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師匠は自称一般市民  作者: 猫宮蒼
五 魔王の章

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実行されなかった暗殺計画と合流



 エリックは特に何とも思っていないのか、さらっと答える。


 いやだってさぁ、アイオン様いなくなって、じゃあこれから自分がいかに楽して暮らすかを考えなきゃなーって時にそれを台無しにしたのはウォルターなんだけどその間にちょいちょい面倒見てくれてたとはいえ、流石にそろそろ面倒になってきたんだよねぇ……と。



 エリックの話からすると、私が封印されて勇者が凱旋したあの時。

 ウォルターやノエルはすぐさま勇者が凱旋した国へ侵攻しようとしたらしい。魔王に何かがあったのは言うまでもなく、そしてそれを知る証人に目をつけるのは当然の事だ。ノエルに関しては魔王を本当に倒したかどうかも疑わしいが、事実であるならそれなりに強者、多少は楽しめるだろうという発想で。


 だが同時にすぐさま張られた魔王城の結界に、考えを改めたらしい。これは何か裏があると。


 魔王と同等、もしくはそれ以上の者が張った結界はウォルターたちですら破る事ができず、ならば魔王はまだどこかにいる可能性が高い、と。

 となればシィナは言うまでもなく、ウォルターとノエルも行方不明状態の魔王を捜す事に関しては否定はしなかったというか、率先して捜すつもりだったらしい。

 例外はただ一人、エリックだ。

 正直最初の時点で手を引きたかったが、面倒を見てくれる人材を手配したりあれこれしてくれた事実は事実なので、少しくらいなら手伝ってもいいかなーと思っていたら気付けば二百年余り。これだけ探して手がかりも何もないならそろそろ諦めた方がいいと思うのになぁ、と思いつつ、手を引くタイミングを見計らっていたのだとか。そこでウォルターが願いを叶える魔神ウルの元へ行きアイオンの行方を問えばいいという流れになったのが今回の話だそうなのだが。



「願い叶えるっていうならさ、居場所を聞くんじゃなくて、目の前に連れてきてもらえばいいと思わない?」

 そう言ったエリックの目はどこまでも冷め切っていた。

「なんでこっちから出向く前提なの? 連れてって、だと場合によってはこっちが危険だからそれはいいよ。でもさ、他にもっと適切な願い方ってあると思う……」


 この時点でエリックはウォルターを見限るつもりだったのだそう。ふむ、見限るタイミングが遅すぎたとは思うが……それは本人もそう思っているようなのでこちらがこれ以上突っ込むのも野暮と言うべきか。


「アイオン様がいなくなってからのシィナやノエルはそう大きく変わったわけじゃないけど、ウォルターはなんていうか……あぁ、こいつ終わったなって。でもこいつと手を切るにしたって、ノエルやシィナは割とウォルターに対してもその考えを否定してないから、下手に敵に回るのも面倒だし。ウォルターがいなくなればアイオン様を捜すにしてもあの二人は放っておけばあと何年かしたら他の事に興味移りそうだし。じゃあ一番面倒なのはウォルターだなって」


 確かに。言い方は悪いがシィナからすれば他に誰か気になる相手ができればこちらの事はきっと綺麗な思い出とかにでもしていただろうし、ノエルは強い奴がいればそれでいい。私に拘る理由がない。

 だがウォルターは。奴はどうなのだろう?


 そもそも知力体力魔力と全てにおいて優れている存在が私だ。圧倒的な才を持ち、実力は申し分ない。同じ魔族のはずなのにどこか別の生命体にすら思われる私、という存在に奴は興味を抱いたのだ。それと同じような存在がそうポンポンいるはずもないので、奴の興味を逸らすとなると相当難しくなってくる。だからこそ私に執着していたとも言えるのだが。

 魔神の返答如何によって、ではあるがエリックはウォルターの抹殺を目論んでいた。

 ここで魔神が魔王アイオンは既に存在しないと告げた所でウォルターがあっさり納得するとも思えず、そうなれば次に奴が言い出しそうなのは、第二の魔王を作ろうとかそういう方向性になりそうだと思ったからだ。

