第五話 その気になればその日の中に帰れます
色々あって更新が遅れました。
ついさっき目の前で墜落しそうになった妖精は今、僕の弁当箱に上半身を乗り出すようにして中の弁当を食べている、どうやら雑食であるらしく、肉類も食べていた。
既に、特別小さいわけではない弁当箱の中身は、八分の一くらいなくなっていた、量としては大したことないが、あの体にあそこまで入るのは異常じゃないだろうか。実は元々、もっと大きいサイズで、空腹により縮んでいたんじゃないか、と思うくらい物凄い食べっぷりだった。
そんな様子を春牧が眺めていると、春牧の視線に気がついたらしい妖精が顔を上げ、その視線をどう受け取ったのか、春牧を睨みつけて、なにごとかを口にした、
「わはひはふぁんたのひほひほふくっはんふぁからこふぇがかひだらんておむわまいこふぉめ!」
「口に物を入れたまま話すんじゃありません」
何を言っているのかは分からなかったが。
しかし、そこから何かを読み取ったらしい春牧が一つ頷くと、鞄の中から、水筒を取り出した、
「悪いが、ファンタは持っていない、ウーロン茶で我慢してくれ」
多分、言いたいことは理解できていないだろうが。
妖精は春牧が差し出したウーロン茶まで飛んでいくと、頭を突っ込むようにして飲み始めた、髪がウーロン茶の中に入っているが、気にした様子は無い。
ウーロン茶から顔を上げた妖精は、指を春牧に突きつけ、恐らくさっき言おうとしたのであろうセリフを口にした、
「私はアンタの命を助けたんだから、これが貸しだなんて思わないことね!」
言っていることは尤もだが、もっと言い方があるだろうに憎まれ口をたたく、
「なにを?あのままなら僕は華麗に必殺技を決めていたところだ」
言っていることが無茶苦茶な春牧よりはましだろうが。
しかし、春牧がまともに戦うところを見ていない上、やけに自信満々なので本当に強いのではないか、と思わせてしまう。実際本人はそう思って疑わないが。
「・・・・・・とにかく、助けたのは事実なんだから、貸しはこっちの方が大きいに決まってるわ!」
本心ではないが、今この状況で人に遇えたのは、正直かなり助かるのでこのまま放すわけにはいかない。
「とりあえず、この近くにあるっぽい、勇者を召喚するとか言っているとこまで、連れて行きなさいよ」
そう言うと、妖精は羽をばたつかせ、春牧の肩に乗っかってきた、
「勇者の居るところ?・・・・・・またあそこにいくのか」
嫌そうな顔をする春牧に妖精が問いかける、
「居るところ、ってことは、もう召喚が終わったってこと?」
「あぁ、かなり至近距離で確認したから、間違いない」
確認というか体感というか、
「へぇ〜、じゃあ、アンタ意外とすごいのね」
かなりの至近距離、ということは召喚した際、部屋に居たということだ。情報が古かったり、間違っているかもしれないが、聞いた話では、召喚の間と呼ばれる地下室があって、そこに入れるのは、召喚を行う者たちだけだという。そんな役目を担っているとすれば、人間にしては、まぁそこそこ力がある、ということだろう。
「じゃあ、勇者っていうのも見たんでしょ?どんなんだった?」
「ん、早々に帰るらしいぞ」
今更興味もない、とでも言うように、言い捨てる春牧。しかし、内心では。これから仲間との絆が芽生え、勇者として世界を救いに。と言う展開を疑ってもいなかった。
「へぇそう、・・・・・・・それじゃあ見に行っても、帰すの手伝わされるだけか。・・・・・・・・・・・・それにしても、アンタ全然残念そうじゃないわね?」
帰るらしい、ということで、興味を失ったのか、妖精だから、ということでせっつかれるのが嫌なのか、とにかく、裕也の元へ行くのはやめることにしたらしい妖精が、そう言うもんなのかもしれない、とも思いつつ、春牧に問いを投げかける、
「うん?それはほら、僕も異世界から来たから」
なんでもないようなことの様に言う春牧の言葉に、一瞬理解が追いつかなかったらしく、一拍おいて、妖精が驚いたような、と言うか驚いている顔で、
「・・・・・・えっ?・・・・・・アンタが勇者なの?そんな、もっとカッコいいの想像してたのに・・・・・・」
最初こそ目を見開いていたが、言い終える頃には、肩を落として、残念そうにしていた。というか、勇者を見たかったのは、美形だと思っていたからだろうか。
春牧はその様子に流石に少しむっとしつつも間違いを教えてやる、
「全然でもないが、違うぞ。勇者は白髪白目の筈だろう、僕は勇者の召喚に巻き込まれて引っ付いてきただけだ」
「そうなの?!じゃあ、勇者はやっぱり超美形だっ」
「言っておくと、その勇者より僕のほうが顔はいいぞ」
見当違いのところに反応し声をあげた妖精は、しかし、春牧の追撃によってあっさり撃墜される。
「なぁんだ、つまんない・・・・・・・・・・・・ん?アンタ巻き込まれてとか言わなかった?」
再び肩を落とした妖精が、やっとツッコムべき所にきずく、
「ああ、言ったぞ」
