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あなたの部屋に私のパンツ干してもいいですか?  作者: さかき原枝都は
はじめましての彼女は可愛いと思った。

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第66話 一歩前進。そして……二歩後退 ACT5

朝、俺はコーヒーの香りで目覚める。

なんともまぁ洒落た目覚め方をするようになったと思う。


前まではぎりぎりまでベッドから出ることなんかなかった俺だ。

それがあの香ばしい香で目覚めると、テーブルにはしっかりとした朝食の支度が出来上がっている。

ふと変な錯覚を抱いてしまう。


「俺は何時、結婚したんだろうか……と」


キッチンに見える女性の姿。

「おはよう」と彼女の後ろから声をかけると

「おはよう」と彼女が振り向き、俺に朝の笑顔を投げかけてくれる。


思わず彼女を抱きしめたくなる衝動を、じっとこらえる。


「浩太さん、早く食べちゃって。もう時間ですよ」

彼女は、俺を急かしながらも、その笑顔を絶やさない。

胸の中からこみあげるこの温かい気持ちを、大切にしまい込んで俺は、彼女の作った朝食を口にする。


そして、一通りの準備が終わると彼女は

「はい、お弁当」とにっこりとほほ笑んで俺に弁当を渡してくれる。


この温かい風景を俺はいつまで見て、感じていることが出来るんだろうか。


いつまでも続いてほしい。そんな淡い気持ちと欲望が俺の中から、湧き上がる。しかし、いずれは彼女はこの俺から巣立つ時が来るんだろう。


巣立つ……俺は彼女の保護者でもなんでもない。

そんな言葉を使ってはいけないんだ。……でも、今の俺にはそのほかの言葉は見つからない。


「繭、お前も急いだほうがいいぞ、もうこんな時間だ」

「あ、いけない。私も準備しないと」


朝食を急いで食べ、「私準備してくるから」と(きびす)を返し、三和土(たたき)に向かいサンダルを履き自分の部屋へと戻った。


相変わらず慌ただしいな。


俺は腕時計をちらっと見て、まだ幾分の時間があるのを確認してから、ベランダで煙草に火を点け、「ふぅ―」と息を吐くように白い煙を吐き出す。


繭の部屋のベランダのサッシも開いていた。


「どうだ、仕事大分慣れただろう」


繭は水瀬から貰った化粧品で、最近は化粧して出勤するようになった。

化粧と言っても彼奴が言うには日焼け防止程度だ。と言っている。


高校生がどぎつい化粧をするまでもない。俺も繭もそう思っているところはなぜかは分からん。

彼奴にはまだ、大人にはなってもらいたくないという、俺の思いも込められているのかもしれない。


「えへへ、大分ね」


ちょっと照れ笑いをしたような声が帰ってくる。

「そうか、あんまり無理するなよ」

「……うん、ありがとう。でもね、楽しんだぁ。なんだか毎日が充実しているような感じがしてるんだぁ」


「そうか、良かったな」

「……うん」


ピンポン! 俺のスマホにメッセージが来た。

水瀬からだった。


「先輩、おはようございます。私先に行っていますよ。遅刻しないでくださいね。……今日も頑張りましょう!」


最近水瀬も仕事にはかなり前向きになって、頑張っているその姿を見るのが俺は何となく嬉しい。


煙草を吸い込み、空に目掛け吐き出しながら……、俺は思った。


今、一番充実しているのは……


この俺なんだと。



部屋のドアにカギを閉めると、繭が自分の部屋から出て来た。


自分の部屋に鍵を閉め、にっこりとほほ笑みながら

「さぁ、いこっかぁ。浩太さん」

少し大人びた感じがする繭のその姿。


髪はまた伸びていた。肩にかかるか、かからないかの長さだった髪は、今はもう肩より先によりも伸びていた。


さらさらとした少し赤茶けた髪。前髪を分け、ピンでとめている。

うっすらと施した化粧のせいだろうか、雰囲気が変わって見える。


「んっ? どうかしたのかな浩太さん」

繭は俺をちょっとおちょくるように言う

「いやなんでもない」

それに乗ることなく軽く流してそう返した。



