第一話 変人兄貴は料理が得意
プロローグにいくまでの主人公サイドです。
時々、自分は日常を愛しているとか言う人が居るが、正直そんなことはありえないだろう。僕は、人間誰しも少なからず刺激を求めるものだと思う。何も大したことじゃない、新しいゲームや本を買ってきて、やったり読んだりするだけでも、刺激を加えているといえる。
しかし、そんなものはまだまだだ。もっと日常を揺るがすような、大きな何かに起こってほしい。若いうちから平和が一番なんて枯れたこといっていたらもうだめだと思う。
しかし、そう言う僕も、未だに大きなハプニングに恵まれず、悲しいかな今の今まで平和に生きている。だが、この程度のことで僕は悲観的になったりはしない、今まで何も起きなかったということは、これから僕の人生を大いに狂わせてくれるステキな何かが起こる、ということだ。今から楽しみで仕方が無い。
そのときは、仕事バカの親は放っておくとして、愛すべき我が妹もせっかくだから巻き込んであげよう。
・・・いつもと大して変わらない事を考えながら、朝の台所で溶き卵をフライパンに流し込む、これは妹の分だ。
朝、起きたばかりで、まだいまいち働かない頭を引きずって、風見 夏海は、階段を下りていった。いつもと同じように、まず台所へ直行する。近ずくにつれ、台所から鼻歌が聞こえてきた。それに、良い匂いもしてきた。
「フンフンフフ〜フ〜ン♪」
鼻歌の主は、台所に立って玉子焼きを作っている様だった。
その人物に声をかける。
「おはよ、お兄ちゃん」
「おぉ、おはよう、夏海」
彼は、顔だけ振り返って、夏海に挨拶を返してくる。
玉子焼きを作っているのは、夏海より二歳年上で、高校一年生の兄、風見 春牧だ、ちなみに親しい人には、ハルと呼ばれている。
「もうすぐ出来るぞ」
そう言って、玉子焼きの形を整える作業に戻る春牧。
その後姿を見ながら、ちょっと変わった自らの兄に思いをはせる。
十四年間一緒に暮らしているが、未だに兄の考えていることがよくわからない。
外見は、別に問題ない。ボサボサの髪が男にしてはしこし長くてうっとおしいが、顔は、そこそこで、悪戯っぽい印象を受ける、多分上の下あたりには引っかかっているんじゃないだろうか。中肉中背で、身長は平均よりも少し低いくらいだろう。
普段の生活も、勉強を全くしないこと以外は問題ない。両親が共働きで、ほとんど家に居なかったために、小さい頃から我が家の台所を預かってきていて、料理、というか家事全般が得意だ。暇なときは、いつもゲームをやっていて、ジャンルには必ずと言っていいほどRPGが入っている。勉強は、・・・・・・うん、ただ本人は全く気にしていない。運動は、あまり得意ではないようだ。
ただ、考えていることやものの感じ方が、他人と少しズレているのだ。
以前、兄に将来の夢を尋ねたことがあった。そのとき兄は、どこか遠い眼をして、『お前にだけは、本当のことを話しておこう、・・・・・・僕は、いつか変人になりたいんだ』とか、真顔で言ってきた。下半身むき出しで堂々と歩き回る兄を想像して、『お兄ちゃん、変態になっちゃうの?』と、訊いてみたところ、顔を顰めて、『変態じゃない、変人だ』と言ってきた。よくわからないが、兄の中では明確な違いがあるらしい。兄曰く、『どうせ同じだけの時間を生きるなら、普通より少し変なほうが、楽しいに決まっている』とのことだった。しかし、中々真の変人には、近ずけないものだ。みたいなことも言っていたので、そんなこと言ってる時点で十分変であることを教えてあげると。『優しいな』とか、言われてしまった。変な人扱いしてどこが優しいのか、しかし、兄は変人になりたいそうだから、慰めたことになるかもしれない。
それを素で言っているのだから恐ろしい。
それでも他の人には、言っていないあたり、それが変だという自覚はあるらしい。
そんな兄のことが、自慢・・・・・ではありえないが、兄の変なところも含めて嫌いにわなれなかった。
「いってきます」
僕の作った玉子焼きをつついている妹に告げて家を出る。
できれば、朝食を取る妹を眺めて、『お兄ちゃんの作る料理って美味しいね』とか、言われたりしたいのだが、一応、学生であるため、学校に遅れるわけにはいかない。ただでさえ勉強面がアレなので、なおさらだ。・・・・・・直す気はないが。
