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師匠は自称一般市民  作者: 猫宮蒼
五 魔王の章

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訪れた村と眠る人々



 私の中でわぁわぁと騒々しいこの体の持ち主は、私から見るととても微妙な生き物だった。考えている事が駄々漏れで、常々脳内が騒がしい事この上ないが、黙れと言ったところで無駄だろう事は理解してしまった。

 私はこやつの中に居た時であってもこやつに考えを駄々漏れにするような事などなかったというのに、こやつはそこに思い至らずそのまま思考を垂れ流している。

 結果として理解できたのは、こいつ身体乗っ取られてる割に私に対して悪感情の一つも抱いていない、という頭の中身を心底から心配するような事だった。

 確かにずっとこの身体を支配し続けるのは厳しいものがある。だからこそ、意識が飛んでいようと何だろうと少々強引な手段ではあったが一時的という形で私が表に出る事になったけれど。


 こいつ不満の一つも抱いていないってどういう事だ。

 恐らく師匠と呼ぶ勇者や、メトセラと呼んでいた小娘あたりを害すれば話は違ってくるのだろう。


 かつての私の周囲に群がっていた者どもとはまた違ったベクトルで頭の中身がお花畑かぬるま湯なんだな……と思うと自然と納得できた。一体どんな育ち方をすればここまでおめでたい生き物になるのだろうか。残念ながら私が以前一度出てきた時より前の事は見ていないので知る由もない。

 そもそも復活するための魔力だってほぼ無意識だったからなぁ。あれ全ての魔力を吸収できていればもっと早くに復活できたかもしれないんだが。

 あぁ、だがしかし、無差別に魔術を吸収すると魔術を使って攻撃してくる相手がいなくなってしまうか。そうなると目的から遠のくだけなので、やはり無意識であっても意図的に吸収する魔術を選んでいたのは正しかったのだろう。



 さて、この面子でもきっと珍しいのだろう。一同揃って村に出向く事などは。

 歩くのだりぃ、とか言っているのはかつての勇者だ。いやお前私を倒すために世界中駆けずり回っていた事だってあっただろうに……それに比べればあの家から村までの距離とか散歩するくらいのものではないのか。


「ホントですよね。ボクあまり長距離を歩くのは得意じゃないんですけどー」


 ゲイルの言葉に同意するようにレオンが言う。いや、お前歩いてないだろ浮いてるだろ。

 正直とても突っ込みたかったが、そのツッコミは既にゲイルがおこなっていた。


「ところで、結局どうするつもりなんだ? 村の住人を巻き込むわけにはいかんのだろう? となるとまずはおびき寄せるわけだが……」

 カノンと呼ばれていた女……いや、本当に女かこいつ……まぁ見た目は女だ。そういう事にしておこう。

 ともあれカノンが現状ノープランである事実を再度確認するように口にする。


「おびき寄せるのであれば、適任はゲイルだな」

 カインが空を飛んでいく鳥を眺めつつ呟く。確かにそいつの言う通りではあるのだが……

 ここで私はゲイルへと視線を移した。まだ寝足りないのだろう、くぁ、とあくびをしつつも本人は「あー、そうだろうなー」などと頷いている。


 ……一応、こいつ私の力を受け継ぐ形になって挙句不老不死にもなったらしいし、危機感がないわけではないのだが。事実今の今まで四天王の存在を忘却していたわけでもなく、巧妙に隠れ住んでいたのだから囮という選択肢を選ぶ事はないだろうなと思ったのだが。


「手っ取り早いのはやっぱそれか。……気は進まないが、ちらっと俺の姿をお披露目したらさっさと逃げるぞ」

 おびき寄せるには最適。だがしかしそこで捕まればどんな目に遭うかわかったものではない。何故私の力を得ているのか、当然捕まれば尋問されるだろう。尋問で済めばいいが、拷問になる可能性も否定できない。

 ましてや、ゲイルがかつての勇者だと気づかずとも殺しても死なないとわかったならば、拷問はより手段をえらばないものになる事だろう。

 死ななくとも、痛覚がないわけではない。いっそ殺してほしいと思えるほどの苦痛を味わう事になる可能性があるからこそ、彼は今まで人里から離れて隠れ住んでいたのだろう。


(確かに村で戦うわけにもいきませんからね。まぁ師匠の逃げ足は確かなんで大丈夫だと思いますけど)


