ちっとも盛り上がらない戦闘とつきそうな決着
さて、ノエルというやつについて少しだけ語るとしよう。
見た目は儚く見えるものの、なんだかんだで四天王の一人になってしまったような奴だ。
見た目に反して実力は確かである。
いっそ見た目通りでいてくれたならば、と思わなくもないのだが。
こいつも例外なく魔王であった私に執着する一人である。
方向性としては強者との戦いに楽しみを見出すとかそんな感じの。
四天王の中では割とまともな理由のような気がするが、執着される身からすると冗談ではない。
強い奴と戦いたい。その気持ちはまぁ、わからんでもない。強くなるために強者と戦いその経験を糧とする。武人と呼ばれるタイプにありがちではあるが、理解できない事も無い考え方ではある。
だが、奴はそれが度を越していた。
かつて――私が魔王として君臨していた頃よりも更に昔、暴君と呼ばれていた魔族がいたが、恐らくノエルはそれに近い性質を持っている。
とはいえ、暴君と呼ばれていた者に関してはあまり詳しく言い伝えられてもいないし詳細は不明だったが、それでもわずかに残されていた口伝伝承の類から何となく想像する事はできる。
……その暴君の身内にあたるのが、クライヴとカインだという事実は割と先程知ったばかりだ。
脳内で宿主が言うには、けれども暴君はある時を境にその鳴りを潜めたため、身内であっても暴君が暴君であったと知る事はなかったのだとか。
恋をすると人は変わるというが……そうか、暴君の変化は割とマシな方に転がったという事か。
シィナのような変化を遂げていたならば、きっと私が魔王となるよりも先に暴君が魔王として君臨していたに違いない。
ノエルは強者を求めた結果、よりにもよって私に目をつけそれはもう毎日熱烈に喧嘩を売ってきた。
こちとら部屋で静かに本を読みたいと思っていても、毎日のように容赦なく襲来されてみろ。読書もおちおちできやしない。私が読書をするためにできる事はただ一つ、可及的速やかにノエルを沈め、部屋に戻る事だ。
どこかで手を抜いて負けておくべきだったのかもしれない、と後々になって思った事もあったが、あいつこっちが手加減したという事実に気づくかどうかはさておき、負けるにしてもそれなりの怪我をすることがわかっている以上、その手段はどうにも躊躇われた。
相手がスマートに勝ってくれるならともかく、下手に隙を見せて負けてやろうと思ってもその時点で容赦なく殺しにくるような相手だぞ。
一度負けて、いやぁ、君は強いなぁなんて言うどころかまず負ける時点で殺しに来てるようなの相手にそんな事したら、そこで人生終了する。
結果として私はノエルがやって来るたびに容赦なく徹底的に叩きのめした。下手に手加減しても毎日のようにやってくるなら、大怪我でもさせてしばらくは出てこないようにしようと思ったのだ。
それでも毎日のようにやって来たが。怖い。何なのだあいつ。怪我治してから来るならともかく、骨が折れてようと何だろうと毎日這いずるようにやって来るとかしかもその状態でなお戦いを挑んでくるとか不気味以外の何ものでもない。
もう少しで何かが掴めそうなんだ、とか言っていたが、掴むと同時に死んでるんじゃなかろうか。結局あの後しばらく付き合わされたが何を掴んだのか、掴めたのかは知らん。
他にもっと強そうな奴がいたならそっちに興味の矛先が向いただろうに、残念な事に当時は私以上に強い奴というものがいなかった。私より強くはないが、ノエルと実力的にはまぁ同じくらい、という感じの連中なら他にもいたが、あくまでも奴の狙いは自分と同等の実力者ではなく強者である。
なのでそれはもうしつこく付け狙われた。
もういっそこいつ殺してやろうかと思って何度かそのつもりで攻撃も仕掛けたのだが、見た目の儚さに反してこいつはとってもしぶとかった。いや普通死ぬだろって攻撃でも怪我はしたものの生き残った。
一時期こいつ基準になってたせいで、他の連中に攻撃仕掛ける時にこれくらいならまぁ大丈夫だろうと思ってたらあっさり死なれたりして、そのせいでそういや冷酷無慈悲な魔王とかいう話があっという間に流れたっけか。
ともあれ奴は、今もなお強者を求めている。私が封印されて以降の事は知らんが、死んでいるはずがないと確信していたのだろう。さくっと諦めてほしかったが。だが四天王はどいつもこいつも悪い意味で私の狂信者だったので、直接私の死体でも見ない限りは諦めるなどという事はなかったのだろう。
