事態の把握とよくわからないうちに結ばれた協定
「魔王アイオンには当時側近とも呼べる四人の部下がいた。正直魔王討伐にあたってこいつらの存在が一番のネックとも言えたわけだが……俺達が城に乗り込んだ時にはその四人のうち誰も出てくる気配すらないまま……あの結末を迎えた。
あの時俺が人前に出る事ができなくなって、残っていた仲間と急遽どうにか話の辻褄を合わせて凱旋してもらって。しばらくの間はあいつらも内心生きた心地がしなかっただろうよ。四天王は倒していないしそもそも影も形も出てこなかったんだからな。
いつ、爆音で目が覚めたら火の海でしたなんて事になるか……まぁ、あまりにも出てくる様子もなかったんで他の勇者候補の誰かが運良く倒してくれでもしたかと思ってはいたんだが……やっぱ生き残ってたか」
僕の意識は普通に起きているという話を聞いていたからか、師匠はメトセラと恐らく僕に説明するつもりだったのだろう感じに言う。
「出てこなくて当然だろう。何のために私があいつらにあれこれ言いつけて遠ざけていたと思っている」
「お前の仕業か」
「言っちゃなんだがあの四人は私からすれば四天王だの側近の部下だのというよりは、手の付けられない狂信者みたいなものだぞ」
「何でそんなの近くに置いてたんだよ」
「置きたくなかったが気付くと勝手にいるのだから手に負えない」
「…………うん、ちょっと待ってくれ。何か今、お前と戦った時のあれこれ色々もしかしたら俺達相当認識間違ってたんじゃないかなっていう気がしてきたんだ」
片手で待ったをかけるようにした師匠に対してアイオンは僕の身体でありながら、ふん、とふんぞり返りつつ腕などを組んでいる。何だかこれではどっちが弟子で師匠なのかわからなくなってくる。
「あの時はそうだな……まーた頭のおかしい信者が殴り込みにやってきたかとうんざりしていたな。こうなったら徹底的に痛めつけてこっちに完全服従するようになったら世界の最果てあたりにお使いにでも出そうかと思っていたわけだが。
どうも違うな? と思った時には気付いたら封印されてたからな。……思えばよくあの宝珠の使い道を知っていたものよ」
「こちとら旧文明にはそこそこ詳しくてね。勘もあったが……まぁビンゴだったわな」
「お師匠、黙っていろと言われていながらも疑問があるのですが。いいでしょうか?」
さっきまで魔王のくっそ長い話を聞いて船をこいでいたメトセラだが、今はそれなりに目が覚めつつあるらしい。反射的に言いがかりをつけにいく感じでもなさそうだと判断したのか、師匠はいいぞとばかりに頷いた。
「話を聞いていれば魔王とは名ばかりのただの引きこもり願望もちの実質引きこもりのように聞こえるのだが。
ならば何故、あの時兄弟子殿の身体で復活を遂げた時あのような……?」
「言われてみればそうだな?」
その時の話は僕は知らない。何故なら意識がなかったから。けれど、僕が魔王に乗っ取られたあの時、それを目の当たりにしているメトセラと師匠はどうにも引っかかる部分があったらしい。
「それについては、だが。封印されたというのは早い段階で気付いていた。宝珠の中でな。そしてその宝珠が既に何者かに埋め込まれているという事も。
それを無視して出てくるだけの力が回復していたなら、もしかしたらこいつの身体を中から破って出てきたかもしれんが……そこまでは回復していなかったからな。普通にこいつの身体を乗っ取ることにしたまでだ。
自衛のために力は返してもらうつもりではいたし、何ならこの身体で自由に動けるなら第二の人生始まったなと思っていたんだが……まぁこいつそこそこ慕われているようだからな。身体乗っ取ったままだと今度はいらん敵がついてくるという事実と、あとは力使いきったのとで早々に退場する事になっただけだ」
「……一歩間違ってたらこの馬鹿弟子バラバラになってそこからお前が出てきてたのかよ……」
「おい、まさかとは思うが次はそうやって出てこようとか思っていないだろうな」
思わず立ち上がったメトセラは壁に立てかけてあった大鎌を手に取る。あっ、これ返答次第で攻撃されるやつ。
「……それはしないと約束しよう。命尽きるまで延々と狙われるのも面倒極まりないからな。
……まったく、こやつはこの女のどこがいいのだか……」
「何……?」
「あぁ、案外似合いなのかもしれないな。割れ鍋に綴じ蓋で」
溜息混じりに言われたその言葉に、僕はとっさに叫んでいた。もちろんその叫びが師匠やメトセラに聞こえたわけではないけれど、アイオンはどうだろうか。脳内で僕がわめいていてうるさいだの何だの言っていたのだ。余計な事は言わなくていいから! とばかりに叫んでいた僕に対して、アイオンは僕の身体で心底うるさそうに頭を振っていた。
「あぁ、うるさくてかなわんな。あまりにもしつこくわめくようなら何もかもを暴露してやろうか」
「おい、馬鹿弟子が何か叫んでんのか?」
「そうだな。私は曲がりなりにもこいつの中にいた。全てではないものの、以前一度復活してからはうっすらとではあったが意識もあった。だからまぁ、そうだな。あの一件以来という意味でならこいつの事は何となく把握してはいる。そうでなければ、こいつが無意識下の状況での契約など結んだところでうまくいくわけがない」
「……馬鹿弟子、お前ちょっと黙った方がいいぞ。割とマジで。別にわめき続けてこいつがあれこれ暴露するのは大変面白いかもしれんし俺としては何一つ困る事もないから高みの見物するが、俺としてはそれよりはここで黙ってくれた方が後々もっと面白くなる予感がする」
えー、ちょ、師匠……何それどういう事ですか……?
