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ハツカノデイズ  作者: ほしの
13/28

四章「走り出す想い」3

 体育祭当日。


「おっ、常盤は初っ端からやる気満々だな」


「そうでもないよ。平常運転さ」


「そんな半袖半ズボンでガチ勢の恰好をして何を言う」


 半袖シャツを袖を肩口まで捲った秋田がバンバンと僕の背中を叩く。


 僕は自陣のグラウンドに置かれた自席に座り女子の方を眺める。


 椅子を持った芽衣がやってきた。


「なんだなんだ、出渕もガチ勢ファッションでやる気満々じゃないかよ」


 学校指定のジャージを身にまとった芽衣は上下ともに裾を捲っている。


 秋田の基準がわからないがたぶんサイズが合わなかったから裾を調整しているだけだと思う。


「ふふっ、私も頑張るからね。クラス優勝目指そうよ」


「その意気だ。よっしゃ! 俺、アップしてくるわ!」


 秋田はグラウンドを走り始めた。まだ開会式も始まってないのに元気だなぁ。


「おはよう、芽衣。やっぱりぶかぶかだね」


「零児君おはよう。男の子のは大きいね」


 芽衣のジャージのペンキ汚れは落としきれなかったのでに素直に閉店間際のクリーニング屋に駆け込んだがこの手のクリーニングは時間が掛かるらしい。


「おはよう、出渕さん。あら……それ、常盤君のジャージだよね」


 涼し気な顔をした三好さんの顔が一瞬だけ眉間に皺を寄せていた。


「あ、うん。私のジャージはクリーニングに出しちゃったから。ジャージが無いから参加しないつもりだったんだけど皆に迷惑掛かるかなって」


「ふーん……常盤君には迷惑をかけてもいいのかしら?」


 芽衣と三好さんの会話に割り込むように話しかける。


「僕が迷惑だと思ってないからいいよ。実はここだけの話なんだけど芽衣のジャージに悪戯されててね。困ったもんだよ」


「それは大変ね」


「ところで三好さん今日は気合入ってるね。ピンクのマニキュアつけてるの?」


 はっとしたような顔をして指先を眺める三好さん。自分の指先が何もついていないことに気づき半眼を向ける。


「気のせいだったみたいだね。今日は良い天気だから反射してただけだったみたい」


「常盤君が変なこと言うから気になっちゃたじゃない。手を洗ってくるわ」


「ひぃぃ……笑顔が怖いよぅ。ありがとうね、零児君。……中学の時、三好さんの意見に反発した子が不登校になったんだよね。でも私には零児君がいるから大丈夫だった。ありがとう」


