第十三話 離れていても家族は家族
こんにちは、今回はそこまで面白くないです。
アイツ、確か春牧とか言った。大丈夫だろうか。
裕也は一人、窓から外を眺めつつ、たまたま自分が巻き込んだ変な同級生のことを考えた。
春牧が砦から飛び出してから、今日で四日目、まさか本当に一人で魔王の所まで向かっているんだろうか。戦闘とかは意外と上手く回避しそうだが、料理とかあんまり出来なさそうだったし、どっかで行き倒れていたりするかもしれない。ただ、半日しか一緒に居なかったが、なんだかんだで大丈夫な気もする、見張りも付けてくれているとミルファさんが言っていたし。
実際は、料理とか出来ないどころか、料理とかしかできないのだが。
この異世界に来たと言うのに、たった四日で既に落ち着いていた。それは、最初に全く動じていなかった春牧が近くにいたことも、要因の中に入っていると思う。
最初の日は、色々あってすぐに寝てしまったが、それからは大体、ミルファさんにこの世界での色々な事について、訊いたりして過ごしている。妖精捜索隊はもう出発したのだが、彼女はもうしばらく俺のそばに居てくれるらしい。
召喚されたくせに、魔王と戦おうともしない俺にも、この世界の人は普通に、むしろ丁寧に接してくれる。理不尽な扱いを受けないのは嬉しいが、正直ちょっと意外だった。
訊いた所によると、もともと召喚魔法は異世界から人を呼ぶためのものではないらしい。ミルファさん曰く『そんな見ず知らずの人に迷惑をかけるような魔法を創るわけ無いじゃないですか。本当は、勇者の召喚とかも止めたほうがいいんです』らしい。・・・・・・うん。解ってるなら俺が来る前に思いとどまって欲しかった。
何でも、召喚魔法は失敗から生まれたらしい。もとはと言えば、ただ単に国、と言うか大陸の中で最も強い者を、魔王を倒すために呼び出すための魔法を創り出そうとしていたらしい。しかしそれが、どこがどうこんがらがったのか、違う世界からバカみたいに強くなった人間を呼び出す魔法になってしまったらしい。
召喚魔法を創り出した彼らは戸惑ったそうだが。なんか出てきたと思ったらやたらと力が強いし、魔力とかも尋常じゃないし、これはもうこの路線でいいんじゃないか?みたいな感じで今に至るらしい。
殴っていいだろうか。
その話をしたときに、ミルファさんは送還魔法の起源についても教えてくれた。それは、召喚魔法と一緒に生まれたわけではなく、創り出したのは妖精らしい。
その話は長くてしっかり聴いていなかったが、要約してすっきりまとめるとだいたいこんな感じだろう。
今からずっと昔に呼ばれた人で、魔王まで後ちょっと、と言う所まで行った人が居たらしい。しかし、その人は重症を負ってしまい、命に別状は無いにしても、戦うことは出来なくなったらしい。その人の友人に魔法に詳しい妖精が居て、せめてもと居た世界に帰してあげようと、なんちゃらこうちゃらして、送還魔法を創ったらしい。そして、送還魔法は、乱用されるのを避けるために、他の種族と交流の薄い妖精族に伝えられているとか、そんな話だった気がする。
アバウトなのは仕方が無い、舟をこいでいたから。
乱用を防ぐのはいいが、出来れば誰かを召喚したとき、すぐに帰せるようにしていて欲しかった。そうすれば、とっとと帰れたのに。
多分、家族も友達も心配しているだろうし、学校も行かないといけないし、まだクリアしていないゲームもあるし・・・・・・・・・・・・。
一度、もとの世界のことを考え出すとなかなか止まらない。ひょっとすると、俺は自分で思っている以上に焦っているのかもしれない。
そして、時を同じくして、違う世界に思いを馳せる者が、もう一人。
「ねぇ、アンタってやっぱり元の世界に家族とか居るでしょ?心配とかされてないの?」