 頭の中で宿主の声がする。逃げ足に対する絶対の信頼っていうのもどうなんだとは思うのだが。そこは実力とかそういうものではないのだろうか。


「戦うにしても村でってわけにはいかない。けど、他のどっか遠い所に行くにしても事前に転移方陣敷いたわけでもないから戦う場所としてはこの大陸になる。とはいえ大陸中を移動するわけにもいかない。

 まぁ、精々そこらの森とか山の中とかそっちだろうな。そこらへんなら一応移送方陣ないわけじゃないんだ」

「さっすがゲイルー、そういう小物がちまちまやりそうな事だけは抜かりないですねー」

「おうよ。任せろ」


 正直レオンの言葉は到底褒めているようには聞こえないのだが、ゲイルは何故か自慢げに胸を張っている。

 いや……まぁ、本人がいいならいいのだろう。


 そうこうしているうちに村が見えてきた。こいつの中にいてみていた時と変わらず、村は平和そうである。

 ……ああいうところで何事にも煩わされずにのんびり過ごせたらな、とは思ったがそれは無理な願いなのだろう。ところであの村、前々から思っていたが何か引っかかるんだよな……


(? 何か静かですね?)


 宿主が雰囲気的に首を傾げていそうな感じで言うので、もう一度村を見る。静か、なのだろうか? いつもこんな感じじゃなかったか?

 いや、しかし言われてみると普段はもうちょっと村に住む子供たちの駆け回る声とか聞こえてきていたような気が……


「どうした?」

「あぁ、いや、こやつが静かだとか言うものでな。言われてみればいつもよりは、というところか」


 私の様子がおかしいと気付いたのだろう。ゲイルの問いかけに私もまたそう答えていた。

 そもそもこの村に最も足を運んでいるのは宿主だ。他の者たちはそもそも一度足を運んでいればいい方、くらいの来訪回数。異変があったとして即座に気付けるかとなるとそれは微妙な話であった。


「血の匂いはしないから、流石に行ったら村人が虐殺されてた、なんて事にはなってないと思うけどね」

 軽い口調でクライヴが言う。場を和ませようとしただけなのか、それとも単なる軽い冗談だったのか。どちらにしても確かに血の匂いや、誰かが死んだといったような不穏な気配は感じ取れない。奴らはあくまでも私の存在か痕跡を捜しているだけで、今の所は大人しくしているのだからそのような展開があってたまるかという話でもあるのだが。


「だが、何かがあった可能性もある。気を付けて行こう」

 カノンの言葉に頷いて。私を含めた一同は、注意深く村へと近づいていった。



 ――結論から言うと村人は無事だった。既に死んだあとだとか、焼き払われて血の匂い以前の問題であったとかそういった事はない。

 しかし、村の住人全員が眠りについていた。いつからかはわからないが、夜中などではないだろう。

 恐らく朝……それも村人たちのあらかたが朝食を済ませたであろう直後だろうか。

 そのくらいの時間帯に、まぁ予想はつくがウォルターあたりだろう。眠りの術を村全体に使ったに違いない。

 椅子に座ったまま眠りに落ちている者はまだしも、これから出かけようとしていたであろう村人は家の中、玄関のあたりで倒れていたり、家から出た直後に倒れていたり、挙句道端に倒れている者もいる。見える範囲の住人を確認してみたが、彼らはいずれもただ眠りに落ちているだけだった。


 しかしこんな場所で寝ていたら、身体を痛めそうではあるな。

 だからといって一人一人丁寧に運んでやる義理はないが。

 何となく川の近くで倒れている者に関しては、うっかり寝がえりを打った拍子に川に落ちたりする可能性もあったので少し場所を移動させはしたが。


(えぇ、これ一体どういう事……?)


 宿主の疑問ももっともだ。というか、村人全員を眠らせる意味は何だ。見ればゲイルたちも意味が分からないという顔をしている。ただ一人、羽を持つレオンだけがパタパタと上空へ羽ばたいて――村を見渡してみたのだろう。ややあってから降りてくる。


「あっちの丘の方に起きてる人がいるみたいですけどー、ここからじゃボクの目だと誰なのかまではちょっとわからないですねー」

「数は?」

「えーと、四人、いや、五人? 何かそれくらいいたような気がします」

「四天王とメトセラの弟、であれば数としては一致するな」


 どのみち起きているのが彼らだけだというのなら、そこへ赴くのが手っ取り早い。

 ある意味大人数で村に訪れるのは無駄に注目を集めるのではないか、と思っていたが奴らの仕業とはいえ村人は眠っている。無駄な注目を集める事もなくなったため、とりあえずそこらで眠っている村人を踏んづけたりしない程度に注意しつつ、私たちは奴らがいるであろう丘へと向かった。

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