「いいって。それより、常盤って書かれたジャージを芽衣が着てると結婚して家族になったみたいだね」


「にゅぇ? そ、そ、そんな。ま、まだ早いよ。……やっぱり上着だけでも脱ぐ」


 芽衣の一言に男子の視線が一気に集まる。


「芽衣には僕のジャージを着てて欲しいな。僕の所有物になったみたいで嬉しいんだ」


「零児君……うん、わかった。えへへ、私は零児君の物なんだねぇ」


 お前ら……芽衣の巨乳は僕だけのものだ。




「ふー、玉入れと大玉転がしは無難に終わって良かったよ」


 むしろ接戦にしかならない種目なので結構オーディエンスも盛り上がるんだよな。


「お疲れ様。冷たいスポーツドリンク飲む?」


 水筒に入れたスポーツドリンクを差し出す芽衣。


「ぷはぁ、いつもに増して美味しく感じるね」


 昼休み。グラウンドの日陰にレジャーシートを敷いて芽衣と昼食を取る。


「クラス優勝も出来るんじゃないかって秋田君も張り切ってたよ」


 応援団でもないのにエール合戦に参加している秋田。部活の声出しで使ってるメガホン持参してる。


「それも芽衣が一位獲ってくれたからじゃない?」


「借り物競争でたまたま簡単な物だったからだよ。それよりも約束通りお弁当作ってきたから一緒に食べよう」


「本当に! やったこれが一番の楽しみだったんだよね」


 今日は気合いが入っているのか重箱を用意してきている。


「ん?」


 ふと、同じようにグラウンドで昼食を取っている生徒の視線を感じる。その視線の中にクラスメイトと食事をしている三好さんもいた。目が合うと小さく手を振ってきた。


「見られてるね。私達」


 芽衣が背中を丸めて前髪を触る。


「他にもカップルで食べている人もいるし、別にやましいことしてないからいいでしょ?」


 むしろ見てほしいくらいだ。僕と芽衣がいちゃつく姿を。

 この際だから皆に認識させてやりたい。僕と芽衣の関係性を。


「私は零児君の隣で肩を並べてもいいのかな?」


「それを判断するのは第三者じゃないくて芽衣自身だと思うよ」


「私自身が?」


「そ。芽衣はどうしたい?」


「……零児君隣にいたい。誰にも渡したくない」


「じゃあ僕の隣は芽衣の特等席だ。おいで」


 僕の隣をポンポンと叩くと笑顔で座り込む芽衣。


「重箱、僕が開けてもいい?」


「うん、早起きして頑張ったから零児君にたくさん食べて欲しいな」


 僕達は芽衣の手作り弁当を堪能したので午後も頑張れそうだ。




 ついに二人三脚走の種目時間となった。


 出番が刻と迫り、次は僕たちの出走時間である。


「うぅ……ついに出番だね。緊張してきたね」


「秋田には申し訳ないけど順位なんてどうでもいいから転ばずに完走しよう」


「そうだね……ここまで来たからにはやり遂げたいね」


「赤組の人は赤のハチマキを足に結んでください」


 体育祭の実行委員の人から芽衣は赤色のハチマキを受け取る。


「あ、はい。じゃあ、零児君結ぶよ」


「おっけー。痛っ」


 芽衣がきつくハチマキを結んだ瞬間に鈍痛が足首に走る。


「っ、痛い。え? なんで?」


「なんだよ、これ……中に画びょう入ってんのか?」


 ハチマキの内側に巧妙に画びょうが何個も入っていた。


「おいっ、お前! 何でこんなことを……」


 実行委員の男に向かって叫ぶが振り向いてはくれない。


「位置について……よーい……」


「やばっ、もう始まる」


「と、とにかく画びょうを何とかしないと」


 僕達は慌てて画びょうを取り出す。くそっ、大量に入れやがって。


 お互いの足首から血が流れている。まずは止血をすべきだ。


 スタートガンの音で一斉に走り出す他のクラスの選手達。


 僕らだけ取り残されてスタートラインで立ち尽くしてしまう。


「これは棄権をして保健室に行こうか」


「零児君……やだ。私わがまま言うね。逃げたくない。負けたくないよ」


 立ち尽くしいた芽衣が両手を握る。握った掌が震えている。


「……何に対してかわかってるのかい?」


 曖昧な芽衣の言葉に真意を問い詰める。


「わからない。けど、零児君の恋人であるためにかな?」


「そんな嬉しいこと言われると彼氏としては応援したくなるじゃないか。行こう」


 僕は芽衣の肩に手を回す。すると芽衣も頷き僕の肩に手を回した。もう他の生徒に追いつくことは出来ないだろう。それでも僕らは肩を並べ歩みを始めた。


「「いっち、にー、いっち、にー」」


 痛っつ。まだ画びょうが残ってやがった。


 でも、赤のハチマキなら流血してもばれやしない。


 誰かに止めれらることもないだろう。それよりも画びょうで生地が脆くなってるから破かないように気をつけないと。


 周りの生徒は僕らのあまりの遅さに失笑の声や野次が聞こえる。


 それでいい。僕らを見てくれ。こんなに仲のいいカップルだとうことを知らしめるいいチャンスだ。


 不思議な感覚だ。あれほど息の合わなかった僕らの歩みがぴったりと揃う。


 お互いを思いやって支え合う心奇跡を起こしているかもしれない。


 残り数メートル。結んだハチマキの激痛で足元がおぼつかないが芽衣の肩をぎゅっと抱き寄せ力を籠める。


「常盤! 出渕! あと少しだ!! 頑張れ!!!」


 秋田がゴールで両手を広げてアピールをしている。


「「いっち、にー、いっち、にー」」


 そして僕らはゴールテープを切った。


「よっしゃー!!! ゴール! お前ら最高の走りだったぞ」


 ダントツで最下位だったけどね。


「秋田、暑苦しいよ」


 バンバンと背中を叩く秋田を宥め、次の走者のために横に逸れ、その場に座り込む。


「なんかお前らの走り見てたら熱く込み上げてきちまってさ……俺の中では一番だったぜ!! 見てろよ! 最後のクラス対抗リレーでお前らの熱い思いに応えてやるぜ! うぉぉおー!!」


 全速力で走り去っていく秋田に二人で手を振って見送る。


「ゴール、出来たね」


 芽衣と満面の笑みでハイタッチをする。


「まさか本番でやり遂げるとはね。この運命の赤い糸のおかげかな」


 僕は赤いハチマキを指さして微笑む。結び目をほどくと流血しているお互いの足が。


「そうかもね。おかげで運命の赤い糸は切れることがなかったね。恋のキューピット様に感謝しなきゃ」


「どうせ我関せずって感じで高みの見物してるだろうけどさ。文句の一つでも言ってやるか」


「別に良いって。それより早く怪我を手当てして秋田君の応援しようよ」


「そうだね。行こうか」


 ほどいた赤い糸の代わりに僕らはお互いの手を絡めて歩き出した。


 この後、秋田の奮闘でクラスリレーは一位となったが総合優勝には及ばなかった。秋田は悔しがっていたが来年こそはと張り切って走り込みを始めていた。野球より陸上やった方がいいのでは?


 余談だが僕らの二人三脚走の様子や仲睦まじく秋田を応援している姿を見て僕らが付き合っているのではという噂が更に広まり始めた。


「出渕さんは常盤君と付き合っているの?」


「うん! 零児君と付き合ってるよ。大好きなんだ」


 芽衣がクラスメイトに僕と付き合っているかと質問をされて自信を持って付き合っていると答えてくれた芽衣の成長に喜ぶ僕であった。


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