第21話 水瀬愛理 ACT2
「あれぇ―、先輩彼女いらしたんですね」
いきなりそこを突くか! 水瀬。
「あ、いや……彼女って言うんじゃ……その」
ほら見ろ、しっかり手繋いでいるところ見られてたんじゃねぇか。
こんな状況見たら、俺ら付き合っているって言う感じにしか見えねぇだろ。
さぁ、いい訳いい訳、どんな言い訳をすれば此奴が納得してくれるのか。
ジワリと汗がにじみ出る。
水瀬は繭の顔をじっと見つめるながら、一言呟いた。
「……か、可愛い」
はぁ、そうですか繭は可愛いですか……、確かにかわいいわな。
「せ、先輩。この子とどういう関係なんですか?」
そら来た、俺と繭の関係を聞き出しに来たぞ。どうする?
「あ、初めまして、私浩太おにいちゃんの従妹なんです」
「従妹?」
「そうなんですよね。てへへへ」
繭のはにかむように、何となくわざとらしい笑顔がムズイ!
おお、繭、前に交わした約束を見事に遂行しているじゃねぇか。
「そうなんだ、俺の従妹でさぁ。今日スマホ新しいの欲しいからって、選んでやってたんだ」
「ふぅう――ん、そうなんですね」
何となく疑心そうに俺の顔を見つめる水瀬。やっぱり顔に出ているか?
「先輩にこんなにも可愛い従妹がいたなんて、信じがたいですけどね」
「それはどういう意味で言っているんだ水瀬」
「別に深い意味なんてないですよ」
ニコット笑う水瀬、会社じゃ見せないその表情にドキッとする。
意外と可愛いじゃねぇか水瀬のやつ。
「それで、お前は今日は?」
「え、わ、私ですか?」
ずっと繭を見つめていた水瀬が、不意を突かれたようにびくっとする。
「なにそんなにびくついてんだよ」
「あ、えーとですね……従妹さん可愛いですね」
少しはにかみながら顔を閉める水瀬、ん、なんだこの表情は?
「あの、先輩」
「なんだ水瀬。」「この後の予定は何か……」
「ああ、特別ねぇけど」
「あ、じゃなくて従妹さんの方なんですけど」
繭?
何で繭なんだ?
「あのぉ、よろしければ、従妹さん私に付き合ってもらえられる事なんて出来ませんせんか?」
「付き合えって、まさかお前……そっちの方なのか?」
「もう先輩ったら、私同性愛者じゃないですわよ」
勘ぐりすぎたか……。
「実は私コスプレの趣味あるんですけど、……繭さん、もしよかったら私の所にきませんか? 是非繭さんに着てもらいたい衣装があるんですよ」
「はへ? コスプレ? 衣装……?」
「駄目かなぁ……」
と言いながらも水瀬の目はギンギンに輝いている。
繭はちらっと俺の顔をみて、どうしたらいいのか判断を俺に任せようとしている。
「駄目ですかぁ、先輩。あ、繭さんも」
「べ、別にいいんじゃねぇの。まぁ繭がいいんだったら何だけど」
「そう言うんだったら、別に私は構わないけど」
「それじゃ行きましょう」
「おいおい、行きましょってどこにだよ」
「決まってるじゃないですか。私のうちにですよ。あ、そうだ吉田先輩も来ますか? もしよかったらなんですけどねぇ―」
ニタぁ―とする水瀬の甘ったるい顔。
「俺は遠慮……」と、繭が俺の腕を突く。
一緒に来てもらいたいという合図何だろうか?
「あ、ごホン。まぁ保護者同伴という事なら」
「あ、そうですか。先輩も来るんですね。ああ、部下の女子社員のしかも独り暮らしの所に会社の先輩が来るんですね」
あのなぁ、誘っておきながら今度は露骨に嫌がるようなこと言うなよ。水瀬。
ほんとわかんねぇ。
まぁでも実際、女性社員のしかも独身の住まいにいささか気が引ける。
もし、これがきっかけで、まぁ、水瀬はないと思うが、あらぬ噂がまた浮上したら俺の立場は最悪だ。
だが、繭は俺についてきてもらいたがっている。
んー、どうしたものか……。
「あのぉ、もしよかったら水瀬さんにこっちに来ていて頂くことは出来ませんか?」
「こっちって? ……もしかして俺んところか?」
「ほかにどこがあるの?」
「逆にまずくねぇ、俺たちの事水瀬にばれるぞ!」
「あ、そうかぁ。それもまずいわ」
まったくどうしたらいいんだ。
「あ、なんだか物凄くめんどくさいんですけど、先輩いいですよ、一緒に私のうちに来ても。それに衣装沢山あるんで、先輩のところになんかにとても持って行けませんからね」
「あ、そう……」
なんだか俺っても凄く邪魔な存在に扱われているような感じがするんですけど……気のせいかなぁ。
それに水瀬ってこんな性格だっけ? 会社じゃ、もっとはっきりとしたというか、きっちり。そうそうその言葉が当てはまる様な感じなんだけどなぁ。
しかしあの水瀬に『コスプレ』の趣味があったんだ。それは正直意外だった。
「それじゃさっ、行きましょ。私の住んでいるところこの先なんですよ」
「えっ! 嘘だろう。同じ町に住んでいたのか?」
「そうなんですか先輩? 先輩もこの町に住んでいるんですか?」
「ああ、ここから10分くらいのところなんだけどな」
「私も大体そうなんですけど……」
「で、どっちの方向なんだ?」
「私はこっちの駅通りから少し外れたところなんですけど」
うむむ、こんな偶然なんかあっていいんだろうか?
「俺もその方向なんだけど」
「はぁ、そうなんですね。じゃ、とりあえず行きますか」
と、着いた先がなんと、繭が熱を上げて診察を受けたクリニックの隣のアパート……といってもちょっと外見は小ぎれいそうな今どきの女性向け外観の造りだ。
「マジかぁ、お前こんなに近くに住んでいたんだな」
「こんな近くって先輩もこの近くなんですか?」
俺は斜め向かいのちょっとひなびたパートを指さして
「あそこの1階の奥から2番目の部屋」
「嘘、そんなにも近くにいたなんて。何で今まで会わなかったんでしょうね」
「ホントだ不思議なくらいだ。よっぽどおれら縁がなかったんだろな」
その言葉を聞いた水瀬はなぜかプッと怪訝そうな顔をして
「そうなんですね、私と先輩はホント縁がないんですね。ただの会社での先輩と後輩にしか過ぎなかったという事なんですよね」
ほんとわかんねぇ、なんでいきなり怒り出すんだよ水瀬の奴。
そう言えば繭も単に最近あるよな、いきなり機嫌悪くなること。
あ、そうか……あれか、女性特有の毎月のあの症状なのか。
などと簡単に自分勝手な想像をしていた俺。
のちに、水瀬までも長野の様に俺と繭の間に大きく関わってくるとは思いもしなかった。