しかし、妹の朝食を作らなければいけないため、家を出る時間は、いつもギリギリだ。だから今も、小走りで学校に向かっている。
全力で走らないのは、単純に疲れるからと鞄の中に入っている弁当の存在があったからだ。
自慢じゃな・・・・・・いや、自慢だが、料理や裁縫などは、そこら辺の同級生より、一部例外を除いて、よっぽど上手いと断言できる。よくわからん勉強よりこっちのほうが役に立つ気がするし、好きなので、ここらへんは、ほとんど家に居なかった両親に感謝だ、そのおかげで覚えたわけだし。ちなみに将来は専業主夫もいいかと思っている。昔から母親が働いているので、抵抗は無い。問題といえば、相手が居ないことぐらい。
まぁ、今から将来のことを考えても仕方ないので、弁当がぐちゃぐちゃにならないように、細心の注意を持って、学校へ向かう。
現在、T字路に差し掛かった。少しの時間のロスも無くすため、いちいち安全確認などしない。もとより、腕が触れ合いそうなほど、ブロック塀すれすれを行っているので、車と当たる心配は無い。・・・・・・まぁ、車とは当たらない。
角を曲がった瞬間目の前に飛び込んできたのは、多分同じ高校、の男子の制服の背中だった。
細心の注意はどこへやら、反射的にぶつからないように斜め前、つまりは、車道の方へ、跳ねるようにして避けた、つもりだったが、肩と肩が少しだけ触れ合う。
その一瞬、跳んでいるせいか、視界がブレて真っ白になった気がした。
肩がぶつかっただけなので、実害は無いだろうが、とりあえず、顔だけ振り向いて謝っておこうとした。取って付けたようにだが。
「おっと、ゴメ・・・んぉ!?」
「っきゃあっ!?」
別に、どっかのアイドルっぽく『ゴメンお』とか、言おうとした別けでは無い。またぶつかってしまっただけだ。しかし、今度は跳んだ勢いがついたままだったので、ちょっとした体当たりみたくなってしまった。相手は、声からして女の子だろう、尻餅をついてしまったらしい。
女性を突き飛ばしておいて、そのまま走り去るのは、色々とアレなので、今度はちゃんと立ち止まる。
「えっと、大丈夫ですか?」
相手の顔を覗きこむようにして、できるだけ心配してそうに声をかける。
彼女は、薄暗くて、わかりずらいが、外人で結構な美人に見えた。歳は自分より少し上に見えるが、顔のつくりが違うので、実際のところはよくわからない。さらに、眼を引くのが、薄紫、というか、綺麗なすみれ色の瞳と同色の長髪だった。明るい所に出れば、さらに映えるだろう。と、そこまで考え、はたと気がつく。
今日は、気持ちいいくらいの秋晴れだったはずだ。少なくとも薄暗くは無かった筈。
そう思い、辺りを見回すと、どうやら室内のようだった。
後ろを振り向けば、恐らく多分もしかすればさっきぶつかったかもしれない男子生徒が、呆けたような顔をしている。なぜそんなに自信なさ気かというと、制服や背格好は、なんとなく同じような気がするのだが、体の一部がおかしかった、もっといえば、髪と瞳だ。さっきまでは、少なくとも、頭の後ろ半分は、暗い茶色だった筈だ。それが今、目も髪も真っ白になっている。
とりあえず、白頭から得られるものは、もうなさそうなので、視線を他に移す。
部屋は、広く薄暗く。春牧と白頭とさっき突き飛ばした女の子以外に十数人の人が居て、集まって小声で何か話しているようだ。ちなみに、女の子は座り込んだままだ。
足元を見ると、ゲームでお馴染み、結構大きな魔方陣っぽいモノが徐々に弱まっていく淡い光を放っている。
これは、ひょっとすると、待ちに待った、人生をゆるがせる程のアレではないだろうかという考えに至った。
これで、・・・・・・これでやっと、これから面白くっ、なるのか!?
なんだか、三人称で名前が出るとこがすくなかったですが、それは、これから会話とかが多くなると、人物の区別をつけるために、ちゃんと出てきます。
プロローグ、あそこだけじゃ意味わかんないのに、覗いてくれている人がいて感激でした。
まだまだ、誤字・脱字、文法の間違いなど、多々あると思いますが、すべての人に見放されるまで頑張ります。