お祝い紛糾です
教えてもらえなかった者達の中から、連名での祝儀に参加しないと言い出す者が現れた。
「本人が結婚するわけでもないし、何の報告も受けてないのに何故お祝いしなくちゃいけないの」
「何も言ってない人が知っててお金送ってきたらかえって恐縮するよね」
既婚者達はこの流れを見て互いの顔を見合わせた。
それまでは対岸の火事とまではいかなくとも、年長未婚者達の怒りは他人事だった。結婚していて良かった、と口に出す者はさすがにいなかったが、内心密かな優越感にひたった者もあったかもしれない。とはいえ、ほとんどの者は小山の上手とは言えない立ち回りにせいぜい嘲りの目を向けていた程度だった。
既婚者達も互いに相談を始めた。
個人的に付き合いがあると言って個人でそれなりの金額を包むつもりでいる者もいた。それでも、ほとんどの者が職場全体で少しずつ出しあって祝儀としてなんとか格好の付く金額にして職場一同で渡せばよい位の腹積もりだった。
それなのに、教えてもらえなかった年長未婚者全員が「出さない」となると既婚者一人当たりがそこそこの負担をしないとそれなりの金額にならない。ただ誰も彼も小山の娘にそこまでの思い入れがあるわけではない。
あわてた既婚者達が思いついたのは、<報告を受けなかった者が出さないのであれば、受けた者が全員出せばよい>だった。
職場には数は多くはないが、小山の娘より年下の同僚もいた。小山は未婚であろうとなかろうと彼女達全員に「今度うちの娘が結婚するの」と告げていた。彼女達を数に入れて自分達の負担額を減らそうという思い付きだった。
常日頃の小山との関係の薄さを考えるとさすがにそれは気の毒だという理性ある判断でその計画は立ち消えたはずだったのだが、暴走した一人が年若い同僚を捕まえては説教口調で
「小山さんがせっかく教えてくれたのだからあなた達もお祝いを出さなくては」
「娘さんは会ったことがなくても小山さんにはお世話になっているでしょう。」
と年長者風をふかせたものだから、言われた方は反発した。
「そりゃ教えてもらいましたけど、それでお祝い出せなんて言われなきゃいけないんですか。怖いです」
「今度、娘が結婚するのよ、ってそんなの雑談程度に聞いてましたけど」
年若い同僚達は小山に対してよりも、おのれらの出費を抑えるために自分達が巻き込んだ既婚者達に不満を持った。
数日経って、年若い同僚達は集団で不参加を表明した。
「小山さん、意外と若い人に人望なかったのね」
自分の行動は棚に上げて、暴走した当人が小山をそしった。