語られた真実と新たな敵
僕の身体を乗っ取ってこうして夜中に起きて行動を開始したアイオンの目的がわからない。
夜中に、という時点で師匠の寝込みを襲って力を奪い返すとかならまだわかるんだけど、アイオンは今はまだその力を戻してほしいわけじゃないらしい。
むしろ話に聞いていた魔王と比べると、今の所は比較的平和に話が進んでいるように思えて、何だかわけがわからない。
それは師匠もメトセラも同じなのだろう。つい先程までは僕の身体を乗っ取ったという部分で即座に交戦するつもりもあっただろうけど、今は困惑しきりな状態だ。
「まぁお前は薄々気付いているとは思うが。私の部下が集まり始めた」
「って事はやっぱあいつらが……」
「そうだな。というわけで、そいつらをどうにかして倒さないといけないわけだが」
「待て。倒すのはわかる。俺からすれば、だが。けどお前が? お前の部下だぞ?」
するっと話し始めたアイオンに待ったをかけたのは、当然ながら師匠だけだ。僕とメトセラは何が何だかわかっていない。
僕の困惑を感じ取ったのだろう。アイオンは再び小さくではあったが溜息を吐いた。
「そうだな。説明はどこからすればいいものやら……まず、私は確かに魔王として世界を崩壊の一途へ導こうとしたがそれは結果論であり目的ではない。
私の真の目的は、単純にひっそりと静かに暮らしたかった。それだけだ」
「待て。だったら何であんな事になったんだ。静かに暮らしたかった!? だったらそうすればよかっただろう。そうしていたら俺だって当時捨て駒とはいえ勇者として送り出されたりしなかったぞ!?」
「私はそもそも最初から静かに暮らすつもりだったぞ。ただ、周囲がそれを許してくれなかっただけで」
そう言って語りだしたのは、魔王アイオンの半生だった。
――魔族の人生とか人間と比べると圧倒的に時間が長すぎるので、それはそれは中々に時間がかかってしまったが。
語り終えた頃には何かもう既に東の空がうっすら明るくなってきていたけれど。
話を聞いた師匠は何だかとても疲れ果てていたし、メトセラは半分ほど眠りに落ちて舟をこいでいる。
僕は現在意識だけの状態だから、眠いとかそういう感じはあまりしない。
アイオンの話は、まぁ魔王としてと言われると何だか違う話を聞かされているようではあったけれど。
何というか聞いてるうちに同情してしまっていた。
元々アイオンは生まれついての魔王とかそういうわけではなかったらしい。
けれども彼は生まれつき、それはもう才能に溢れていたそうだ。周囲が天才だとちやほやして持ち上げるのは言うまでもなく、大抵の事は教えられなくても一度見れば大体できた。
僕からすればその時点でなんて羨ましい……! と言いたくなるものではあった。
けれど、あまりにも何でもできすぎてしまった結果、周囲からの羨望、妬み、挙句に逆恨みなんてものも向けられて本人はうんざりしていた。
称賛だけならともかく、確かに嫉妬とかそういうの向けられると困るよなぁ……
しかもアイオンは魔族の中でも外見が特に整ってる部類に入ったらしく、黙っていてもそれこそ砂糖菓子に群がるアリのように向こうから勝手に近づいてくる連中が多くて、結果としてそこで争いが起こった。
アイオンの信者と化す者たち。そんな彼を敵視する者たち。
その話を聞いて師匠はわかるものがあったらしい。うっわぁ、ある意味テンプレ~などと呟いていた。
テンプレとは一体……? 師匠はたまに謎の言葉を喋るよなぁ。聞くと大体旧文明とかその頃にあったであろう言葉なんだなって気はしたけど。
勝手に嫉妬心拗らせて敵対してくる者たちをどうにかしているうちに、気付けば信者もそこそこ集まっていたけれど。
アイオンからすれば自分を巻き込んで勝手に争いを始めたも同然だ。アイオン自身は特に争いを望んだわけでもないらしいし。
最初はまだ規模も小さかったけれど、気付けばそれがどんどん広がって――もうどうしようもなくなった頃、彼は魔王と呼ばれるようになってしまった、と。
周囲が魔族ばかりだったせいもあってか、争いの規模はとんでもない事になるし気付けば国同士の争いに発展していたとかどうとか。何か戦争起きてるなーとアイオン自身も思っていたらしいけど、それがまさか自分が原因だったとは……と後々になって頭を抱えたそうだ。
僕でも頭を抱えたくなる事態だな、それは。
そうこうしているうちに本人が知らないうちに魔王扱いされるようになって、そうなると何かこっちに危険が及ぶ前にとりあえず討伐しちゃおうぜみたいな感じで他の種族とかも侵略開始。
時としてその美貌で敵対していた者が勝手に陥落し、時としてその圧倒的なまでの力で敵対していた者たちは心酔し、ますます収拾がつかなくなっていったそう。
敵まで虜にしちゃうとか、そうなればもう魔王とかいう以前の問題では? というか、まって? 僕が知る魔王アイオンの話と何か違うぞ……? と思っていたら、アイオンは疲れ果てたように吐き捨てた。
「勝手にこっちを尊敬だの崇拝だのする分にはもう勝手にしろと思っていたのだがな。よりにもよって私からの寵愛が欲しいとかのたまうようになった奴らが増えた。
何だ寵愛って。勝手にやらかしておいて更にこっちに何かをねだろうとか図々しいにも程があるだろう」
はー、と息を吐きながら、片手で顔を覆う。その様子はもう完全に休みなしで働いた人のようで。
「言葉程度ならまぁ、働きに応じてかけてやらんでもないけどな。貴方様との子が欲しいですとか言い出す女どもとか列をなしてみろ。うんざりする以外のなんだというのだ。私は種馬ではないのだぞ!?
