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第十二話 超必殺、シャイニング・孫の手クラッシュ

ごめんなさい、色々遅れました。


 孫の手を振り回して、どんな敵も一刀両断とか言っているこんなのが魔物の討伐なんて、本当に大丈夫なのかと、正直かなり不安だ。

 サイフェリアは、春牧の肩の上でどこか諦めたようにため息を付いた。

 結局、こんな時間からすぐ出来る依頼なんて、魔物の討伐くらいしかなく、春牧の希望通り、町の外に出て、大体ここら辺に出ると言われた森の中にきていた。せっかく森から抜け出せたというのに、また逆戻りしてしまった。

 幸い、その魔物は大して強くないということなので、サイフェリアは春牧に並みの腕があれば、自分の出る幕はないだろう、と考えていた。並みの腕があれば、だが。

 今までまともに戦う所を見たわけではないが、孫の手を伝説の武器と思っているような奴が強いとは思えない。しかし、あくまで思えないというだけで、実際はそうでもないかもしれない、と思いたい。今までのやたらと自信にあふれた態度は、ただの自信過剰でなく本当にそれだけの実力があってのことで、孫の手を武器に選んだのは、並み居る敵なら孫の手でも十分と言うことなんじゃないかと・・・・・・思いたい。その方が楽だから。

「ふっ・・・・・・ふふふふ、ついに、つぅいに!異世界で初めてのまともな戦闘がっ・・・・・・ふふふふふ、どんな奴だろうと細切れにしてやる」

希望は薄そうだ、初めてとか言ってるし。

 町を出てから、否、依頼を受けてから、春牧はずっと不気味に笑っている。町の中では鞄の中に隠れていたが、視線が痛かった。どうやら、戦えるのがよっぽど嬉しいらしい。出来れば、その態度に見合った実力を持っていてくれれば、私も嬉しい。

 いざとなれば、大したことない魔物くらい私の魔法で一発だが、出来ればめんどくさいのでやりたくない。ただ、春牧に勝てるとも思えないので、最終的には私がやることになるだろう。まぁ、ちょっとくらい危ない目にあったほうが、春牧の自信過剰も改善されるだろう、多分。

「でーてこい、でーてこい、さっさとでーてこい」

 春牧が、魔物を呼び寄せようとしているのか、節をつけて孫の手を振り始めた。

「そんなんで出てくるわけないでしょ」

サイフェリアが、ため息混じりに呟く、実は見つからなかったらそれはそれで面倒でなくていいとか思っていた。

「わからないだろう?ひょっとしたら、魔物を呼び寄せる特殊な音波を出してたりするかもしれないじゃないか?」

 サイフェリアの呟きを聞き取ったのか、春牧が前を向いたまま言う。しかし、本当に出せていたらそれはそれでどうなのか。

「そんなわけないじゃな・・・・・・」

サイフェリアがそこまで言ったとき、春牧の前に生えている木の上から、何かが降りてきた。

「・・・・・・」

「ほら、出てきただろう?」

 木を伝って降りてきたそれは、見た目的には、高さ春牧の腰ほど長さは春牧と同じくらいまである大きな蜘蛛だった。毒々しい黒と黄色の縞模様で、デカくて細部までリアルな上に、八本の足で音も無くよってくる姿はかなり気持ち悪い。

「うっわ・・・・・・えっと、確かコレでいいはずよね?もう、アンタとっととやっちゃいなさい!」

 春牧の呼びかけに答えたことにはもう何も言うつもりもないのか、どうやらサイフェリアは目の前の気持ち悪い生物を抹殺することを優先させたらしい。そして、春牧はというと、余裕の笑みを浮かべて、

「楽勝だな。食らうがいい、新・必・殺!アルティメット・孫の手スラァッシュ!」

技名らしき言葉を叫びながら、孫の手で巨大蜘蛛の目玉を思いっきりぶっ叩いた。打撃なのでスラッシュですらない。

 しかし、いつかのキノコのように、強度も普通の蜘蛛並みとはいかなかった。

 やたらと凄そうでセンスのない名前の春牧の新必殺技は、黒くつややかな蜘蛛の目玉にあっさり弾かれた。

 春牧は、その状況にかなり驚愕した様子で。サイフェリアは、その春牧の様子に満足げに腕を組んで頷いて、これで流石に自分の力のなさに気付くだろうと、唸っている。しかし、

「馬鹿なっ?!僕のアルティメット・孫の手スラッシュを跳ね返すなんて、クリア後に行ける裏ボス並みの強さかっ!?」

「そっちじゃないでしょーが!」

どうやら春牧は、どう頭を捻っても自分が弱いという答えを導き出せないらしい。

 春牧は自分で口に出した後、なにやら相手の強さに納得したようで、身を翻して距離をとろうとする。しかし、巨大蜘蛛も意外と足が速く、顎をカチカチいわせながら、ほとんどぴったりくっついて追ってくる。

 サイフェリアは蜘蛛の不気味さに、危うく真っ二つにしそうになったが、春牧が自分の無力さを思い知るまでは、と何とかこらえた。

 一方春牧は、これだけ強い敵を倒したなら、経験値が大量になだれ込んできてレベルがずどーん、とか考えていた。

「これはもう倒すしかないな」

「ならせめてまともな武器を使いなさいよ」

「何を言っているんだ。まぁ、確かに伝説の武器はまともとは言わないかもしれないが、威力は凄いぞ」

 春牧が握っているのはどこからどう見ても孫の手であり、伝説の武器でもなんでもない。

 サイフェリアはまずは、せめて武器になりそうなものを扱わせなければ、と、引きつった作り笑いをうかべつつ、春牧が納得しそうな言葉を考える。

「・・・・・・え、えっとぉ・・・・・・・きっとまだ伝説の武器として目覚めていないと思うのよ。だから、今は他の武器になりそうなものを使ったほうがいいわ」

「それは、妖精の勘とかか?」

 なにかを確認するような春牧の視線に、好機とばかりに首を勢いよく縦に振る。

「そうなのよ!妖精としての勘が私に告げているのよ」

「でもなぁ、フェリア君の勘はあんまり当てにならないしなぁ」

 くっそ、コイツッ!