なんでもないことのように平然と話す春牧の様子に、きっとよくあることなのだろうと勝手に推測する。勇者が召喚されるという話は、所々で聞いていたが、白髪白目なんて聞いたことが無かったくらいだから、度々巻き込まれる人が居るのかもしれない、と結論付けた。・・・・・・度々どころか、史上二度目なのだが。
嘘と言うことも考えられたが、春牧の持っていた、食器や着ている服などの持ち物はどれもなじみの無い材質だった。それに、嘘をついても良いことなんてないし、なにより、嘘をついたり出来るほど頭が働くように見えない。
「じゃあ、アンタ異世界から来たのね・・・・・・?」
春牧の顔を覗き込み微妙な表情をする妖精、しかし、次の瞬間には、良いこと思いついた、とでも言うように、ニンマリと口元をゆがめ、
「そうだ!私についてきて、私が満足するまで旅の足になれば、帰してあげてもいいわよ?私、送還魔法とか使えるし!」
実はこれは冗談のつもりだった。妖精は、春牧が帰りたくて仕方が無いだろう、と思い、ちょっとした意地悪をして、困らせようと思っていた。子供っぽいと思われるかもしれないが、さっきから、自分ばかり驚いたり肩を落としたりしていたので、ちょっとした反撃のつもりだった。送還魔法が使えるのは本当なので、春牧がどうしてもすぐに帰りたい、と頭を下げれば帰してやるつもりだったし、もし考えた結果ついてくると言っても、今日中には帰してやるつもりだった。どちらにせよ、春牧が強硬手段に出て自分を脅したりして、ムリヤリやらせようとしない限り帰してやるつもりだった。少し疲れるが、普通にしている分には問題ないだろう。
一応、食べ物を貰ったのは助かったし・・・・・・。
妖精は、春牧が帰りたいと思っている、と信じて疑わないため、春牧がそれ以外の選択肢を選ぶなど、考えもしなかった、
「あぁ、いいぞ、丁度僕も、色々見て回ろうと思ってたことだしな」
返答までに要した時間は、一秒にも満たない、寧ろ待ってましたとでもいいそうな雰囲気だ。
そんな春牧に、寧ろ妖精の方が慌てた、
「えっ?ええっ?!そんな簡単に決めていいの?!もっとほら早く帰りたいとか・・・・・・そうだ!家族!残してきた家族とか友達とか心配じゃない?!」
「むっ、そうか、家族か忘れていた・・・・・・」
今度は春牧が悩む番だった。さっきまで気がかりだった妹のことが頭を掠める、しかし、せっかくの、剣と魔法の冒険は物凄く捨てがたい、しかし、妹はどうするか、しかし、出来ればずっとこの世界に居たいぐらいで、しかし、僕が居ない間に妹に悪い虫が付いたら、しかし、・・・・・・・・・・・・・・・・・・。しかし、春牧のあたまに閃くことがあった。
腕を組んで考え込む春牧に胸をなでおろす妖精、しかし、ほっとしたのもつかの間、春牧が腕組をといた、
「・・・・・・一つ訊いていいか」
「・・・・・・何?」
なんとなく嫌な予感がするのだが、
「君か君の知り合いに、特定の人物を異世界から呼び出したり出来そうな人はいるか?」
ミルファは召喚するときは人が、送還するときは場所が、決めることは、私達には出来ない。しかし、妖精であれば送還するときに場所を決めることが出来るという。ならば、召喚するときに人を決めることも可能なのではないか?という考えに至ったわけだ。
「う〜ん、私は出来ないけど・・・・・・」
そんなことを出来そうだとすれば、真っ先に、そして唯一思いつく人物が居る。
一方春牧は、異世界人って、私には出来ない多いな、とか思っていた。
「・・・・・・兄さんなら、できる・・・・・・かな?」
「よぅっし!なら僕は、君の旅についていくから、君はお兄さんのところまで案内してくれっ!」
妖精の言葉を聴いたとたん、立ち上がって天に拳を突き上げる春牧。
「ちょちょちょっ、ちょっと!ホントについてきちゃうわけ?!」
春牧の肩に座っていたため振り落とされそうになった妖精が、羽でバランスを取りつつ、春牧に叫ぶ、
「当然だろう!?せっかく妹も交えて、異世界ライフを楽しめる機会なんだ、逃す筈無いだろう?!そうだ、まだ名前も言っていなかったな!僕の名前は、風見 春牧だ、長い付き合いになるだろうから、呼ぶときは愛称でハルとよんでくれ!君!君の名前は?!」
春牧の勢いに押されて、口を開く妖精、
「え、えっと、さ・・・サイフェリア・エルスタット」
「そうか!よし、フェリア君!これからよろしく頼むぞ!」
「え、あ、うん、ま、まぁね・・・・・・」
春牧のテンションについていけず、押し切られまくっているサイフェリアは、自分の名前が略されたことにも気付いていないらしく、曖昧にうなずいている。
春牧は、その日の中に帰れる可能性と引き換えに、最初の仲間と旅の目的を手に入れた。
はい、ここからやっと旅が始まると思います。しばらくは、主人公は戦闘で役に立ちません。
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こんかいは、後書きも短めです。