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あなたの部屋に私のパンツ干してもいいですか?  作者: さかき原枝都は
はじめましての彼女は可愛いと思った。

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第89話 ずっと愛し続けているよ ACT10

「ねぇ繭ちゃんこっちの方はどうかなぁ」


「ちょっと待ってくださいよ水瀬さん、試着していないのまだこんなにあるんですよ。それに試着持ち込み3着までって書いてあるじゃないですか」

「あはは、ごめんごめん、だってさぁ、繭ちゃんに似合いそうなのいっぱいあるんだもん。ついさぁ」


ああ、暇だ。もう一時間近く俺はこんな状態だ。


服選びは水瀬に任せて、俺はあの二人の仲から1歩いや5歩くらい遠のいて今、店の外のベンチに座りボーと焦点の合わない視線を宙に浮かばせている。

しかし、何故こんなことに、これほどまで女と言うものは夢中になれるんだろう。正直理解に苦しむところだ。


服なんて、目に付いていいと思ったら買う。そんなもんじゃねぇのか。

まぁでもあの二人がそれで楽しいんだったら、それでもいいんじゃねぇのか。


ああ、煙草吸いてぇ。


ちょっくら喫煙室にでも行ってくるか。まだ彼奴らはかかりそうだからな。

立ち上がり喫煙室に行こうとした時、水瀬に呼び止められた。


「先輩どこに行こうとしてるんですか? 先輩も見てやってくださいよ」

「あ、いや、俺は遠慮しておくよ。服の事なんか分かんねぇし」

「なに言ってるんですか、せっかく繭ちゃんを先輩好みにしてやってあげてるのに」


「な、何で繭を俺好みにしなきゃいけねぇんだよ」

「はぁ?」怪訝そうな顔をする水瀬。


「説明が必要なんですか先輩? まったく朴念仁(ぼくねんじん)て言う言葉は先輩の為にあるんですね。いいから来てください」

水瀬の手が俺の手を取り、無理やり店内に俺を連れ込んだ。


何故、俺がこの店の中に入りたがらないでいるか。それは女性服専門店だからだ。店頭にはばっちり露出度の高いビキニを着たマネキンがいやおうなしに俺の視線を引き込ませている。


そんなところをこんなおっさん野郎が店内を うろうろしていたら、他の女性客のその視線は冷ややかなものでは済まない事くらいわかり切っている。


しかもその行先は真っすぐ試着室だ。

何となく店内を歩く時の視線が痛い。


「ねぇ繭ちゃん、先輩連れて来たよちょっと見せてみて」

「えええ、浩太さん来ちゃったんですか? 恥ずかしんですけど」

「何言ってるのよ、私のコス衣装着て見せたじゃない、それに比べたら何のことはないでしょ」


カーテンからひょこッと頭だけを出して、物凄く恥ずかしそうにしながら繭は言う。


「浩太さん笑わないでよ」

「ああ、笑わねぇよ」

「ホントにだよ」

そう言いながらカーテンを開けた。


そこに映る繭の姿は今までそっけない残念なプリント柄のTシャツと、学校の制服姿しか見ていなかった繭のイメージを覆ってしまった。


「それでさぁ、これとこれをね、替えると意外と雰囲気変わるんだぁ。だからさぁ、最終的にはこの3着だと思うんだけど」


さすがは水瀬だ。ほかの服とも合わせられるようにコーディネートしている。これなら、3着で組み合わせ次第でもっと雰囲気を変えることが出来る。

でもなんて答えたらいいんだ。可愛いとか、すげぇ似合っているとか。なんか口にするのも恥ずかしい言葉しか浮かんでこねぇ。それを今ここで口に出すほど、今の俺には勇気はない。