その逆で私の尻を狙う野郎どももいたがな。そいつらはまぁ大半消し炭にしたからいいとして」
いやよくないよ。何その話題。メトセラの教育によろしくないからそれ以上喋んないでくれませんかね!?
「知っているか? 人であろうとそうでなかろうと、欲望に際限などないのだ。子が欲しい程度ならまだ可愛いと思えるような要求すら出て来たあたりで――私は恐怖政治を行う事にした。
要は変態どもを撲滅する、ただそれだけの話だったんだがな」
そこからは、なんとなく僕でも知ってる魔王アイオンの話だったような気がする。
へ、へー、あの残酷物語って実はこういう事があって起きた出来事だったんだぁ……意外なる真実! とかそういう感じで知ってしまっても、何故だろうか。嬉しくないしむしろ知りたくなかった。
というか、魔王アイオンって逆らうものは皆殺し、みたいな感じだった気がするけど、話聞いてるとその逆で信者どもを皆殺し、って感じになってるよね。でも話聞いてるとアイオンに対して好意的な相手はどんどん厄介さを増していくし、敵対してた相手もいざ対峙したら何か勝手にこっち側についてるしで、最終的に自分以外は全部敵みたいな認識になりつつあるよね、これ。
「私はあの頃もう疲れ果てていた。変態どもを相手にする毎日に疲れ果てていた。どう足掻いても敵しか生まれない現状に疲れ果てていた。傍から見れば私の元に集う臣下、という感じかもしれんが、私から見れば日に日に増える変態どもは敵でしかない。
ならばするべき事は一つ。駆逐。そう、変態どもがこれ以上増える前に根絶やしにするのだ。魔族であれ、人であれ、それ以外の種族であれ、どう足掻いても最終的に敵になるのであれば、まずは全てを絶やしてしまえばいい。結果として世界が滅ぼうがもうどうでもいい。私は、私の安寧の為に戦うと覚悟を決めたのだ」
「そっかー、お前苦労してたんだなー。って言いたいところなんだけどよ、生憎俺とか当時の仲間とかはお前に対してそういう感情一切持ってなかったぞ」
「だろうな」
半眼でうめく師匠に対してあっさりと返してきたアイオン。あまりにもあっさりしすぎて師匠の方が何言ってんだお前とばかりに顔を引きつらせている。
「強い奴と戦いたい願望持ちのやつとかは割と早い段階で私の強さにひれ伏したりするわけだが。まぁ弱者はそういう願望など当然存在しないし、どちらかというと眼前に広がる死というものに絶望する。
それが一周回ると今度は恍惚とした笑みなんか浮かべて陶酔しだすんだが。……気持ち悪いな」
「気持ちはわかるが正直馬鹿弟子の顔でそういう表情されるとイラっとするからなるべくやめてほしいんだが」
「無茶を言うな。むしろこいつのように平和ボケにボケきった顔をする方が難易度高いぞ」
「デフォルトの表情だろ。何が難しいんだよ」
「何もかもだ」
何か話の途中で当たり前のように僕を貶しにかかるのやめてほしいんだけど。
何でそういう部分で意気投合しちゃうの。
……いや、そうじゃない。そうじゃなくて。
結局何でまた魔王の部下を倒さないといけなくなるのかって部分はっきりしてないよね。
うっかり流されそうになっていた思考を戻す。
僕のその考えを読んだように、アイオンが話を戻すが、と続けた。
「お前は何も疑問に思わなかったのか? そもそも魔王と対峙できた。けれど、何故ああもすんなりいったのか……と」
「正直それは今でも疑問だぜ? 確かに当時勇者とは名ばかりの生贄を大量に送り込んだ。各地でそれらを対処しているお前の部下もそれなりにいた。だからこそ、城が手薄になっていたんだろう、と思ったりもしたがな。
それでもおかしいんだ。お前の側近とも呼べるはずの四天王の存在が全く出てこなかったってのがな」
四天王……?
魔王アイオンには多数の部下がいた、っていうのは本でも読んだけど、そんなのいたっけ……?
もしかしてさっき言ってた集まり始めた部下っていうのがそれかな?