駅前までのほんのわずかな距離を、俺たちは二人そろって歩き始めた。

「今日も暑くなりそうだね」

「ああ」

特別何を話すわけでもない。

そしてすぐに繭のバイト先に着く。


「それじゃ」

「ああ、頑張れよ」

「うん、浩太さんも」

そのまま私たちはすっと何事もないように別れる。



そんな私たちを出勤してきた阿久津さんが少し離れたところで見ていた。


「おはよう梨積さん」

「あ、おはようございます阿久津さん」


「もしかして今の梨積さんのお兄さん?」

「え、あ、違いますよ」

「ええ、それじゃ、彼氏とか?」


「彼氏……」その言葉にちょっと詰まりながら、「違いますよ、まったく!」と笑ってごまかす。


……ごまかす?

浩太さんは私の彼氏……じゃ、ないよね。


「ふぅーん」と鼻を鳴らし阿久津さんは、何も言わず従業員用の入り口のカギを開けた。


「さぁ、今日も頑張ろっかぁ! ねぇ、梨積さぁん」

にっこりと言う阿久津さんは、早々に制服に着替えに入った。


早番の仕事は意外と多忙だ。

オープン前にやっておかないといけない業務はたくさんある。

その業務を阿久津さんは鼻歌を歌いながら、にこやかに卒なくこなしている。


そうしている間にマネジャーの杜木村さんが出社してくる。

杜木村さんはいつものように早朝から店頭に並ぶ菓子を作り上げている職人さんたちの所で、たわいもない話をしながら状態を確認する。


先に洋菓子店舗の方がオープンする。

すでに冷蔵ショーケースには作り上げられた洋菓子が並べられていた。

もうじきカフェの方もオープン時間を迎える。



「おはようございます先輩」


「お、おう。なんだまだ終業開始前だぞ、キーボードなんか打って何やってんだ」


「えへへ、あれですよあれ!」


そう言いながら水瀬は、壁にでかでかと貼り付けられたポスターを指さした。


「エンジニアリングコンテスト」


今回会社としては初の試みのコンテストを開催した。

参加は自由、強制はなし。


SEでなくとも社内の各部署から参加が出来るよう、企画からシステム構築、運営まで幅広い内容のコンテストが開催されている。


このコンテストに水瀬はエントリーしていた。

若手社員にとっては自分をアピールするには、もってこいのコンテストだ。


最も会社側としても若手の士気を高めたい、と言う目的もある。


このコンテストの告知前、部長のマリナさんからは「今度こんなコンテスト開催することになったら」と、まぁ、相変わらずただそれだけで、内容に関しては確認しておけと言う感じだった。


「うーん、企画運営まで関与できるんだ。俺もやってみようかな」


そんなことをぼっそり部長の前で言うと

「あら、浩太は参加しちゃ駄目よ!」

「ええ、何でですか? 参加自由ってあるじゃないですか」


「あなたみたいに出来る人が参加したら、若手の人たちなんか太刀打ちできないでしょ。賞金全部浩太がかっさらうの目に見えてるんだから、みんなやる気なくしちゃうしぃー」


と、にこやかに俺にとげをグサグサと刺しながら言われてしまった。


俺を認めてくれているのは嬉しいが、ああ、俺はもう若い奴らとは一線を置かなければいけない立ち位置にいることが、何となく虚しかった。


「水瀬、まだ締め切りには時間あるんだから、始めからそんなに飛ばしていると後でばてるぞ」


「なに言ってるんですか先輩。私は今まで誰の下に居たと思ってるんですか?」


「それはどういう意味で俺は取ったらいいんだ水瀬」


「どういう意味って、若干27歳でプロジェクトリーダーに昇格した若きエースのもとでしごかれたんですから、これくらい平気ですよ」


おいおい、それはなんだ? 俺がお前をこき使っていたというふうにも取れるんだが……ま、それでも水瀬の目が輝いている。そんな彼奴を見ていると「ガンバレ!」と応援したくなってくる。


本当にお前は頑張ったよ。


この俺の下でな。


今の俺には水瀬、


お前の存在はかけがえのない存在になっているんだから……。


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