やる気のない四天王と達成されたらしい目的
「――あいつが言ってたけど、風葬領域の封印には二種類あるって」
どうするも何も魔神ウルをどうにかする以外の選択肢はない、というのを伝えた直後の事だった。
誰に向かって言うでもなく、何ならこっちが無視していたとしてもそれはそれで構わないとばかりに呟いたのはエリックだった。見れば相変わらず壁に背を預けたまま座り込んでいる。
途端にしんと静まり返った空間で、一斉に視線が自分に向けられているという事実を理解しているのかしていないのか。奴は更に続ける。
「確か……かつての魔王が封印する際、魔神ウルも当然それに抵抗を示した。けれど、両者の力は僅かばかり魔王が上回り魔神は封印されることに。
かつて魔王が封印したのは風葬領域。ここに来るための封印を解くカギは勇者や英雄などに連なる者の血。
封印の一つはこれ。
で、もう一つは魔神ウルがこの神殿に仕掛けた。もしそちらが上手く起動していたならば、今頃は当時の魔王がここに封じられていたはずのそれは、現在この神殿で魔神ウルの力に合わせて動いている」
「あいつってウォルター、でしたっけ? 当時の文献とかそういうのこっちは知らないから何とも言えませんけどー、じゃあ今あるその封印? 魔王を捕らえるつもりだったそれが今健在ってのはおかしくないですかー? まるで確認してきたみたいに」
レオンの言葉が途中で止まる。
「したよー、面倒だけど。で、面倒だけど厄介だから一応半分は壊しておいた」
ふああ、とあくびをしながらも答えたエリックは、お前本当にあのエリックかと問いたくなる。かつてのお前なら面倒だけど厄介だから自分で壊すとかいう前に誰かを適当に丸め込んであとはお任せだっただろうに。
まぁ、この場に他にお任せできる人物というのがいなかったから、というのもあるだろうが。
「で、残りの半分だけどそれはそっちのゴリラが壊してたから、実質魔神が仕掛けてたやつはもうないね」
「まて、何だそのゴリラって。私か? 私の事か? というか人を指差すんじゃない」
「カノン、貴方こっちと合流するはずだったのに中々来なかったとはいえ……え、何してたんですか?」
胡乱げな眼差しを向けられて――それもよりにもよってレオンにだ――カノンは何かを否定するかのように首を横に振った。この場に直接いるわけではないとはいえ、私の中にはこいつが王子と呼ぶ宿主がいる。恐らくは宿主ただ一人に対しての否定なのだろう。
「いえ、違うのです。私は確かに合流しようとしましたが、使い魔が案内する先についていくと高確率で行き止まりでして。それに関してはレオンが悪いとしか言いようがないのですが!
壁を壊したりして突き進んで行った先に何かいかにもな部屋があって、しかもその部屋の中央にこれまたやっぱりいかにもな宝珠とかが浮いてて。どう考えても魔神に関連する何かだろうし、淡く発光してたしもしかしてこれ神殿に関する機能とかなんかそういうの司ってる可能性あるし壊したら魔神の力が弱体とかそういう感じになるのでは? と思った結果です」
「えー? でもそれ魔神をうまくここに留めておいたとかそういう可能性考えたりしなかったんですかー?」
「? 何を言っている。そうだとするならあの宝珠から感じられる力が魔神と同じ物であるはずがないだろう。同じだからこそ、壊した方が良さそうだと判断したのだが」
「まったく……とんだ脳筋だと蔑むべきかと思ったがそこら辺は考えていたのか……」
思わず呆れたように呟く。
「いやお前、その姿でそういう事言うの割と心に刺さるんだが」
一応エリックがいるという部分で配慮したのだろうが、それでもやはり黙って言われるままというのも癪だったのだろう。とても不満げな顔をしているが、私がそこら辺をどうにか気遣うつもりは一切ない。
「時に、貴様、当たり前のようにするっとこちらの会話に入り込んできたが、そいつが半分壊したというのはつまりずっとそいつの後を尾行でもしていたのか?」
「ん? あぁ、最初の方でこれを」
言いながらエリックが指を動かすと、カノンの足下からするりと一匹の蛇が現れる。本当に小さな蛇だ。しかも黒く影と同化するような色なので、余程の事がなければ気付く事もないだろう。
「一応ここに引きずり込まれる前に。それで、何でかずーっと動かない奴がいたから、多分ここが安全地帯なんだろうって思ってここに向かう途中で封印見つけちゃったから、一応破壊してから来た」
とぷん、とまるで水の中に潜るように再びカノンの影に潜って蛇は見えなくなる。
ここに引きずり込まれる前、という事は当然神殿に引きずり込まれる前の事を言っているのだろう。その時から既に……?
