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師匠は自称一般市民  作者: 猫宮蒼
六 終章 シオン

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穏やかな日常と彼らのその後



 あれから。

 驚く程に平和だった。


 そもそも魔女ヴァレリアだの魔神ウルだの魔王だの四天王だの、そうそう人生で関わってたまるかって存在ばかりではあったけれど。

 とりあえずは、平和だったと言える。


 アベルとは手紙のやり取りをしているけれど、エリックはそのままアベルの所に居座る事になったらしい。というか、居座ってた。

 あまりにも面倒な仕事を割り振ると物凄く嫌な顔をするらしいけれど、昔の事すぎて当時の資料がないような事件の話だとかは気が向けばしてくれるらしく、異端審問官としての仕事に多少なりとも貢献しているらしい。


 面倒くさがりで、働きたくなくて、だから魔王に面倒見てもらおうだなんて考えるエリックだ。

 とりあえず衣食住どうにかなってるアベルの所よりもいい場所が見つかればきっとそっちに行ってしまうのかもしれないけれど、多分当分そのままなんじゃないかなと思っている。

 そもそも、エリックの面倒を見ようなんて考える奇特な奴がいるとは思えない。

 いや、もしかしたら、彼に一目惚れとかして彼には私がいなくちゃダメなの、一生お世話するわ♪ みたいに考えるお嬢さんとかがいたらまぁ、あれかもしれないけど。

 多分いないんじゃないかなぁ、と僕は思っている。

 仮にいたとしても、まずエリックと出会う事なんてないんじゃないだろうか。いるとしてもお金持ちのお嬢様とかでしょ? エリックそんな人と出会う伝手とかある? あったらとっくのとうに取り入ってると思うんだよね。


 僕から見ても、エリックはなんていうか努力の方向性を間違えてる気しかしない。


 とりあえず、アベルの所にいるなら多少仕事は振られるかもしれないけど、アイオンの所に居た時に比べれば多分マシだと思うし、ちょっとお手伝いしたら後は住む場所と食べるご飯とか着る服はそれなりに用意されてるわけだし、アベルが追い出したりしない限りはエリックもあのまま居付くんじゃないかな。

 実際アベルの手紙から既にもうそんな感じだし。


 アベルの手紙には時々師匠に関しての事も記されていたけど、あいつ本当に普通の魔術師か? みたいな内容で、暗に何か情報あったら吐けってのが透けて見える。

 流石に師匠に黙って勝手に情報を流していいものか考えたので、僕は素直に師匠にその手紙を見せた。


 最初はとても難しい顔をして眉間に皺なんて刻みつつ手紙を見ていた師匠だけど。

 その直後「閃いた!」みたいな顔をして嬉々として手紙を書き始めた師匠に、僕は何を言えただろうか。

 僕の返事と師匠の手紙とを纏めて送り返した後で、どういう事なのか聞いてみたら。


「この機会にちょっと面倒な相手の始末頼んどいた」


 との事。

 笑顔で言うセリフじゃない。


 というか、そんな簡単に始末頼むとか……異端審問官は暗殺者じゃないんですよ。

 僕が思わずそう言ってしまったからか、師匠は心外だとばかりに、

「ここ最近大人しくしてるけどまず間違いなく行動し始めたら異端審問官案件の奴の情報しか流してねぇよ」

 って言ってたけど。


 違う。そうじゃない。


 何だろう。この、上手く言葉にできないこの感情。何をどう言えば正確に師匠に伝わってくれるというのか。



 師匠だけじゃなくて、エリックもまたアイオンの手がかりを求めて仕方なくあちこち探ってた時に得た情報の中で、放置しといたら面倒なことになりそうな厄介な相手とやらの情報をアベルに流したらしく。



 そのせいだろうか。

 ここ最近、異端審問官の目覚ましい活躍のニュースが飛びかっている。

 僕たちの周囲は驚く程に平和だけど、アベルにとってはそうじゃないらしい。

 けど世間での異端審問官に対する評価もちょっとずつ上がってるらしいので、アベルを含めた彼らの組織にとっては良い事なんだろう。きっと。


 名声とか急成長するとその分危険視して即座に叩き潰そうって考える奴も中にはいるかもしれないけど。

 多分そういうのは面倒事を嫌うエリックがどうにかしてると思う。



 ……うん、清々しいまでに他人事だな。




 ところで僕たちはまたもや引っ越した。

 一体何度目だよって言われそうだけど、今回に限ってはまた王都の近くに戻ってきた感じかな。

 あの時師匠が森五月蠅い、とか言い出したから王都の近所の森ではないけど、徒歩一日程度の距離に王都がある。


 あの村での一件は村の人たちが眠っていたからオオゴトにはならなかったけど、何かぐっすり眠りすぎて起きたら今まで村にいたはずの冒険者やってたシィナさんとかいなくなってた、くらいの認識だとは思うんだ。村の人からすれば。