いっそそこらで大暴れでもしてくれていれば、今頃別の勇者に討伐されていた可能性もありはするのだが、変な所で冷静に立ち回る連中だったからな。だからこそ現状こうなっているわけだが。
さて、ノエルが魔神ウルにこうして引きずり込まれて、状況をどこまで把握しているかはわからないが。
それでも魔神ウルが強者であるという事実は理解していることだろう。そうなれば奴は率先してウルに狙いを定めにいく。だがそれよりも先にクライヴとカインに遭遇。彼らが所持している武器が魔剣であると早々に見抜き――じゃあついでに遊んでいこうといった所か。あの兄弟からすれば災難でしかないな。
現に今、あの魔剣使いの兄弟はそれぞれ刀を手にノエルと戦っている。とはいうものの……レオンの術でその光景が映し出されているとはいえ、あくまでも使い魔の目を通してみている光景を映している、という術だ。使い魔が目で追い切れていなければ、映し出された光景を見ているこちら側もいまいち何が起きているのか把握はできていなかった。
ただ、地を蹴る音とぶつかりあう音、剣戟の音、といったものに関してははっきりと聞こえるため、何が起きているかを推察する事はできる。
ちなみにノエルは武器を所持してはいない。使い魔は見えていないだろうが、私からすればなんとなく想像はできる。かつて何度も戦う事になった相手だ。
ノエルは素手で戦ってはいるが、奴は魔術を放つのではなく魔力を直接拳に纏わせて戦っているので、生半可な武器だと素手で普通に受け止めるし何なら破壊したりもする。
金属音が聞こえているという事から、あの魔剣が折られたりはしていないようだが……正直な所長期戦になればどうだろうな。
などと思っていると、唐突に音が止んだ。ざっと靴底を擦りながらも動きを止めたのはクライヴやカインだけではない。ノエルもまた立ち止まっていた。
お互いにかすり傷だろうが数が多い。何というかそのせいでお互いぼろぼろに見えた。
けれどもノエルにとってこの程度は怪我の内に入らない。クライヴやカインの方がもしかしたら思っている以上にダメージを受けている可能性の方が圧倒的に高かった。
「おいおい、魔剣の所持者だからもうちっと強い奴かと思ったのに、まさかその程度じゃないだろうな?」
「まさか、これで本気だと思っていたのかい?」
「相手の力量を見誤るようであれば、こっちもそっくりそのまま言葉を返してやろう。その程度か?」
「はっ、上等だ。それじゃあ早速第二ラウンドといこうじゃねぇか!」
ノエルがそう叫んで、再び地を蹴る。それを迎撃するためか、クライヴとカインもそれぞれが動き出して――
またもや、音だけが響く。
「……使い魔の目を通してしか見えないというのもどうかと思うな」
「そうですねぇ、これじゃ何やってるのかさっぱりです」
正直音だけで何が起きているか把握しろと言われても限度がある。レオンに至っては早々に見る事を諦めたのだろう。祭壇に腰をかけたまま、ぷらぷらと足を揺らしている。
正直他の連中がどうなっているか確認した方がまだ有意義なのではないか、と思わなくもないのだが、下手に別の所を見ている間に決着がついていたりするとそれはそれで困る。
他の連中の使い魔から特に何か声が届いていないという事は、向こう側では今の所特に何かがあるわけでもないのだろう。
「そういえば、今あいつらの音は他の連中にも届いているのか?」
「え? いえ、常時届けっぱなしだとボクが疲れるんで今は向こうの音が聞こえてるのはボクたち側だけであって、こっちの声も届けてませんね。何か言伝でも?」
「いや、ついさっき呟いた言葉が向こうに聞こえているならノエルが何らかの反応をしていただろうに、何もなかったから」
「あぁ、だって無駄にこっちの存在伝えるのって危険じゃないですか? 彼らがここで決着つけてくれるならともかく、そうじゃなかったらって考えると、ねぇ?」
なるほど、こいつの自己保身に関しての事を考えると変な所で徹底してるなと納得するしかない。
ところで聞こえてくる音が段々激しくなってきているし、何なら「これで終わりだ!」なんて叫んでいるノエルの声までしているのだが。
相変わらず使い魔は目で追い切れていないのか、映し出される光景だけはとても静かなものだった。




