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あなたの部屋に私のパンツ干してもいいですか?  作者: さかき原枝都は
はじめましての彼女は可愛いと思った。

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第57話 遠からずも俺の傍にいろ ACT5

「はぁ―、なんだか急に静かになちゃった」


有菜が行ってから、浩太さんもご飯を口に急いでかっこんで、朝食を終えさせた。


「ああ、ひげ剃らねぇとやべぇな。不精ひげで行くと姉貴うるせぇからな」

「おねぇさんって、そんなに怖い人なの?」

「ああ、おっかねぇぞぉう! なにせ、俺が言う事訊かねぇとプロレス技かけてくるからな」


「……プロレス?」


「ああ、おかげで腕の骨にヒビ入れられたことあるくらいだ」


おお! この浩太さんがそんなにビビるなんてすっごい怖い人なんだ。


「あのぉ先輩」


脱衣所の洗面台でひげをそっている浩太さんに水瀬さんが、遠慮気味に話しかけた。


「なんだ水瀬」

「もしよかったら、途中まで一緒に行きませんか? 私も今日実家に行こうかなって思ってたんです。コスの衣装持ってきたいのあるんで」


「コス? ああ、コスプレの衣装か」

「ええ、今度イベントがあるんですよ。それに参加してみようかと思ってその衣装なんですけどね。手直ししないといけないので」


「ねぇねぇ、水瀬さんどんな衣装なの? やっぱりアニメのキャラなの?」

「んーあれはオリジナルかなぁ。高校の時に作ったんだけど、手直しして雰囲気変えようかと思ってるの」


「見てみたいなぁ」

「そうね、もってきたら、繭ちゃんに手直し手伝ってもらおうかなぁ。いい?」


「いいよ、もち!」


「ありがと」にっこりとほほ笑んだ水瀬さんの顔が幸せそうな顔に見えた。


「ところで水瀬、お前神奈川のどこら辺なんだ?」

「あ、私の実家平塚なんですけど」


「平塚? そうか、姉貴も平塚なんだ。偶然だな。出来過ぎるくらいに。まぁ深い意味はねぇんだけど、ちょっと姉貴の所に寄ってみるか?」


「ええ、おねぇさんの所に私もですか?」


「ああ、出来ればなんだけどな、俺一人ブラッと行ったら姉貴、俺の顔見たとたんにラリア―トでもくらわせそうだし。お前がいりゃ、何とか回避できる。それに甥っ子に誕生日のプレゼント選んでもらえるとありがてぇんだ」


「えええええっと私ちょっと帰って準備して来ます。先輩まだ時間ありますよね」


「ああ、でも急げよ。来なかったら俺迎えに行くから」

「あ、はい、それじゃ」


今度は水瀬さんが慌てて飛び出して行っちゃった。


ひげをそり終えた浩太さんが台所に来て、空になったカップにサーバーに残っていた珈琲を注いで


「わりぃな繭、なんだか急に慌ただしくなちゃって」

「別にいいよ。でもみんな大変だね。お休みなのに忙しそうで」


「はぁ、しょうがねぇだろ」

そう言いながら、水瀬さんにやったように私の頭に手を載せて、髪の毛をクシュッとさせた。


なんだか恥ずかしいけど、そのしぐさがとても温かく感じた。


「今日はお前どうするんだ? 何か予定でもあるのか」

「ううん、これと言ってないけど。あ、そっかぁ」


「なんだよ」


「うん、あのね、前の学校の担任の先生が学校辞めて実家に戻ってきているんだって、体あんまりよくないらしいからお見舞いにでも行ってこようかな」


「神奈川のか?」


「うん、でも先生実家こっちの方なんだって、今の担任と知り合いだったらしくて、住所聞いたからちょっと行ってくるよ。大分お世話になった先生だったから」


「そうか、それじゃ気を付けてな」

「うん、浩太さんも」

「ああ……」

「ラリーアートおねぇさんから掛けられない様にね」

「あはは、まったくだ!」


そう言いながら、ベランダに行って浩太さんは煙草に火を点けた。

ふぅ―と白い煙を吐き出しながら。


「なぁ繭」

「なぁに?」


「もうじき夏だな」

「そうだね。て、言うよりもう夏だよ」

「そうだな。今度、海にでも行ってみるか」

「海? どうしたのいきなり、海だなんて」


「ヘンか?」


「ああ、もしかして私の水着姿見たいんでしょ」

「馬鹿ちげーよ!!」


「ふんどうだか、現役女子高校生の生の水着姿、まじかで見られるもんねぇ。何なら下着姿だったら今ここでなってあげるよ」


「おいおい、おちょくるんじゃねぇ―の」

「あはは、ばれたか! うん、行こうよ海」


「そうだな」


また煙草の煙を吐き出しながら、空を見上げた。

浩太さんはベランダで煙草を吸うとき良く空を見上げる。


その目はどことなく悲しげだ。


「時間大丈夫?」

「ああ、もう行かねぇとな。水瀬の所によって行くかぁ」

「女は時間かかるもんだから、そこんとこわきまえてよ」

「まったく、お前って言うやつは。本当に高校生か?」


「てへ、……多分ね」


「なんだか久しぶりに見たような気がするよ、お前のその締まりのない、にヘラとした笑顔」

「まったくもぉ! 早く行って」


「はいはい、もう行くよ。それじゃな繭」

「行ってらっしゃい。浩太さん」


バタンとドアが閉まり、浩太さんも出かけて行った。


さぁてと、後片付けしちゃおう。

流しに立ち、食器を洗いながら、なぜだろう……、変だな。

涙が止まらなかった。


誰もいなくなった浩太さんの部屋。

私一人きりだ。


後片付けも終わり、何気なく浩太さんのベッドに座った。

枕の下よこのシーツを手でなぞる。


さらりとしたシーツの感触が手に伝わった。

何となく浩太さんの温もりをその手に感じながら、私は立ち上がり自分の部屋へと行く。


ハンガーに掛けていた制服のスカートのポケットから、担任から受け取ったメモ書きを取り出し広げてみる。


「いきなり行ったら迷惑かなぁ」


そんなことを呟きながらも、私はあの先生の所へ行くことを決意する。

過去に触れることになるかもしれない。


忘れようとしていることに、また出くわすことになるかもしれない。

それでも私には鷺宮先生(さぎのみやせんせい)は特別な人だった。

学校を辞めなければいけないほど、具合が悪くなったことは、私にとってかなり心に響いている。


もともと、体が弱かった先生。それなのに私に毎日会いに来てくれて、勉強を進めさせてくれた恩は返してあげたい。


いま、私は何とか頑張っているんだという。この姿を見せることで……。


私服にしようか、それとも今の学校の制服にしようか迷ったけど、今の私を見てもらいたい。それならば今の学校の制服の方がいいかもしれない。

最も私が持っている私服は、プリント柄の格安シャツくらいしかない。


私服に着替え、髪をとかしながら鏡に移る自分の顔を見つめた。

どことなく暗い感じが否めない。

かといって、メイクしようにも化粧品なんてない。


ま、しょうがないか。


今のありのままの私を見てもらいたい。それでいい。



そう、今の私を。あの頃の私じゃなく今ここにいる。



梨積繭(なしつみまゆ)の姿を……。


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