 ……奴の事を考えると確かに言いそうだとは思う。

 魔神ウルに遭遇する前にゲイルと出会っていたら、と考えると頭の痛い展開になるところだったかもしれない。


 とはいえ、ウォルターは魔神ウルにあっさりと吸収されたのでエリックがシィナやカノンの目を掻い潜ってウォルターをどうにかする、という予定はあっさり消えた。


 これが、エリックの言い分である。


「えーと、じゃあー、貴方はもう魔王についてはどうでもいいんですかー?」

「仮に生きてたとして、当時の魔王じゃないから今の俺を養ってもらえるかっていうと無理だろうしー? 下手にまとわりついてまーた扱き使われるのも面倒だしー?」

「だからなんでボクの口調真似しだすんですかー?」

「なんかつられる」

「えー?」

 納得がいかないとばかりにレオンは首をひねっているが、エリックも同じような反応をしていた。決してわざとやっているわけではないらしい。


 ……しかし、だ。こいつの言っている事に嘘はないだろう。そもそも圧倒的に面倒くさがりなのだ。嘘をつくとなると、それを信じ込ませる程度の説得力がいるし、ボロがでないように辻褄もある程度合わせなければならない事を考えるとエリックからすれば嘘というのは一つつくだけでもとても面倒な代物でしかない。

 ……となるとこいつはわざわざ倒さなくても問題はなさそうだな……?

 いや、仮に敵対するとなるとこいつこんなんだが強さに関しては本当に強いので一筋縄ではいかんのだが、戦う必要がないならそれに越したことはない。



「成程、つまり貴様の次なる目的はいかに安全にここを出るか、という事になるわけか」

「そうなるね。……とはいっても、魔神が徘徊してるのを掻い潜って、ここに来た時に使った移送方陣から戻れるかってなると無理っぽいのがね……はぁ、こうなるってわかってたら意地でもウォルターにはついてこなかったのに……」

「方法が、ないわけではない」


「えっ?」

「えっ!?」

「なん……だと……?」

「あるの……?」

(えっ、あるんですか!?)


 脳内の宿主を含めて、一斉にこちらに視線が向いた。特にレオンから向けられる視線が痛い。

 さっきまで何にも策なんて浮かんでなかったじゃないですか、と言わんばかりだ。


「どのみちまずは全員が合流しないと話にならんがな」


 全員が合流、とはいえそれができていないのは現状ゲイルと小娘、そしてルディ。クライヴだ。

 そのうちゲイルたちは三人で行動しているため合流する時も一緒だろうとは思うのだが、問題はクライヴだ。

 カインと共に行動していたというのに、魔神ウルが神殿内部の構造をいじった際に分断される結果となり、現在はどこにいるのかもよくわかっていない。レオンに確認してみたが、そう遠くない位置にいるとは思うんですがー、と言ったきり煮え切らない態度だ。


「レオン、使い魔の目を通して今ゲイルたちとクライヴのいる場所の把握は?」

「周囲の景色が同じ過ぎてここ、ってハッキリと言い切れないのがこまりものですねぇ。というかクライヴが……何か剣持って暴れてるんですけど」

「映像……はいい。見せなくていい」

 見ます? と首を傾げて問いかけてきたレオンに即座に答える。魔神と遭遇して戦闘中、という意味ではないのだろう。レオンの言い方からすると。

 となるとクライヴは魔剣の力を使って何かをしている。

「何やってるんだあの愚兄……いや、待てよ……?」


 レオンの言葉を聞いて呆れたように呟いたカインが、思いついてしまったとばかりに鞘から魔剣を抜いて構える。刀身を覆うようにゆらゆらと炎が揺らめき陽炎を生み出し――僅かばかり室内の温度が上昇する。

 そこで気付く。室内がいつの間にか相当冷え込んでいたという事に。

 ここにレオンと共に来た直後など、吐く息が白くなったりなどしていなかったというのにいつの間にやら吐く息が白くなっていたという事実に。

 それだけ冷えていたというのに今の今まで冷えていたという事実にさえ気付かなかったという事に――!


