第36話 繭と水瀬……俺はついで ACT1
雨はまだ降っている。そんな感じはすぐにわかった。
「先輩! 先輩!」
なんだろう水瀬の声が聞こえているような気がする。
うっすらと窓辺に移る雨の雫が、窓に流れる様子がなんとも物悲しい。
ここはどこだ?
寝ているのは分かる。でも俺のベッドじゃない。
「先輩!」
その声にはっと気を取り戻した。
俺は寝ていたのか? ふと時計を見ると4時を過ぎていた。
「やべぇ!」
ようやく今自分がどこにいるのかを思い出した。
雨宿りのつもりで入ったラブホの一室。
水瀬に風呂に入って体を温めるように言った後、俺は眠ってしまったらしい。
2時間は寝ていたのか……。
「もう、先輩私がお風呂から上がったら寝ているんですもの」
と、水瀬の姿は下着姿だった。
「お、お前、その恰好」
「ああ、いいんです先輩なら下着姿見られたってかまいません。コスの延長だとでも思ってください」
コスの延長ったって、下着には変わりがない。
でも見方を変えれば、水瀬がコス衣装を着ている方がもっとエロイかも。
「それより先輩いい加減帰らないと、みんな心配しますよ。特に部長は待っていると思いますから」
「そうだよな、まだ雨やみそうにないけど、とにかく帰らないと」
体をベッドから起こそうとした時、グラっとあたりがゆがんだ。
「大丈夫ですか先輩」
俺を支え心配そうに声を水瀬はかけた。
「先輩体物凄く熱いですよ。もしかして熱あるんじゃないですか?」
熱? そうなのか。俺熱上げているのか? 熱なんて上げたの何年ぶりなんだろう。こんな感じになるんだ。
「とにかく私服着ます。ここにこのままいてもどうにもならいですから、まずは出ましょう」
「ああ、そうだな」
何とか水瀬にささえられて、ホテルの外に出たが雨はまだ降っている。
運よく通りかかったタクシーを拾い、俺と水瀬は乗り込んだ。
水瀬は迷わず俺のアパートの住所を言い、会社には戻るつもりはなかったらしい。
正直、もうすでに俺の意識はもうろうとしていた。
「先輩付きましたよ。動けますか?」
「ああ、すまん水瀬」
鍵を出そうとしたがドアは開いていた。繭が来ているんだろう。
「どうしたの?」
水瀬に抱えられるように俺は部屋に入る。
「先輩熱あるんです。どうしたらいいのかわかんなくて、とにかく出向先から真っすぐここに帰ってきました」
「なんか見た目にもやばそうに見えるんだけど。浩太さん大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ少し横になれば落ち着くだろう」
クシュン!
「水瀬、お前も風邪ひき始めているんじゃないのか? 本当に大丈夫か?」
「ええ、っと……多分……大丈夫だと思うんですけど」
「あのぉ、水瀬さん、大丈夫だと思うんですけどって、どういう事?」
「なはは、私もさっきから寒気がして止まらないんだよね」
「いったい二人で何してたんですか? もしかしてずっと裸でいた訳でもないでしょうに……」
ギク!!
ぎゃほん、ぎゃほん
「あれ、浩太さん咳も出て来たんだ。とりあえず熱測んないと」
そう言っている間に、今度は水瀬さんがぺたんと床に座り込んだ。
「ありゃまぁ、水瀬さんも相当具合悪そうですね」
「ごめんね、繭ちゃん。なんだかグラグラと目が回ってるんだぁ」
「う――ン、これは困った。私ひとりじゃなんともならいかも」
繭はスマホを取り出してどこかに電話をかけているようだ。
ああ、ダメだ、頭の中がガンガンと痛い。
「あのぉ、繭ですけど……」
「あら、珍しい、と言うかあなたがこうして連絡よこすっていう事は、何か緊急事態でも?」
「あ、さすがマリナさん。実は浩太さんと水瀬さん熱上げて今ここで二人とも倒れているんですけど、私ひとりじゃどうしようもなくて」
「えええっ! それ本当なの?」
「ついさっき水瀬さんに抱えられて浩太さんが来たんですけど、その水瀬さんも熱上がちゃったみたいで。忙しいと思いますけどヘルプに来ていただけませんか?」
「分かった、今から行くけど何か必要なものある?」
「ああ、そうですね、冷却枕もう一つ欲しいかなぁ」
「うん、少しの間頑張って」
「ええ、お願いします」
て、もしかして今繭が電話していたの部長なのか?
何で繭が部長と直接連絡取れるんだ?
まぁ、この際今はどうでもいいかぁ。
さぁてと、どうしよっかなぁ。
とりあえず浩太さんは自分のベッドに寝ていてもらって、水瀬さんは、ああ、布団布団。納戸から布団を取り出してとりあえずそこに寝てもらおう。
「ごめんね繭ちゃん」
「こういう時はお互い様ですよ水瀬さん。さっ、布団に寝てください」
水瀬さんの体を起こそうとした時、ふわっとお風呂上がりの様な香りがした。
んっ? もしかして……。
「とにかく服脱ぎましょう。今私のスエット持ってきますからね」
「うん……」
と、浩太さんの方は。
「浩太さん起きれます? 浩太さんも服脱いでください、スエット出しておきますから、着替えてください」
「ああ、すまん繭」
うむ? 浩太さんからは石鹸の様な香りはしない……、どっちかと言うと浩太さんの匂いが濃いぞ!
まぁいいかぁ、二人とも大人だし……。でもやることできたのかなぁ?
何私心配してるんだろう……。馬鹿じゃない。
部屋から自分のスエットを持ってきて、水瀬さんに渡すと
「繭ちゃんの匂いがするね」
なんて言うからちょっと恥ずかしかった。
二人の着ていたものをハンガーに掛けて、とりあえず浩太さんから熱を測った。
うむむ! 38度だ。で水瀬さんは……、ピピ! あ、こっちも38度だ。
もう、二人とも同じね。
ほんとこの二人何してきたんだか。抜け駆けはなしって言ってたのに、まぁいいかぁ。
そしてふと見る水瀬さんの髪型。
あれぇ、水瀬さん髪切ったんだ。色も明るくなって……、そっかぁ、水瀬さん本当に浩太さんの事。
だよね。
高校生の私と浩太さんなんか釣り合わないよね。
それに私の体は……、汚れている。
そんな私なんかこんなに優しい浩太さんなんかと……。
水瀬さんの方がよっぽど相応しいよね。
あれ、変だなぁ。
涙が溢れてきている。何で私泣いているんだろう。おかしいよどうして、当たり前の事じゃない。私がただ勘違い、ただ舞い上がっていただけじゃないの。
私は恋する資格なんてないんだから。
私は……私は……。
えっくっ、えっくっ。
ドアを叩く音がした。
開けるとマリナさんがいた。マリナさんのその姿を見た私は、抱き着いて泣いた。
「ごめんね、遅くなちゃって……繭ちゃん」
「マリナさん、私ね……私ね」
「うん、うん。とりあえず落ち着こうか、ねぇ繭ちゃん」
マリナさんは私の頭を優しくなでてくれた。
もし私におねぇさんがいたらきっと……こうしてくれたに違いない。
私のこの心の傷を少しでも癒してくれる人が……私は今必要なんだと思った。




