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師匠は自称一般市民  作者: 猫宮蒼
五 魔王の章

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神殿ダンジョンとろくでもないかつての部下



 神殿内部へ入り込んだ私は思わず叫びそうになっていた。

 私の知っている神殿じゃない!! と。

 いや、これもう完全にダンジョンでは?


 魔神ウルを祀る神殿は、建物自体がかなり大規模なものであったことは当時の書物で見知っている。けれど、神殿内部がこんなだったかというとそれは違うと断言できた。

 ウルの力でもって創り出したも同然な神殿だ。見た目は当時祀られていたそれであったとしても、内部は私たちを決して外には出さない、という意思すら感じられる。


「あっ、ルシオン! 無事だったんですねー? えっ、というか、貴方今普通に入ってきましたけど、えっ、わざわざ自ら飛び込んできたんですか? メンタルオリハルコンか何かでできてるんですかー?」

 最悪誰とも合流できないかもしれない、と思っていただけに、入ってすぐさまレオンと合流できたのはある意味予想外とも言えた。


「お前がここにいるという事は……ゲイルや小娘は?」

「わかりません。ボクは何とかあの植物から脱出するので精一杯だったので」

「……なんだ、使えぬ奴め」

「ちょっ、お弟子さんの顔でそういう事言うの止めて下さいねー。凹むよりもイラっとするので」

(いや、僕の顔で言われるとイラっとするって……)


 頭の中で宿主が何やら物言いたげにしていたが、どのみち伝わる事はないと思ったのだろう。ひとまずは黙り込む。


「だって仕方ないじゃないですかー。ボクだって必死だったんですよー? ゲイルやお弟子さんがどこに引きずり込まれたかなんて、脱出するのに必死でそこまで見てられるわけないじゃないですかー」


 まぁ、言い分としてはそうだな。こいつ実際自分は非戦闘員だとか言ってるし。

 せめてゲイルか小娘がどっちに引きずり込まれたかを見ていてもいいではないか、とそれでも思うのは確かだ。現に入ってすぐの場所だというのに、既にここから伸びる通路は三つに分かれている。更に奥は暗くて何も見えない。当てずっぽうで突き進むにしても、いつ誰がウルと遭遇するかと考えると無駄に迷っている時間すらないのだ。


「んー、でも、あ、はい。大丈夫そうですー」

「何がだ」

 主語をすっ飛ばして話すのを止めてくれないか?


 レオンが懐のあたりをごそごそとやっていると、そこから出てきたのはコウモリだった。

 そこらの洞窟でよく見かけるようなやつではなく、真っ白なコウモリ。こいつの使い魔だな。さっきシィナにぶちあててたやつじゃないか? そいつ。


「えーと、ボクの使い魔の中でもこの子たちは特殊能力持ちでしてー。この子たちを通してボクが遠見できるだけじゃなくて、この子たちの口を通じて向こう側と会話もできるんですよー」

(え、何それ便利)

「……ふむ? 旧文明に存在したビデオ通話とかそういうやつに似ているな?」

「そうですそうですー。そんな感じですー。ただ、使い魔たちを通さないといけないので色々と制限があるんですけどー」


 ……使えない奴だなと思っていたが前言を撤回しよう。こいつ地味に有能では?

