第42話 浩太の過去
「うふふふふふふふふふっ」
「あのぉ、水瀬さん! ちょっと不気味なんですけどぉ」
「えへへへへへへえへ!!! そうぉ? 何が不気味なんでしょう」
「人格変わってません?」
「いいえ、変わってないと思いますけどぉぉおお」
会社から帰ってきた水瀬さん。どかに何かを投げて来たのか? それとも会社に置き忘れて来たのか、帰ってきてからパソコンに向かいニマニマしながらディスプレイにかじりついている。
私が見たって何にも分からないんだけど、水瀬さんからしたら禁断の領域にようやく足を踏み入れることが出来たという、優越感丸出しのオーラが発散している。
「あのぉ、もしかして今晩もここに泊まるつもりですか?」
「あら、いけないの?」
「いや、別にいけない訳じゃないんですけど……」
「大丈夫。先輩こんな状態だから何もないわよ。心配するようなことなんてしないと思うし……多分だけど」
その多分だけどの所だけがなぜか、遠慮気味に聞こえるのはなぜだろう!
「繭ちゃん明日は学校行くんでしょ?」
「んーどうしよっかなぁ」
「何悩むことあるのよぉ、行きなさい! ずる休みはあんまりよくないわよ」
おいおい、それを言うなら水瀬さん、あなたこそ今日はそうだったんじゃないのか?
まぁでもこうやって仕事しているんだから、これも社会人の特権と言いうやつですか。
確かにねぇ。浩太さんこの状態じゃ、水瀬さんに何かしようなんて出来ないでしょうけど。べ、別に何かあったってわ、私には関係ないことなんだけど。
でもなんだかちょっと腹が立つのと、苛つく気がするのはなぜだろう。
確かにさぁ。私と浩太さんはそんな、れ、恋愛関係とかそう言うんじゃないことくらい……分かっているよね。繭、うん分かっているよ、私と浩太さんは単なる共同生活しているだけなんだから。と自分に言い聞かせないといけないのが腹立たしいい。
「ううん……」
浩太さんがうなりながらむくっと起き上がった。
「お、浩太さんが起きた」
「あれ、水瀬お前何でここにいるんだ?」
「へっ? 何でって覚えていないんですか?」
「なにをだ?」
「えーとですね長野さんと部長がここに来て、私がここでリモートで先輩の業務をするっていう事なんですけど。覚えていません?」
「いや、何も……あ、そう言えば長野が来ていたのは何となく記憶にあるなぁ」
「先輩もしかして熱下がりました?」
「あ、なんだか物凄く楽になった感じがする」
うんんん、やっぱり効果ありありだね。だってさぁみんなが出た後浩太さん気を失うようにして寝ちゃうし、物凄く苦しそうだったから特別特効薬やったんだ。
でも本当に効くとは思わなかったよ。
案外キスって物凄く効き目いいんじゃないのかなぁ。
水瀬さんには内緒なんだけどね。
ピッピッ
「うーん、まだ熱あるけど、朝ほどじゃないね。38度。朝なんか40度超えだったから、それからすれば大分楽になったんじゃない」
「そうか、40度超えてたか」
「何か飲む? それともお腹空いてる?」
「うーん、まだ食欲わかねぇ。でも喉はカラカラだ」
「よかった。何とか水分は補給できるようになったんだ」
スポーツ飲料をコップに入れて渡すと浩太さんは一気に飲み干した。
「ああ、まだ喉に沁みるけど、ほんと楽になったよ」
「ええ、先輩回復しちゃうんですかぁ!!」
「なんだよ、俺が具合よくなると何かまずいのか?」
「だってせっかく、リモートで先輩のパソの中開いて、業務が出来ると思ってたんですけど」
「おいおい、俺の中身全部開けれるようにしたのか」
「ええ、でないとここで業務出来ないですから。でも、このフォルダパスワードロックかかってるんですよねぇ。何か気になるんですけど」
「あ、それは……そのフォルダは開いちゃいけない奴だ。会社の重要機密事項があるからな」
「ええ、そうなんですかぁ。意外とそのパスワード単純だったりして」
そう言いながら水瀬さんが打ったパスワードが見事にヒットしちゃった。
「あ、開いた」
「なにぃーーーー!! 閉じろ今すぐ閉じろ。ぜったーーーーいに見ちゃいかん」
「えーと……えっ! 何これぇーー」
ゲーム発売情報
「恋するナースの夜事情」○月○日特典付き
「オフィスでやっちゃいけない恋の仕方」○月○日
以下省略……。
「あのぉ、せ・ん・ぱ・い。これが会社の機密事項なんですか?」
「あーなんだかまた熱が上がってきた。もう駄目だ……もう俺は寝る」
ああ、浩太さん崩れちゃったよ。
「まったくもう、会社でこんなこと検索して保存してあったなんて、あ、もしかして仕事私に放り投げて、自分はエッチなゲームとかのサイト巡りやっていたなんて言いませんよね」
「言いません。これはあくまで休み時間に検索して一時保存していたデータだけだ」
「ホントですか?」
「ホントだ、嘘は言わん」
「そうですか。なら先輩がやった後、私に貸してくださいね」
にまぁーとしながら水瀬さんが言う。
「え、怒らないの?」
「だって私もこっち系のゲーム好きですもん」
「あ、そう言えばお前も持っていたな。なーんだそれじゃ心配する必要なかったじゃないか。心配して損した」
「でもぉ……。部長に見つかったら大目玉ですよこれって。気を付けないと」
まったく、二人ともこういう事には意気投合できるんだ。てか、水瀬さん、先輩の趣味にドンピシャはまりだよね。
こんな二人がもし結婚なんかしたらどんな家庭になるんだろう。
二人で夜な夜なイロゲーをする夫婦?
なんだか想像しただけでも笑えるわ。
お似合いだよね。やっぱり。
でもさぁ、浩太さんどうしてこんなにも2次元にはまっちゃんだろう。
俺は”オタク”だ! なんて言っていたけど、何となく無理しているような気がする。
生身の女性を受け付けないのは、何か原因があったのかもしれない。
多分、浩太さんの過去に何か大きな出来事があったんだと思う。
あなたを知れば知るほど。あなたの心の痛みがなぜか、私の中に入り込んでい来るのはどうして?
私も前は……辛く悲しい思い出しかなかったんだよ。
本当に私の心は枯れていた。
でもあなたに出会えたから、またこうして潤う事が出来始めている。
教えてほしい……あなたにどんな過去があったのかを。
私はあなたをもっと知りたいから。