というか、お前昔こんなんなかっただろ。いつの間に身に着けたこんな芸当。
そりゃああれから数百年単位で時間が経過してるわけだから、新しい芸の一つや二つ身に着けていてもおかしくはないが。
「…………なんていうか、貴方たち魔王の四天王だった人ですよね? 他のお三方とは貴方だけ何だか微妙に違う気がするんですけどー?」
「まぁ、僕はもうアイオン様がどうとかそこどうでもいいからねー。どうしてもって頼みこまれてウォルターに付き合わされてただけー。協力している間はウォルターが身の回りの世話をする人とか手配してくれるっていうし、そこそこ協力してる方が楽だからそうしてたってだけでー、流石にここまでの事は想定してなかったから割に合わないなーとは思ってるけど」
そうだな。お前は昔からとりあえず養ってもらえればそれでいいみたいな部分あったな。そこは変わってないのか。
「でも今回ここに来る前に今まで面倒見てくれた人は契約期間きれちゃってるしー、ウォルターがどうなったかは知らないけど影につけてたこいつが戻ってきたって事はもう駄目なんだろうしー」
「何でそこでボクの口調真似しだすんですかやめてくださいよ」
「あー、働きたくなーい。何にもしたくないけどでもだからって死にたいわけじゃなーい。あーあ、どうせならお金持ちのお嬢様の家の犬か猫あたりの畜生にでも生まれてれば良かったのになー。ただいるだけでちやほやされてご飯の心配もしなくて遊ぶか寝るかしてるだけで許される、そんな生活してたーい」
「うわなんですかこのどうしようもないごくつぶし」
「そなたそのような顔もできたのだな。まるで孵化したばかりのカマキリを見るような目をしているぞ」
(いやでもレオンも大概……研究とか何やらやってはいるけど、生活って意味だとほとんどこっちにおんぶにだっこじゃないですか)
あぁ、あの頃からちっとも中身は変わっていないのだな! 屑め!! と清々しいまでの気分になったが、そんなエリックを見てレオンが明らかにドン引きしている。だがしかし私の脳内では宿主がそんなレオンに引いているわけなのだが。
「ある意味同族嫌悪はさておいて、だ。貴様はつまりこちらと戦う意思はない、という事でいいのか? 違うなら今のうちにさくっと斬り捨てるが」
ちきっ、と刀に手をかけつつカインが問いかける。
「戦うのめんどくさいからやりたくないなぁ。そういうのは僕じゃなくてノエルの担当だし。あぁ、でもあいつも死んだんだっけ? あーあ、困るなぁ。鍛錬に付き合えっていうのさえなければあいつもそこそこ僕の面倒見てくれてたのに」
「あの」
「私に言われても困るぞ」
何かを言いかけたレオンに即座に告げて言葉を封じる。いや、本当にそれを私に言われてもどうしろと。そもそもこいつは出会った当初からこんなんだったぞ。
こいつがやる気を出したのは恐らく私が魔王として君臨して長きにわたって統治するだろうという判断のもとだからであって、その結果が何でか知らんが私に侍るとかいう頭おかしい結論に到達しただけで。やる気を出すのはいいが、そういう意味でまでやる気を出す必要はこれっぽっちもなかったと思う。むしろそれやらかした後私はこいつを遠ざけようとして無駄にあれこれ仕事押し付けたし。あれがなければ恐らくは無害認定して傍に置いておくくらいならまぁいいか、と受け入れていたかもしれない。何だただの自滅か。
「確認しておきたいのだが。お前らの、ではなくお前の目的はなんだ?」
今の今までのやり取りを見た上でカノンが疑問を口にする。
「目的? 僕の? あぁ、もう達成されたからないよ」
それに対してエリックはあっけらかんと答えてみせた。ない、と言われた所で即座に納得などできなかったのだろう。更に何かを問おうとしたカノンよりも早く、エリックは言葉を続けた。
「だってもう、ウォルター死んだも同然だからね」
…………おい、何でそこで一斉に私を見た?
こいつの考えてる事を代わりに言えとか言われても無茶振りにも程があるとしか思えんのだが。