 え、何でこいつ当時の魔王軍にいなかったんだ? いたら絶対側近あたりに召し抱えてたのに。

 あぁ、でも、そうなったらそうなったでウォルターかシィナあたりに殺されてそうだな。


「そういうわけで、えーと、聞こえてますかー? こちらレオンー、聞こえたなら至急応答してくださーい」

「あー、俺だ。こっちは一応無事だが……レオン、お前どこにいるんだ?」

「こちらも何とか無事だ。ところで先程から貴殿の使い魔がやたら周囲をパタパタ飛んでるんだが」


 レオンの使い魔を通して、ゲイルの声と次いで小娘の声が聞こえてくる。どうやら今の所は無事のようだ。


「えーと、こっちは割と外側に近い所ですかねー? ルシオンと合流してますー。あと使い魔の口を通じて話してるので、ボクは貴方たちの近くにはいません」

「使い魔……君の使い魔何気に優秀だな?」

「そうか。目障りだから斬り捨てようかと思ったのだが、それは不味いのか」


 レオンの声が聞こえても姿が見えない事で警戒していたのだろう。クライヴとカインの声が聞こえてくる。


「あっ、良かった。そっちにもちゃんとボクの使い魔くっついてたんですねー。はぐれてたらどうしようもないから一先ずは安心しましたー」


「いや、ちょっと待て。ルディとカノンは?」

「私は大丈夫だ。今の所はな」


 私の声に即座にカノンの声が返ってきた。今の所は、という部分が少々不吉ではあるが、一応生きてはいるらしい。

「ルディなら一応俺の近くにいるぜ。今怪我を治してるところだし、まだ意識が戻ってはいないが生きてはいる」

 ゲイルの言葉になら問題ないなと安心する。あの時別々に引きずり込まれていったように見えたから、最悪の展開も予想していたがそれは回避されたようだ。


「で? ここがあの何かにょっきり出てきた神殿の中だってのはわかってるが。あの魔神ウルってのは何なんだ?」


 ゲイルの声に、思わずレオンと目と目を合わせる。レオンもどうやら魔神ウルについて知ってはいるらしい。というか、最近生まれました、とかじゃなければ大抵の魔族は名前くらいは知っているはずだ。


「えーっと、魔神ウルっていうのは願いを叶えてくれる魔神、と言われていますー。とはいえ、ボクがその話を聞いた時には既に封印されてたようですけど。さっきの様子から一応願いを叶えるっていうのは嘘じゃないっぽいですねー」

「あぁ、それはさっきので何となく察した。そうじゃない。俺が聞きたいのはそういう事じゃねぇ。ウォルターはあの方の行方を知りたいとか言ってたな。それって魔王アイオンだろ? けどあいつはまだ叶えていない願いを先に叶えると言っていた。ウォルターの願いを叶えるのはつまりその後って事になる。

 あいつがここに封印される前の願いを今叶えようって事だろそれって。

 ……何百年前に願われたものだ? それは」


 使い魔はそれぞれに一匹。ゲイルの声を伝えている間は当然他の誰かが何かを言った所で使い魔がそれを伝えるのは無理だ。それをわかっているからこそ、他の連中は一先ず大人しくしているのだろう。


「流石にそこまではボクにもわかりませんー。ルシオン、貴方言ってましたよねぇ? 魔神ウルは前の魔王が封印したって」

「あぁ、私の記憶では……魔王アイオンよりも前の魔王。名前は特に重要ではないが、年数にしておおよそ……八百年ほど前の事だと記録されていた、はずだ」


「はっぴゃく……それはまた、随分と大昔だな」


 そこまでいくともう何かを想像するのも難しいのだろう。現実感がないとばかりに気の抜けた小娘の声がした。


「あぁ、だからこそウォルターも詳しくは知らなかったのだろう。しかしよりにもよって封印の解き方は知ってしまった」

「そういえば、封印の解き方って何だったんですかー?」

「魔王が封印した際に、代替わりした魔王がまた封印を解くような事になったらと懸念した結果、封印は勇者かそれに連なる者の血を持ってしてしか解けないようにしてあった。

 ……メトランス家の人間は、そういう意味ではうってつけだったんだろうな。じゃなきゃウォルターが子供の、ましてや人間の世話などするものか」

 あいつはどちらかというと人間の世話なんてするどころか逆に人間を解体する事に楽しみを見出すタイプだったからな。誰彼構わずやらかしていたわけじゃなくて、敵対した奴を捕らえて、だったから思った以上の大量虐殺には至っていないが。


 まぁ、そこから更に突き抜けて、私を解体しようとしていた事は今でも許していないのだが。

 信じられるか? 側近とか言いつつ右腕的立場の奴が常にこっちの命狙ってくるんだぞ……? 私が四天王と常に距離を置きたいと思うのは当然の流れだと言える。

 しかもただ殺すだけならまだしも、あいつ生きたままじわじわ解体したいとかのたまってたからな。こっちもあわよくばウォルターはどこかで死んでくれないかなと思ってあれこれ厄介な案件とか無茶振りとかしたんだがな……結果? 御覧の通りだ。まぁ、今どこでどうなってるかは知らんが。


「成程な、魔神ウルは魔族くらいしか知らない存在。大昔なら人間も知ってた可能性はあるが、いつの間にやら封印されて姿を見る事もなくなれば人の歴史からその名はいつか消える。その頃に勇者とかそこらへんが魔族に唆されて封印を解くような事には……勇者がよっぽどアホの子じゃなきゃ起こりえない展開か。

 だからこそ、ルディの存在はちょうど良かった、って事か……」

「う……」


 治癒魔術でもかけ終わったのか、ゲイルの声の後に小さいがルディの掠れた声が聞こえてきた。こちらから姿は確認できないため、意識があってこの話が聞こえているかまではわからないが……もし聞こえていたなら多少なりともショックだろう。保護者的立場だと言っていたからな。親の代わりに今まで面倒みてた奴が、実は最初から利用するためだったと知れば……良い気分はしないだろう。



 本当にあいつら、ロクな事しないな。

 かつて魔王だった私が言うなと思うが、それは紛れもない本心だった。

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