何とか出た言葉が「いいんじゃねぇか」ただそれだけだった。


もう少し気の利いた言葉があってもいいんだろうけど、それが精いっぱいだ。

「もう、それだけですか? 先輩。もっと気の利いた言葉ないんですかねぇ」

なじる様に水瀬が言う。


「でもこれってどれも少し派手じゃないですか?」

「いいの、繭ちゃんまだ若いんだからこれくらいのがちょうどいいよ。それに元がいいんだからもっと自信持ちなさいよ」


「そ、そうですか……。でもこれ全部買ったら凄い金額になりますけど、私そこまで払えないです」


「あ、予算の関係かぁ……、ごめんねそこまで考えていなかったわ」


「それなら、心配すんな。俺が繭にプレゼントしてやる」

「えっ! そんなの悪いです」


「いいんだ、俺、今までお前に何も買ってやったここなかったし、それに毎日世話になっている俺からのささやかな気持ちだ。素直に受け取ってくれ」


「でも、それは私たちが決めたことだったんでしょう」


「ああ、でもなぁ……なんていうかさ、うまく伝えられねぇんだけど、こんな形でしか俺はお前に感謝の気持ちを返すことが出来ねぇんだよ。だから何も言わずに俺の気の済むようにさせてくれ」


「ふぅ―ン先輩の気持ちねぇ。いいんじゃない、今年の夏のボーナスも私よりかなぁ――――り沢山もらっているんでしょうからね」


嫌味か? 水瀬。まぁ確かにお前よりはもらっているのは確かだけどな。


まさか浩太さんがそんなことを言ってくるなんて思ってもいなかった。

私たちは確かにお互いの食費を折半して、私が冷蔵庫を使わせてもらう代わりに食事を作るという約束である意味、共同生活的なことをおくってきていた。

それで、私は貸し借りなしと言う感じでいたんだけど、浩太さんはそれ以上に私に感謝していると言った。


そこまで私は浩太さんに尽くしてはいないつもりだったのに。


「でも駄目だよそんなことしちゃ。私が気が引ける」

そっと水瀬さんが小声で言った。


「甘えちゃえば」


「えっ、いいの?」

「でないと私も甘えられないでしょ」

水瀬さんはニコットしていった。


「浩太さん本当にいいの?」

「ああ、そうさせてくれ」

「ありがとう」


お店のロゴが付いた大きな取っ手付きの紙袋を手に取り、その袋を見つめていた。

「どうした繭」


「ううん、なんでもない。浩太さん……あのね、この服着て先生の所に……」


その後の言葉が胸がいっぱいで続いて出てこなかった。

そんな私の頭に、そっと浩太さんの手が触れた。

その手の感じがとても懐かしく思えた。

少し上を見るようにして私はにっこりとほほ笑んで、浩太さんの顔を見つめていた。


「うん。友香も喜ぶと思うよ、繭のその姿を見たら」


その浩太さんの言葉には、寂しさも、悲しさももう感じられなかった。

もうじき本当の別れを迎える二人なのに、それでもこうして浩太さんと友香さんはその悲しみを表に出さない。


ううん、もう十分悲しんだんだと思う。


この5年間と言う悲しみを乗り越えたんだ。きっと。

でも私は友香さんの最後の時、浩太さんの傍にいてあげたい。

きっと、彼の心は本当の悲しみに包まれるはずだから。



先輩と繭ちゃんの二人の後姿を、私はゆっくりと歩いて眺めていた。

二人のそのほほえましい姿を。


私は先輩の事が好きだ。……愛している。


でも最近私の中に変化が出て来た。

「本当に私は先輩の事を愛しているのか?」と言う疑問符だ。


社内コンテスト、私はこのコンテストにエントリーした。それは先輩に認めてもらいたいという思いからだった。

でも、自分で構築したシステムに奥深く入り込んでいくたびに、私はこう思うのだ。


先輩と一緒に仕事をしていた時の充実感とは違う、何か自分に対する欲と言うのだろうか。それとも山田浩太と言う先輩を超えたいという願望なのか。

今私の中に、愛する人への思いと、その人を超えたいという欲が絡み合っている。


もし、私が先輩を超えたとしたら、その時私は先輩を愛せていられるんだろうか。


その逆に、そんな私を先輩は私自身の素の姿を愛してくれんだろうか。

多分、もうこれまでの先輩後輩の関係は崩れ去る時が来る時期に来ているのかもしれない。


今のこの想いは本当の愛なのか。


まだその結果は出ていない。


だけど……。


私の心は今、新たな道に進みたがっている。

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