第13話 清い援コー
「知ってたってお前、ずっと黙っていたのか?」
「うん、そうだよ」
にこやかに言う長野。
「あ、そうだケーキ買ってきたんだぁ。気にいってもらえると嬉しんだけど」
「長野はテーブルに箱を置いて開けて見せた。」
「わぁ、綺麗」
繭がなんか感激めいた声で嬉しそうに言う。
「喜んでもらえてうれしいよ」
「いいや、長野ちょっと、お前どこまで知ってんだ」
「あ、僕はただ、ほらあのDIYショップで君たちを見かけただけなんだけどね。あの時町村さんと一緒だったからあえて声をかけなかったんだよ」
「それじゃ町村さんも俺たちの事見ていたってことか?」
「いいや、多分彼女は知らないんじゃないかなぁ。自分が買いたいもの探すに気がそっちに行っていたかね」
ホッと肩を下ろした。
これで町村さんにも知られていたら俺が思うに、会社の中で俺の知らない水面下で、この話が盛り上がっているという事になりかねない。
「じゃぁ何で今までお前俺に黙っていたんだよ」
「んー、何でかなぁ? あ、多分面白そうだからだよ」
「面白そう!!」
少し声が大きくなった。
「おいおい、怒らなくたっていいじゃない。面白かったて言うのは取り消すよ。でもさぁ、山田が日ごとになんか変わっていくの、見ているの楽しかったんだよ」
「……そ、そんなに俺って変わってきていたのか?」
「まぁね、山田本人が気づいていないて言うところが”みそ”! なんだけどね」
「もしかしてみんながそう感じているっていう事なのか?」
「ああ、それりゃそうさ。雰囲気って言うかさ、山田自身から出てくる感じが前とは全然違ってるんだから、気づかない方がおかしいよ」
だからか部長、最近あんまり俺に威嚇しなくなってきたのは。それにあんな心配までして「今日は定時あがれ」なんて言ってくるなんて、実際言われた本人が驚いているくらいだからな。
「そんなに俺変わったか?」
「あはは、外見は今までの山田だよ。でもさぁ、さっきも言ったけど、雰囲気は大分変ったね。前みたいになんか完全自己主義みたいなバリアが薄くなったていう感じとでも言うのかなぁ」
何なんだその完全自己主義バリアって
「そ、そうなのか……」
「多分さぁ、それも彼女のおかげなんだと思うよ。ねぇ、山田君のお母さん」
「あのぉ、私、山田さんのお母さんじゃなくて、梨積繭って言うんですけど。それに山田さんとの関係、何か誤解しているように思うんだけど」
「誤解って、君山田と付き合っているんじゃないの? こうしてさぁ料理まで作ってあげてるじゃん。でもほんと短期間でこんなに若い子と知り合って、ほんと山田も手が早いよねぇ」
「なんかやっぱり誤解してるじゃん」
「うんうん、長野お前、勝手に何か妄想膨らませていねぇか?」
「妄想って?」
「この際だから何もかも洗いざらい話してやるよ。いいだろ繭」
「私は別に構わないけど……」
ちょっと口を尖らせながら言う。その繭の顔は少し赤みを帯びていた。
「まぁそれじゃ、ゆっくりと訊きましょうか二人の馴れ初めをね。あ、ケーキは僕はいいから、後で食べてね」
「コーヒーくらいは飲んでいってよ。えー確か長野さんでしたよね」
「ありがとう、梨積さん。気の利くいい子だねぇ。山田にはもったいないよ。で、どうやってこんなにも可愛い女子大生と知り合ったんだい」
繭がコーヒーを淹れながらプッと噴いた。
「ねぇねぇ山田さん、女子大生だって!」
「んー、実際見えなくもないよな」
「そうかなぁ」
「え、違うの?」
「うん、私まだ高校2年生だよ」
「えええっ! 高校生なの?」
「何か問題でもある?」
ニタニタとしながら繭が長野に問いかける。
「それって、ちょっとまずいんじゃないの」
確かに、世間一般じゃまずいよな。表ざたに見たら。
「おう、まずいわな。そりゃ」
「もしかして従妹なのか山田」
「いやその線はない。ただ誰かに見つかった時は、そう言う事にしようとは二人で決めている」
「決めているってさぁ、それじゃ本当に高校生と付き合っているんだぁ。山田も生身の女には興味ないって言っておきながら、実のところは高校生相手にしてたんだぁ。なんかショックだなぁ」
「だからお前は大きな勘違いをしてるんだ。俺は此奴とは恋だの愛だのなんて関係してねぇんだよ。これだよこれ」
と言いながら俺は冷蔵庫をコンコンと叩いた。
「冷蔵庫?」
「そうだ、繭、いや梨積さんは最近隣に越してきた子だ。ただ始めちょっと色々あってな、彼女、冷蔵庫持ってないていうから俺のこの冷蔵庫使わせてやってんだ。そのお返しと言うか、まぁどっちみち自炊するなら一人分作るより二人分作った方が、無駄が無いて言うから飯を作ってもらっているだけ。ただ俺たちはその関係だけだ」
「ホントかなぁ……でもさぁ山田、お前ひそかに彼女の事気にしてるんだろ」
「だからさぁ、俺は生身の女にはほんと興味て言うか、受け付けねぇんだよ」
それでも長野は信じようとはしない。
「ホントだよ。山田さんは私にこの冷蔵庫使ってもいいて言ってくれたから、そのお返しって言うのかなぁ。相互的な意味で私が食事を担当するって言う事だけなんだけど」
繭が長野の前にコーヒーの入ったカップを置いた。
「ありがとう。でもさぁなんかちょっと信じがたいよなぁ。でも可愛い梨積さんに免じて信じる事にしよかぁ」
「なんか引っかかるけど、まぁ、そう言う事だ。だから、此奴とは何もやましい関係はねぇんだよ」
あんまり信じていねぇようだけど、まぁ、長野も理解はしてくれたみたいだな。こんなんで本当に理解したかどうかなんてわかんねぇけどな。
「でさぁ、さっきから物凄くいい匂いがしてんだけど、今日の君たちの夕食なのかい?」
「えっとね、今日はね肉じゃがと、お魚の酒蒸しなんだけど、よかったら長野さんも食べていく?」
ちらっと長野は腕時計を見て時間を確かめてから
「よければ僕も頂きたいなあ」
「わかった、それじゃ、ちょっと早いけど、ご飯にしちゃおうっか」
「おお、それなら俺も手伝うよ」
席を立って繭と一緒にキッチンに立つ俺らの姿を、肩肘をつき長野はニタつきながら眺めていた。
ぼっそりと
こうして二人でキッチンに立っている姿見るとお似合いだよ山田。
「なに馬鹿なこと言ってんだ長野」
「ははは。うん、君たちは清い『援助交際』だからね」