「くっそ、あの愚兄やっぱりやらかしてやがったな……! これ気付かなかったら俺達諸共って事かよ!!」


 悪態をつきつつもカインは更に魔剣の力を解放していく。吐く息が白くならなくなるあたりまで室内の温度が上昇すると、ぴしっ、と小さな音がした。音の出処を探るように視線を巡らせると壁の一部に亀裂が走っていた。そこだけではなく、他の部分からも小さな亀裂が生まれ、それはやがて根を張り巡らせるかのように広がり――


 壁が、天井が無数に走った亀裂によって崩壊を始める。咄嗟に障壁を張ったのは言うまでもない。

(うっわ! っていうか障壁張れたのルシオン! ウィンディがいないから駄目かと思った!!)

 宿主が焦ったように叫んでいたが、障壁くらいそりゃあ張れるだろう。仮にも私は魔王だったのだから。この身体の魔力は当時と比べれば弱いが、ならばそれに合わせた使い方をすればいいだけの事。


 そもそも粉々になった状態で降り注いできたも同然なので、障壁で防ぐにしてもそこまで苦にはならなかった。もっとごろごろ原型を留めた天井の一部とかが降ってきたならばまた話は違っただろうが。

 キィキィといった音が聞こえてきたのはそれからすぐの事だ。

 音がした方へと視線を向けようとしたが、その音が一つや二つではなかったために音の発生源がわからないままそれでも視線を動かすと、壊れた壁の向こうから、落ちた天井の先から我先にとレオンの使い魔であろうコウモリたちがレオン目掛けて飛んでくる。


「うわわわわ、ちょっ、今障壁あるから無理ですよー」

 障壁を解除しようにも、流石にまだ早いと思っているのだがコウモリたちはお構いなしにレオンの元へと戻ろうとして、障壁によって弾かれてはまた障壁に向かっていくという事をしている。

「使い魔たちが混乱してる……? あれちょっと待って下さい一体何があったんですかー?」

「十中八九愚兄が原因だろうよ……!」

 苦々しく吐き捨てるカインの言葉と同時に、粉々になる以前に凍った天井の一部が落ちてくる。凍った、というよりは氷漬けになっている、といった方が正しいか。


 ふと周囲を見やる。


 クライヴが何をしようとしたのかは、何となく把握した。魔剣の力を使って神殿内部に侵食、最終的に神殿を崩壊させてしまおうと目論んだのだろう。魔神ウルの神殿、という事を考えるのであれば普通はやらかそうという発想にならないと思うのだが……クライヴはそれでもやれると判断し、そしてやらかした、と。


 そもそも神殿内部がどういう構造になっていたのか。普通の建物というよりは迷宮めいていたくらいだ。レオンの使い魔の案内に従って合流しようとしたところで、また内部の構造をいじられたらたまったものではないと思ったのだろう。その手段は既にカノンとエリックによって潰されているなど当然クライヴが知るはずもないのだから。

 カノンですら壁をぶち壊して進むだけだったというのに、クライヴはいっそのこと根本的な部分から破壊しようとした結果――それが現状だった。

 流石に全部を破壊しつくすわけにはいかなかったようだが、大分見晴らしがよくなったな。数部屋先の壁までもが壊れたらしく、私たちがいる室内だった場所からは外が見えるし何なら上を見上げれば空も見える。

 そして、ついでに私たちのいた部屋の天井どころか上にあったであろう階層の床も崩壊してしまったために、そちらにいたゲイルが、小娘が、ルディが、そしてクライヴが落下してくる。


 このままでは私の張った障壁の上に落ちてくる――そう判断して私は彼らを包むようにもう一つ障壁を作り出した。全く同じ強度の障壁を作り出したので、こちらの障壁にぶつかったとしても障壁同士が消滅するだけで我らに被害はないだろう。


 ……それにしても合流できたとはいえ……力技が過ぎる……!

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