表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
師匠は自称一般市民  作者: 猫宮蒼
四 兄弟子の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/93

愚痴と謝罪と後悔



 メトセラの弟くんことルディと、彼と一緒に行動していたウォルターさんと出会ってから二日。

 その間僕は村に行く事もなく、森から山までのコースをとりあえず薬草採取に費やしていた。

 別にこれは彼らと出会った時に師匠に言われたお使いではない。それとは別件で言われたものだ。


 シィナさんは昔の仲間と近々会うのだと言っていた。そのうちの一人がウォルターさんだというのは彼らを村に送り届けた時に知った。他にもまだいるらしいけれど、そちらはまだ合流していないらしい。

 なんでそんな事を村に行ってもいない僕が知っているのかというと、それは単純にルディからの話である。



「……いやほんと、反省してるし後悔してるんだ。今更だろって姉さんには言われるかもしれないけど」

 ずぅぅぅん、という効果音が聞こえてきそうな程どんよりとした何かを背負ったルディとは、山の中で出会った。何でここに? と思ったけれど、何でもルディとしてはどうにかメトセラと仲直りがしたいらしい。メトセラは恐らくそれをこれっぽっちも望んでいないようだけれど。

 村に辿り着いた後、ルディは当然僕らが住んでいる場所を知るはずもなく、けれど師匠のお使いで薬草を採りにきたという話からそう遠くには住んでいないだろうし、もしかしたらその付近をうろついていれば遭遇できるのでは、と考えたらしい。

 ウォルターさんが当分村に滞在するのは事実だけど、ルディはその間暇を持て余した状態だ。

 だからこそ、彼は彼なりに森やら山やらをうろついていたのだろう。


 ちなみにメトセラは昨日ルディの姿を見つけた途端即座に帰った。気配も足音も消してあっという間にいなくなってしまったので、そこまでして会いたくないのかーとただ見ていた僕は思ったものだ。

 ちなみに僕もそっと遠ざかろうとしたのだけど、残念な事にルディに発見された。あとちょっと彼が気付くのが早ければ、メトセラと会う事になっていただろうに。



「ところで、何でまたそんな事やらかしたの? 若気の至りにしてはちょっとえげつなさすぎない?」

 好きな子にちょっかいかけるっていうのはまぁ、わからないでもない。けど、その方向性を間違えれば相手からは蛇蝎のごとく嫌われるというのもちょっと考えればわかりそうなものなのに、とも思うんだ。

「オレが昔病弱だったって話は知ってるか?」

「あぁうん、メトセラから聞いた」

「だからだよ。少しでも元気になったっていうのを示したくて」

「方法がとんでもなく悪手!」


 せいぜいどんぐり拾うくらいにとどめておけばいいものを!

 それくらいならまだ微笑ましく思われただろうに。いやまぁ、どんぐりもたまに中に虫入ってる事あるから油断できないけどさ。


「っていうか、元気だよっていうのを示したくてって割に捕獲した数尋常じゃなくない? ベッドにぎっしりってどんだけ!」

「……姉さんが攫われた後、父さんと母さんが何か手がかりがないかと姉さんの部屋に入った時にオレが敷き詰めたままだった虫とか見て絶句してた。

 父さんからはその直後にげんこつくらった」

「だろうね」


 敷き詰めたのが元気いっぱいな昆虫だったらそれこそ部屋の中を好き勝手蠢いていただろうけど、敷き詰められたままって事は既に瀕死とかそういう状態だったのだろう。

 そしてメトセラはベッドを使用しなくなったという事は、そのままの状態でそこそこ放置されていた。死んでカッサカサになった虫だとかカエルだとかがベッドの上にそれでも大量にいたら、お父さんはともかくお母さんはショックで倒れたりしなかったんだろうか……


「思えば、あの時から母さんの症状が悪化したかもしれない」

「まぁ、精神的な衝撃がとんでもないよね」


 そういや言ってたっけ、メトセラが攫われた直後くらいにお母さんが死んだって。

 ……それ、原因担ってると思うの気のせいかな?


「えーっと、聞いた話を合わせると、メトセラのお母さんが死んだ後にきみとお父さんがメトセラを捜す旅に出たんだよね? それってメトセラが攫われてからどれだけ経過してたの……?」

「あぁ、母さんの葬儀を済ませてからだから……出発したのは姉さんが攫われてから一月が経過してからだった。家に残る奴が誰もいないなら、ってんである程度売れる物は売って、旅の路銀を準備して、当時のオレはまだ頑丈じゃなかったから一日中ずっと移動するって事ができなくて、まずは近隣の村々を移動しながら情報を集めて、って感じだったな」


「メトセラがヴァレリアの所にいたのが五年って言ってたけど、お父さんは助けに行ったんだよね? その時きみはどうしてたの?」


 僕のある意味で当然な質問に、ルディはぐっ、と押し黙る。魔女ヴァレリアのもとへ乗り込んだのはメトセラのお父さんだけだというのは、別に今更言われなくても何となく察している。だから別に実は怖くて行けませんでした、とか言われてもそれはそれで僕としてはそうなんだーで済む話だ。

 もしメトセラがそれを聞いたらどう思うかまでは知らないが。


「……実の所、旅に出て三年目でオレは父さんとはぐれたんだ」

「ん?」


 えぇっと、メトセラが攫われたのが八歳の頃って言ってたっけ。で、弟くんはメトセラの二つ下。という事は彼らが旅に出て三年目というのはメトセラが十一歳、弟くんは九歳の頃か。え、父親とはぐれた?

