの事は嫌いではなかったし、生理的に無理とかいうわけでもなかった。恋をする事はなくとも愛はそのうち芽生えるかもしれないな……くらいには思っていた。
悪い人ではないんだろう。
ただ、私とは性格合いそうにないなぁ、と思うのも嘘ではなかった。
一応婚約者だからね、そりゃ何度か顔合わせたりするわけですよ。話をしたりもするわけですよ。
侯爵家の跡取りだけあって頭は悪くない。頭の回転が早いのかどんな話題振ってもソツなく返してくる。
ただなんていうか……一緒に仕事するなら上司とかにいてほしいけど、夫として考えると何かなぁ……と思ってしまったのだ。いや、素敵な相手だと思うよ。むしろ私にはもったいない程の。
というか身分的に向こうのが上だからね。うちの財産の何かが向こうの家のお眼鏡にかなって縁談結ばれたみたいなものだし。私からとやかく言う事ではないのはそうなんだけど。
表向き貴族令嬢なので私も普段はキリッとしている。しているけど、中身がコレという時点でお察しいただきたい。
何かそのうち化けの皮剥がれるっていうか剥がされそうだなー、なんて考えるとちょっとだけ気が重たかった。夫予定の人の顔と声がとても良いけど、私これ真正面から受けて立たなきゃならんの? いや無理。せめて液晶画面持ってこい。画面越しに会話させろ。
そういうわけで、私としてはこの婚約者、不満はないけど自分が至らな過ぎて気乗りしなかったのだ。
なんて贅沢な。自分で言っててほんとそれ、ってなる。でも気を抜ける場所がなさそうって考えると仕方ないかなとも思うわけで。
けど、そこに救世主が如く現れたのが、そう! 妹!!
まさかここでも妹が名乗りを上げてくれるだなんて思ってもいなかった。しかも妹はカイルロッドの事が前々から好きだったらしい。なんてこった! それなら尚更妹の方が婚約者に相応しいじゃないか!
勿論私は喜んで譲った。どうぞどうぞ。
両親はとても難色を示していたが、愛のない結婚と少なくとも片方に愛がある分そのうち絆されるかして愛が芽生えそうな結婚なら愛が芽生えそうな結婚のが良いではないかお互いの家のために。
私は特に何か不祥事起こしたりしたわけじゃないけど、婚約破棄して改めて妹と婚約しなおすとなると私の立場が悪くなるぞ、とか言われたけど……そもそも私の立場ってそんなあった? 悪くなるとかいう以前に、あの、ゼロに何掛けてもゼロ理論で特にあるわけでもない立場が悪くなってもそれ、元々底辺では?
まぁ、確かに外聞が悪いとかは認める。
うーん、じゃあ私、病気が判明したとかそういう感じで家に引きこも……るわけにもいかないか。数日ならまだしもずっとは流石にな。
あ、じゃあ家から出て修道院とかそういうところ行くのはどうだろう。
修道院での暮らしはここよりずっと質素、と言われたけれどそりゃそうでしょうよ。
でも私、そもそもあまり脂っこい食事は好きじゃないし、なんていうか味も薄味が好きなのよね。修道院とかむしろ私の食生活的に向いてる気がする。
あと前世がやっぱり庶民だから貴族の暮らしをずっと続けてるのもそこそこしんどい。
両親が選ぶ修道院ならそこまで劣悪な環境でもないだろうし、いっそそっちに私が行くのがベストなのでは?
なんていう己の事しか考えてないようなことをそのまま話すわけにもいかないので、それっぽい感じに脚色した結果とっても悩んだ末に両親はしぶしぶではあるが私を修道院へと送り出す事にしたらしい。
ちょっと遅いが花嫁修業……うぅむ、みたいに父が唸っていたのは笑うしかない。
そんなこんなで私は妹の結婚式をその目で見る事はできないだろうけれど、幸せを祈ってるぜ!
ってな感じで修道院へと意気揚々旅立ったわけなのだが。
数年後、手紙が届いた。
その内容は、妹が悪女として投獄される事が決まった、らしいんだけど……
えっ!? 妹は私にとっては聖女も同然なのにどうしてそうなった!?