 でも、僕たちにとってはそうじゃない。


 念の為あの後師匠が風葬領域に続く道は閉ざしてしまった。だからもう、行く事はない。行けたとしてもきっと何も残っていないだろうけれど。

 村の人たちは何も知らないけど、僕は知らない振りをするにはちょっと難しいし、何かの拍子にシィナさんの話になった時に、上手く取り繕える自信もない。

 師匠が気を使ってくれたかはさておき、割と頻繁にアベルから手紙が来る状況を考えて王都の近くへと戻ってきた次第だ。


 直接王都に住まないのかって?

 そうなったら余計な面倒事に巻き込まれるだろうが、と苦虫噛み潰したような顔で師匠が言ってた。

 あぁ、うん。最近忙しい事この上ない異端審問官からすれば、使える人材は見逃すなんてしないだろう。

 適度に離れて、あくまでも情報を渡すくらいに留めている。

 これ以上踏み込んでくるようなら、また王都から遠く離れた場所に行くに違いない。恐らくはアベルもそれを察しているからか、師匠に関してはあまりあれこれ言ってこなかった。

 お互いに、手紙のやり取りだけだ。



 現状異端審問官の協力者という立ち位置になっているらしいからか、師匠も以前のように人目を避けに避けきったような場所ではなく、割かし人里に近い場所に居を構えている。

 まぁ、いつもの小屋なんですけどね!!


 異端審問官が活躍するにあたって、人目を避けて暮らしていた人間以外の種族はより潜むようになったり、逆に普通に人里に出てくるようになったり。

 いくつかの変化はあったようだけど、どちらかというと今の所は平和な方向に変化しているようなので僕たちからすれば何も問題はない。

 問題があるのは異端審問官に討伐されそうな奴くらいだろうけど、生憎そういった知り合いは今の所いないので。


 師匠の知り合い魔族やら魔女やら結構いる割に、異端審問官に目を付けられるようなのはいなかったようなので。

 ちょっと前まではグレーゾーンかなー? みたいなのもあったんだけど、アベルと知り合ってあれこれ質問してるうちに、師匠が「あ、何だ問題なかったわ」とか言い出したのでレオンもカインもクライヴもウィンディもカノンも、特に何かを気にしていかなければならないわけではないらしい。


 勿論人里で暴れるようなら問題になるのだけれど。


 ……まぁ、カインもクライヴも普段から割と喧嘩してるように見えるけど、一応場所と状況は選んでやってると思いたい。

 レオンも新たな住処へと移動したらしく、ここ最近はあまり姿を見かけないけれどそれでも忘れた頃にやって来たり手紙が来たりするので、元気でやってるのは確かだ。

 というかやって来る時は大抵ご飯を要求するので師匠が呆れてるんだけどね。ただここ最近は来る時に材料も持参で来るようになったので、出会い頭に魔術をぶちかます事もなくなったと思う。


 ……メトセラが来る前とかは手ぶらで要求したりするのが普通だったもんね。

 そう考えるとレオンも成長したもんだ。


 ところで魔神ウルの一件に関わる事のなかったウィンディだけど。

 カノンが戻ってから話を聞いて、何とも言えない顔をしていたらしい。


 魔王アイオンのかつての部下でもある四天王と戦うのが当初の予定だったのに、いざ蓋を開けてみれば相手をしたのは魔神ウル。

 ウィンディからすれば魔神ウルとは関わりたいと思わなかったようだが、四天王はお目にかかりたかったらしい。興味本位で。

 一人生き残ってるエリックなら王都にいるよ、と僕がカノン経由で教えたら、今度王都に遊びに行くことにしたらしい。ウィンディって案外自由に生きてるよね……



 カインとクライヴはそれぞれ別の大陸に旅に出ちゃったし、当分は会う事もないだろう。


 ちょっとした変化はあるけれど。

 僕と師匠とメトセラと。

 いつものように暮らして、いつものように日々が過ぎていって。


 そうして数日、数か月と経過して。



 ――気付けば僕は十八歳になろうとしていた。

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