「はぐれた、というか、まぁ、その、渓谷歩いてた時に、渡っていた橋がボロくて。あっと思った時にはオレは橋板ごと真っ逆さまに下にあった川に落ちて、流されて。それ以来父さんと会う事はなかったんだ」

 あれー? 思った以上に重たい回答。


「オレを助けてくれたのは、下流に住んでた集落の住人だった。流れ着いたオレを介抱してくれて、親切にしてもらったよ。返せるものなんて何もないのに」


 つらつらと語り始めたルディの話を何となく聞きつつも、僕の脳内では高速で色々な事が思い浮かんでは消えていった。



 多分、ではあるけれど、ルディがメトセラに謝りたいという気持ちは心の奥底からのもので、謝罪と言う名の言い訳だったりはしないだろう。実際やりすぎたというのはメトセラがいなくなってからお父さんに叱られて理解できたようだし、やり方もまずかったというのもわかっている。

 まぁ、それを許せるかどうかはメトセラの気持ち次第なのでここでそこらへんを考えても仕方がないのだが。

 けど、恐らく同じ過ちを繰り返したりはしないだろうし、謝罪して和解できれば多分メトセラとルディは姉弟としてうまくやっていけるのではないだろうか。


 ……メトセラが受け入れる気ゼロなのが当面の問題だが。

 そもそもメトセラも年齢的にはそろそろ独り立ちしたっておかしくはない年齢だ。家族と一緒に過ごさないといけないような幼い頃ならともかく、今の年齢だとそこまで家族にこだわるつもりもないのだろう、という気がする。


 う、うぅん……とりあえず謝るだけ謝った後速やかにルディが立ち去るのであれば、そこそこまるくおさまるような気がしないでもなくない……ような?



「――そうして今に至る、って感じだ」

「大変だったんだねー」


 何か考えてるうちにルディの話は一段落したらしい。かなり聞き流していたけど、一応聞こえてきた範囲からは、メトセラとは違う方向性でルディも中々に大変だったんだな、って事くらいである。


 英雄だとか勇者だとかをそれなりに出していたメトランス家の人間でもあるルディにもそれなりに武芸の才能があったらしく、身体がまだ弱かったもののお父さんと一緒に旅に出ながら少しずつ鍛えていった結果、お父さんとはぐれた時点でもそれなりに戦えるようにはなっていたらしい。とはいえ、長時間の戦闘はからっきしだったそうだが。


 助けてもらった集落では近隣に棲みついた魔物に困っていたが、とりあえず当時のルディがそれを退治。もうその時点で身体が多少弱いとはいえ、一端の剣士とか……才能って凄い。僕そのくらいの年齢の時何してたっけ……? 魔術も使えなかったし何か必死に師匠に振り回されつつ料理極めてた記憶しかないや。

 で、その時に出会ったウォルターさんがルディとはぐれた父親を見つけるまでの間、という話で一緒に行動することになったとか。

 恐らく父親もルディの事は捜したはずだが、それでも橋の上から川に落下、そして流されるという状況からあまり身体が頑丈とはいえなかったルディの事は絶望的だったに違いない。途中で諦めてメトセラの捜索に専念した可能性もある。

 真相はわからないけれど、結局ルディが父親と再会できなかったという事実だけは確かだ。


 そうして、メトセラがヴァレリアの所から逃げ出したであろう後くらいに、ルディとウォルターさんも当時ヴァレリアがいた場所に辿り着いたらしい。

 とはいえ、既にそこにはヴァレリアもいないしメトセラも逃げた後だ。

 そこに父親が使っていた武器がぼろぼろになってあった、という事で何があったかは何となく察したらしい。


 父親が見つかるまで、という話で一緒に行動していたウォルターさんは、この時にルディの保護者を買って出たらしい。なんで? とは思ったけれど、ルディの話によると一応ウォルターさんはルディの剣の師匠にあたるらしい。

 ……あの人剣とか使えるんだ。人は見かけによらないなー。

 道中立ち寄った場所で魔物に困っているようなら退治しつつ、魔女ヴァレリアを捜す旅は、しかしある時唐突に終わりを迎える。

 そう、僕たちがなんやかんやあって師匠が異端審問官に最後まるなげした感があったあの一件である。


 攫われたメトセラを捜すのであれば、攫った本人である魔女ヴァレリアを捜すのが断然手っ取り早い。

 けれどその魔女は倒されてしまった。

 けれども影武者として攫われたはずの少女たちの死体はなかったことから、メトセラはきっとまだ生きているはずだと信じてルディはなおも捜す旅に出る事にしたらしいのだが。

 まさかここで出会う事になろうとは。

 魔女とかなんも関係ない土地だもんなぁ、ここ。


 ……まぁ、出会ったら出会ったで再会シーンはアレだったわけだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