サイフェリアの言葉に、春牧は、どうかなぁ、と息を吐くように呟いた。
「妹はともかく、親は心配していないと思うぞ」
現在、どこに居るかも知れないお兄さんを探すため、とっとと町を出て、再び街道を歩いていた。何かイベントが起こる気配も無いので、得に思うところも無い、出来れば次の町でこそ、何か騒動に巻き込まれたい、そして、二人目のパーティーメンバーを・・・・・・。
春牧は、全然関係ないことを考えていて、適当に返事をしただけだったのだが、サイフェリアは春牧の返事を聞いて、もしや家の事情とかに深く突っ込むような話なのでは、と少し焦る。しかし、春牧はサイフェリアの様子に気付かずに、そのまま言葉を続ける。
「父親は、『自分探しの旅にでも出たんじゃないか?ハッハッハッ』みたいな感じだろうし、母親なら、『なんだかんだでちゃっかりしてるから、大丈夫』とかいってそうな気がする。ただ、台所だけが気がかりだ。爆発とかしてそうな気がする」
その頃、風見宅では。
「ねぇ、お父さん」
「ん?なんだ」
日曜日、兄が姿を消してから四日目だ。日曜は父も母も仕事が休みなので、二人とも今で寛いでいる。兄は、二人のことを仕事バカとか言っているが、別に、家族に冷たいわけじゃない、家に居るときや、休日は出来るだけ家族で居る時間を作るようにしているし、いい関係を築けていると思う。
「お兄ちゃんって、どこ行っちゃったのかなぁ?」
我ながら、実の兄が失踪したと言うのに落ち着いていると思う、でも兄の性格を考えると、唐突に思い立って武者修行にでも行ったんじゃないかと思う、少なくとも死んでいたりはしないはず。
兄のことだから、私の考えていたことを知っても、心配されていない、とショックを受けるより、信頼されている、と喜ぶような気がする。
「さぁなぁ、自分探しの旅にでも行ったんじゃないか?ハハハ」
なんとなく予想は出来ていた回答だけど、父親がそんなんでいいんだろうか。
「お母さんは、どこに行ってると思う?」
一人テレビを見ている母に声をかける、
「え?まぁ、あの子はなんだかんだ言って結構ちゃっかりしてるから大丈夫よ」
質問の答えになっていない、どうやらテレビを見るのに忙しいようだ。
父も母もあまり気にしていないようだが、私は早く兄に帰ってきて欲しい。もちろん寂しいというのもあるが、何より料理が出来る人が居ない。昨日、とりあえず自分で何か作ってみようと頑張ったのだが、頑張りすぎたのか調理中なぜか鍋が溶けてしまった。このままでは、朝昼晩三色脂っこいお惣菜が続く、と言うことになりかねない。それを回避するためにも、兄には早く帰ってきてもらわねば。
「流石にもうちょっと心配してるんじゃない・・・・・・?」
春牧の言葉に、サイフェリアが眉をひそめる。正論だが、相手が悪かった。
「そうか?ありそうな気がするんだが」
春牧が首を捻りつつサイフェリアに言った。離れていても家族と言うことだろうか。ただ残念、家族の中で一番好きなはずの妹のことだけは解っていなかった。
サイフェリアが、何を言おうか迷っていると、突然春牧があらぬほうを向いて、険しい顔つきになる。
春牧の様子に、サイフェリアが訝しそうに首を傾げる。
「なに・・・・・・今度はどうしたのよ?」
春牧は、険しい顔つきのまま、サイフェリアを見ずに言った。
「同族のニオイがする」
「同族って、何よ?」
サイフェリアの呆れたような声に、春牧が真顔で返す。
「シスコン族」
サイフェリアが溜息を吐くのも気にせず、春牧は顔を向けていた方へと歩いていった。
次回、新キャラを出したい気分です、パーティーメンバーで。
ゴールデンウィークですね、今のうちに頑張って書かないと。
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