わーわー叫んだところで師匠やメトセラに聞こえるわけでもなく、そうなるとアイオンが僕の何を暴露するのかという疑問はあれど、僕の叫びは何の抵抗にもなっていないというのであれば黙るしかなかった。
実際に僕の声が二人にも聞こえているなら叫んだ事で聞き取れなかった、なんて事もあるかもしれないけど、そうじゃないなら叫んでも疲れるだけだ。
今現在僕は自由自在に身体を動かす事はできないけれど、意識だけとはいえ、何か叫ぶととっても疲れるんだよね。
「だろうな。肉体を持たずというのであれば、体力を消耗する事はないがその分精神的に消耗はするわけだし。私としてはそうして消耗し続けた結果消滅するかもしれないことになっても困らないが……そうなるといらん敵が増えそうなのがな……」
僕の脳内の声に耳を傾けていたであろうアイオンの声。
えっ、この疲れてるなーってのあんまり続いたり無視して限界超えようとかしちゃうと最終的に僕消えるかもしれない可能性あるの?
「それはそうだろう。精神だけの状態で無敵などあるわけがない。そうであるなら私はもっと早くに復活を遂げている」
言われてみれば。
「あー、何か馬鹿弟子が何言ったか大体わかったから突っ込まないが。
それでなんだっけ。四天王が来るって話だったか? え、マジでこんなド田舎に来るのか?」
僕の声は師匠やメトセラには聞こえていないから、今のはアイオンがただ独り言を言っていたようにしか見えないだろうけど、師匠はそこは深く突っ込む事もなく話を戻した。
そういえばメトセラはどうしてるのかな? と意識をそちらに向けると、鎌を手にしたまま固まっている。何かを言おうとして、言葉にならないのか時々口を開けたり閉じたりして――最終的に両手で顔を覆いながらその場にしゃがみこんでしまった。
……え? 一体何が……?
師匠もアイオンもメトセラに関してはどうでもいいと思っているのか、一度だけそちらに視線を向けはしたけど何も言わなかった。
「こんなド田舎に来るのか? だと? 馬鹿め。もうとっくに来とるわ」
「マジかよ!?」
師匠の顔が盛大に引きつる。
四天王が揃うかもしれない、どころか既に揃っている。魔王の側近、とかなんかそういう風に言われれば聞こえは確かにアレだし何かこう、とんでもない事態の幕開けみたいに聞こえるんだけど……それってそんなに大変な事なのだろうか?
僕の疑問に対してアイオンは心底嫌そうに顔を歪める。
「側近とはいえ私が傍に置く事を拒絶する奴らだぞ。それが四人。一人相手にするだけでも面倒なのにそれが四人もいると考えればお前にもその面倒さの一端は想像できるだろう」
って言われてもなぁ。
「って事はだ。馬鹿弟子から聞いたあいつらがそうなんだな? まさかもしかしてとは薄々思ってたけどやっぱりあいつらなんだな?」
頭を抱えつつ言う師匠に、アイオンは残念ながら、と頷いた。
「それだけではない。残る二人も既に来ている。こいつは遭遇しているというのに気づきもしない。このままだと色々と詰むと判断したが故に、私もこうして出てきたわけだ」
「……なるほど、まさかお前と共闘するとは思いもしなかったが……手を組むしかないようだな」
「こちらとしても不本意ではあるが。しかし奴らと比べるとまだ話が通じる分マシではあるな」
師匠もアイオンもこの時点でどっと疲れ果てているけれど。
何故だかがっしと握手して、生き延びるぞ、なんて言っている。
……うん、どういう状況?




