第64話 一歩前進。そして……二歩後退 ACT3
「あ!」
いけない浩太さんまた拒否反応……。あれ?
また起きるのかと思っていた反応が全く違っていた。
抱き着いた私の髪をクシュッとして
「おいおい、そんなに感激することか」と、言った。
やっぱり浩太さん、あの拒否反応出なくなっている。
治ったのかなぁ。克服できたのかなぁ……、水瀬さんとも……。
「ん? どうした繭」
「あのね、浩太さん私に抱き着かれてなんともないの?」
「あ、そう言えば。なんともねぇな」
「治ったのかなぁ」
「どうだか」
「治ったんだったらよかったね」
「だから、分かんねぇよ。もしかしたらお前の事、女として認知してねえのかもしれねぇし」
「ええええ! それって酷いんじゃない!! こんなにも可愛い女子高生に女じゃないなんて言うの」
「ほほぉ、お前自分で可愛いって思っているんだ」
「いけない?」
「いや、十分可愛いと思う。でもよう、いい加減俺の足踏むの止めてくれねかな。いてぇんだけど」
「えっ! あ、ごめん」
浩太さんの体から、離れた。
「ふぅ」と一つため息をつく浩太さん。
「でもようさっきお前の部屋で俺、さんざんお前の事抱いていたんだけど」
そう言えばそうだ。さっき私は浩太さんに強く抱きしめられていたんだ。
それを思うと顔が物凄く熱い。
「なに急に顔赤くしてんだ繭」
「だって抱いていたなんて言うんだもん。そのぉ……別な意味にも取れるし……」
「ば、馬鹿、そういう意味の抱くじゃねぇよ」
「分かってるけど、ほら、……んっもう」
ちょっとむっとして見せた。
その私の姿を浩太さんは……、浩太さんのその瞳は優しく、そしてあたたかく私を見つめていた。
「ねぇ有菜、アルバイトの許可申請って事務課? それとも担任なの?」
「んっ? 繭たんアルバイトするの?」
「うーん、思いがけず決まちゃって」
「ええええ、いいなぁ、いいなぁ。私も繭たんと一緒にバイトしたいなぁ。ねぇねぇ、どこなの?」
「ほら、駅前の洋菓子店。そこのカフェなんだけど」
「ああ、あそこかぁ。制服可愛いよねぇ」
「うんうん、私もあの制服に憧れて行ったんだけど、始めはカフェの方からだって、多分カフェの制服って白いカッティングシャツに黒のズボンだと思うんだけど。でもスタイリッシュでちょっとカッコいいかなぁって」
「いいなぁいいなぁ、私もバイトしたいよう。繭たんと一緒に夏休み過ごしたいよう」
「じゃぁ、書類届けないといけないから、その時一緒に行ってみる?」
「うんうん、行くよ! あ、アルバイトの申請用紙だったね。用紙は事務課にあるよ。一緒に取りこうよ」
有菜と一緒に事務課に行きアルバイトの申請用紙を申し込んだ。
事務員さんが丁寧に書き方を教えてくれた。
「あ、これってお店の署名と捺印が必要なんですね」
「そうですね。それがないといけないですね。すべてを記載出来たら、あとは担任の先生に提出してください」
「はいわかりました。ありがとうございます」
んー、結構めんどくさいなぁ。
有菜もちゃっかりと自分の分を貰っていた。
「どうしようかなぁ。雇用契約書もう書いたから今日お店に行ってみようかな」
「うんうん、そうしようよ、私もその時アルバイト申し込んでみるから」
「それじゃぁ、一緒に帰ろうか」
「うん、繭たん」ニコッと有菜は微笑んだ。
その時後ろから、担任の三島先生が私を呼び止めた。
「おーい、梨積」
「はい、なんですか? 先生」
「もう帰るところだったのか。間に合ってよかったよ、ちょっと俺に付き合え」
「ええ、先生、なんですかいきなり」
「わりぃな、個人面談だ」
個人面談? 何だろう?
「先生、そうやって繭たん基、梨積さんを口説こうなんてしていませんか?」
「馬鹿か、沢渡! そんなことしたらせっかく手に入れた教職の道が閉ざされてしまうだろう。そんなことはしねぇよ!」
「ええ、でもさぁ先生その年になっても恋人もいないじゃないですかぁ。手っ取り早く生徒に手を出すなんて言う行為も十分に考えられますよ」
三島先生は、有菜のこめかみあたりにこぶしを添えて、ぐりぐりとこぶしを押し付けた。
「おまえなぁ、そこは触れてはならん領域だ。これはお仕置きだ。梨積借りていくぞ」
「いたたた! もう先生暴力反対!」
「なはは、暴力のうちにも入らんぞ」
そう言いながら私と三島先生は面談室へと向かった。
「わりぃな急に呼び出したりして」
またあえて、こんなことを言うには何か込み入った話なのか?
それも仕方がない。私は保護されている身なんだから。
「まぁ、手っ取り早く話すとだな。神奈川の福祉課からお前の近況報告提出しろってきてさ、まぁ適当に書いてもいいだが、一応お前の方からも今の状態を聞いておきたくてな」
「今の状態ですか?」
「なんか状態なんて言うと弊害があるかもしれんけど、まぁそんなことお前を見ていると落ち着いていることくらいは感じ取れるんだけど、実際はどうなんだ? 何か困りごととか不安になっていることなんかはないか?」
私ははっきりと答えた。
「何もないですよ」
「そうか、それならいいだけどな」
「あ、そうだ。先生」
「ん、どうした?」
「私夏休みからバイト始めるんです」
「バイト? 始めるんですて言う事はもう決めているぽいな」
「はい、もう採用してもらいました」
「それは気の早いことで、で、どこなんだ。いかがわしいところじゃねぇだろうな」
「そんな先生が思っているような、いかがわしいところじゃないですよ」
持っていた雇用契約書を先生に見せた。
「どれどれ」と何気なくその書面を見て
「げっ!」と一言。
「あのぉ……何かありますか?」
「あ、いや……そのなんだ、ここ自体は問題ないと思うんだけど」
ちょっと先生の顔が引きつっていた。
「もしかしてここの店長ともう話してあるん……だよな雇用契約書まであるんだから」
「あのう、店長と何かあるんですか?」
「彼奴何か言っていなかったか?」
「何も言っていませんでしたけど。先生どうしたんですか」
「ふー、ま、いずればれるだろうしな。ここの店長、杜木村って言ってただろ。俺の彼女なんだ」
フーン先生の彼女……。えっ! 先生の彼女!!
「嘘、本当ですか? あのマネジャーさんが先生の彼女なんですか」
「すまん梨積。これはここだけの話にしておいてくれ。まだ他の奴らには知られたくねぇんだ」
「べ、別にいいんですけど。それじゃ、バイト申請受理してもらえるんですよね」
「ま、いいんじゃねぇか。お前もそうやって何かを始めようとしているんだ一歩前進て言うところだな。福祉課の昭島さんには前向きに頑張っているって報告しておくよ」
「よろしくお願いします」
「それはそうと鷺宮さんには会えたのか?」
「はい、昨日会いに行きました。思ってたより元気そうで安心しました」
「……そうか。良かったな」
でもその言葉を口にした先生の表情は少し曇っていた。
「ま、世間は意外と狭いというか。人はやっぱりどこかで必ずつながっているんだと実感したよ」
この言葉がこれからの私に大きく関わることになるとは今は、まだ私は何も知らない。
そして、浩太さんにも大きく関わっていたという事も……。




