第九話 人の厚意に甘えすぎるのは良くない
今回は、短く出来ました。
「まぁ、上手く、タダで寝床と道具を手に入れたのは、褒めてやっても良いわね」
サイフェリアが、春牧の肩で、偉そうに腕を組んで、しかし、表情筋を引きつらせて、言った。
現在、武器屋での仕事を終て、異世界で、初めての仕事を終えた翌日の昼頃である。あの後、結局春牧が、また料理を作り、ついでに掃除もすることで、武器屋にもう一泊、無料で泊めて貰った。しかも、武器屋を出るときに、武器屋のおじいさんから、調理器具と食器や、三日は持ちそうな食料などを、ぼろいが頑丈で大きなリュックらしきものに詰めて、貰ってきた。・・・・・・無許可で。
春牧が言うには、食材も調理器具も量だけはやたらとあった上、使いこなせていないので、自分が使ったほうが、道具も食材も喜ぶ、しかも、掃除を引き受けたがかなり汚れていて、苦労したので、泊めるだけじゃ吊り合わない、と言うことで、ちょっとぐらい貰っていっても平気とのことである。
もちろん、ちゃんと、依頼の報酬も、貰ってきた。去り際に、おじいさんから、何か硬貨らしきものが詰まった皮袋を受け取り、少し店から離れた所で開けてみると、硬貨らしき金属の円盤と、メモ書きみたいなものが入っていた。サイフェリアによると、依頼の報酬よりも5イクス多く入っていた、と言い、メモには『掃除を頑張ってくれて、おまけに、寂しい一人暮らしのジジィの話し相手になってくれたからの、特別ボーナスじゃ』と、書いてあったらしい。おじいさんの粋な計らいに感謝しつつも、勝手に持っていった荷物を返すことは無く、春牧は、働き以上のものを手に入れた。おじいさん以外の関係者は二人とも幸せになれた。
ちなみに、お金の価値を、サイフェリアに聞いた所、買える物からして、1イクス大体百円くらい、だと言うことが分かった。春牧は、タダで二泊させてもらった上、約二千五百円を貰い、どう考えても、本来の報酬より値の張るものを、勝手に取ってきたことになる。おじいさんの厚意とかコレクションとかは踏みにじられまくりだ。
そのあと、サイフェリアも、大きいだけの町なんて興味ない、と言うので、すぐに町から出て、孫の手を振り回しながら歩いていた。
「それにしても、暇だな。敵は出てこないのか?出てきたら、一瞬で、細切れにしてやるのに・・・・・・」
どうやら、伝説の武器の性能とやらを、見てみたいらしい春牧が、つまらなそうに出来もしないことを言う、本人は、本当に出来ると思っているが。傍から見ていれば、戦闘狂と思われてもおかしくない春牧のセリフだが、幸い、今春牧達のの近くには、誰もいなかった。否、近くに人がいないのが、いいかと言うと、そうでもなかった。
「私の話聞いてる・・・・・・?あのね、町を出るまでは、良かったの、問題なかったの、なのに、今は、全然良くないの、問題ありまくりなの、・・・・・・アンタ、なんでか解る・・・・・・?」
心なしか、春牧の肩に乗ったサイフェリアの声が、震えているような気がする。怒りで。
「いや、そもそも、どこらへんに問題があるのか解らない」
孫の手を振り回しながら、不思議そうに、答えを返す春牧。サイフェリアは、引きつった顔で、
「そう・・・・・・じゃあ、教えてあげるわ・・・・・・」
そう言うと、まるで力を溜めるかのように脚を曲げ、
「最初は、ちゃんと、街道沿いに歩いてたのに・・・・・・アンタが、敵発見とか言って、唯の野良犬を追いかけまわしてたから・・・・・・こんな、森の中に迷い込んじゃったんじゃないの!!」
今、二人は、町から伸びていた街道から外れ、いつの間にか迷い込んでいた、森の中を彷徨っていた。
春牧の顎をメチャクチャに蹴りまくるサイフェリア。しかし、春牧は、堪えた様子も無く、寧ろ安心したように、
「なんだ、そんなことか。僕はてっきり、妖精にしか解らない、アレで、危機が迫っているのを感じたのかと思ったぞ」
「そんなことって何よ!?危機なら感じてるわよ、今の状況に!また迷っちゃったじゃない、出られなくなったらどうするの?!はぁぁぁ、アンタみたいなのを、旅のお供にするんじゃなかった・・・・・・」
最後の方は、ちょっと涙声になっている。
サイフェリアの脳内では、森から出られず、飢えて死ぬ前に、動けなくなった所で、猛獣や、鳥に集られ、無残にも食い荒らされた、自分達がありありと想像できた。
一方、春牧の脳内では、森の奥で、いかにもボス敵らしき、巨大な魔物が現れて、それを、伝説のマグノテスの力を解放して、華麗に真っ二つにする、自分の雄姿がありありと想像できた。想像できるだけで、実際に出来るかどうかは別だが。
春牧は、ニヤニヤと笑うと、孫の手を今までより激しく振り回し始めた、
「よし、なら、森の奥を目指そう!」
「なんで?!」
春牧の脳内での、ボス敵との戦闘など、知る筈もないサイフェリアが、普通逆じゃないかと声を上げる。しかし、春牧は見当違いのことをのたまって、さらに激しく、孫の手を振り回す、
「安心しろ、どんな強力な敵だろうと、このマグノテスで叩きのめしてやる」
「いや、無理だから。ホントに叩くぐらいしか出来ないから」
サイフェリアの尤もな言葉に、しかし、春牧は、わかってないなぁ、とでも言いたげに、首を振り、
「そんなことはない、なんとコレは、伝説の武器であるだけでなく、手の届かない痒い所も掻けるという、優れものだ」
「知ってるわよ!っていうか、それくらいしか使えないわよ!」
サイフェリアが、春牧の顎を、両足をばたつかせるようにして、連続で蹴り上げる。だが、当然ながら、春牧は、痛くも痒くもない、いや、痒くはなるかも知れないが、それを感じ取り、脚が疲れるだけと判断したのか、サイフェリアが、蹴るのをやめる。
それと、ほぼ同時に、春牧の手から、孫の手がすっぽ抜けて、飛んでいった、
「あ」
サイフェリアは、いい気味だ、とでも言うように、ニヤついていたが、春牧は、特に慌てた様子も無く、孫の手が飛んでいったほうに歩いていった。
今回は、短く出来ました。でも、続けて書きそうになりました。自分の中では、繋がっているので。
これからも、短くしていくので、見捨てないでください。短い割りに、更新に時間が掛かったのは、色々あったんです、というか、あるんです。
次回、新キャラを出したいと思います。味方じゃないですけどね。
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