「アンタに言われたくないわよ!アンタのほうが当てにならないでしょうが!?」

 春牧は、サイフェリアの言葉をことごとく聞き流し、どこか諦めたように笑う。

「フッ、安心しろ」

 サイフェリアは春牧の言葉に、訝しそうに、しかしわずかに期待を込めた視線を送る。

 表情から察するに、ひょっとすると、安心しろ自分が弱いことには既に気付いているとかそんなとこだろうか。

「威力が強すぎるため出来れば使いたくなかったが・・・・・・次こそ超必殺シャイニング・孫の手クラッシュで決めてやる!」

 当然だが、春牧はそんなヤバそうな技は使えない。

「クラッシュしてんのはアンタの頭でしょーが!!」

 怒りもあらわに春牧の頬の皮を爪を立てて思い切り引っ張る。

「痛いぞ、爪が食い込んでいる」

「これで許してやってんのよ!?感謝しなさい!」

 春牧は不満そうな顔をしたが、まぁいいと呟く、

「とにかく、まずはあの虫けらを倒して、経験値がっぽりだ」

 そう言うと、春牧は唐突に振り返り、姿勢を低くして蜘蛛に向かっていく。蜘蛛はピッタリ付いてきているので、ほとんど振り返っただけだったが。

 春牧が姿勢を低くしているため、サイフェリアは至近距離で蜘蛛と正面から向き合う形になる。

 デカイ近いキモイヤバイ。

「超・必・さぁーつ!シャァァイニング・孫の手クラァァッシュッ!!」

 叫ぶとともに、孫の手を振り下ろす。技名を叫ぶときの気合は先ほどの二割り増しだ。

 何も起こらず、先ほどと同じようにはじき返されると思われた一撃は、なんと、届く筈の無い蜘蛛の腹まで、綺麗な断面で縦に真っ二つにした。

 春牧は、驚いた様子も無く、流石僕だな、と言っている。その肩で、サイフェリアはやってしまったと、深くため息をつき、誰に言うとでもなく言い訳のように呟く。

「・・・・・・だって、あんまり気持ち悪くて・・・・・・」

「ふっふっふっ、これで確実にレベルが上がったな。なんだか強くなった気がする」

 春牧は、気分的に攻撃力が35上がった。

 春牧は、気分的に防御力が20上がった。

 春牧は、気分的にすばやさが25上がった。

 春牧は、実質的に賢さが30下がった。

「あぁ、また増長していく・・・・・・」

 サイフェリアは春牧が自分の自信過剰を認識することから遠ざかったことに、一人頭を抱えた。


「いや〜、魔物の討伐のほうが儲かるし、これからもそれでいいんじゃないか?」

 今春牧たちがいるのは宿の一室。あの後、春牧が半分になってしまった蜘蛛の頭を包丁で切り落とし、求人仲介所に持っていくと、40イクスが手に入った。今回は、大したことなかったからその程度だが、対象の魔物が強くなれば当然だが報酬も上がる。

「イヤよ、あんな気持ち悪いのと毎日顔をつき合わせてるなんて、絶対にゴメンだわ」

 春牧達は、予定通り、宿の二人部屋を取ると、夜も遅くなってきているので、早々にベットにもぐりこんでいた。

「そんなことは、もういいから、とっとと寝ましょ。私は眠いのよ」

 欠伸をかみ殺しているサイフェリアに春牧は意外とあっさりと同意した、

「それもそうか。それじゃお休み」

 そう言って目をつぶると、春牧は、十秒と経たないうちに寝息を立て始めた。

「・・・・・・ふぅ、お休み」

サイフェリアも疲れたように息を吐くと、目をつぶる。

 しかし、すぐにまた目を開けると身体を起こして、隣のベットに目を向ける。

 春牧は、小柄であるため、ベットには結構空きがある。

 そして次に、自分のベットを見下ろす。

 サイフェリアは、小柄と言うか、すでに人間ですらないため、枕の辺りで毛布をちょっとだけかぶっている形になる。

「・・・・・・あれ・・・・・・?」

 何のために、魔物を倒しに行ったんだっけ?


 夜の暗い森の奥、何かを転がすような音が響く。

 月明かりさえ木に遮られて届かないような森の中、一人の少年が無表情に鞘に入った一振りの剣を見下ろす。剣から目を上げると、その視線は何かを探すように、正面に広がる木々に注がれる。少年は、剣を拾い上げ、ポツリと呟く。

「出られない」

 もう五時間ほど前から、剣を地面に立てて倒れたほうに進む、と言うことをしているのだが、一向に森から抜け出せる気配が無い。今更遅いが、あの野菜炒めをお持ち帰りしておけばよかった。

 少年の名前はレグルス・ラニアータ。一見冷たい印象を受けるが、実は良心の塊のような、心優しく、実は今ちょっと泣きそうになっている少年だ。


 長らくお待たせしてすみませんでした。時期もあって環境が変わったために、執筆をサボッ、休まざるおえなくなってしまいました。

 これからは、出来るだけ早くしていきたいです、なのでまだ見捨てないでください。

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