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師匠は自称一般市民  作者: 猫宮蒼
四 兄弟子の章

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新しくできた友人とお悩み相談



 結論から言うと。

 メトセラが僕に対して何かを言い出したい感じは出してるものの、それが何なのかはわからないままだった。


 僕の勘違いならいいんだけど、もしメトセラが何か悩んでるようならって感じで話を切り出してみたけれど、メトセラは僅かに動揺してはいたものの結局何も言ってはくれなかった。

 これは自分の問題だから、と。

 う~ん、僕信用ないのかな……?

 信用っていうか頼りない自覚はあるけど。僕が駄目なら師匠にそれとなく相談に乗ってもらうようにしてもらおうかと思って師匠に話をしてみたけど、何故だかものすっごい憐みの眼差しでもって、

「あいつの問題なんだからほっとけ」

 って言うだけだし。


 というか何だか師匠はメトセラが何に対して悩んでいるのかを知っているような雰囲気だったな。

 もしかしたら既に師匠には相談した後なのかもしれない。なら余計なお世話だったかな。


 いやでも、メトセラが何かに悩んでいて、それがメトセラの問題であったとして。

 じゃあ、何で僕に対して何かものすごく言いたそうな雰囲気出してくるんだろう?



 ……もしかして。

 下剋上とかそういうやつかな!? 普段僕の事兄弟子殿兄弟子殿って慕ってくれてはいるけれど、実力的な意味で見ると正直メトセラの方が圧倒的に強いもんね!? こんな頼りない奴を兄弟子って呼ぶのいやだーとかそういうやつかな!? よわっちぃくせに兄弟子だからってだけで何か上っぽい立場振りかざすのやめてとかそういうやつかな!? 立場振りかざした覚えはこれっぽっちもないけれど!


 でもメトセラは優しいからそれを直接言い出しにくいとか……?


 試しにちょっと下手に出てメトセラの事をメトセラさんって呼んでみたら何故だかものすごく傷ついた顔をされた。さん付けがお気に召さないとかそういう以前の問題のようだ。

 いつも通りに呼んでくれて構わないと切々と訴えられたので、さん付けは早々にやめた。


 何がどうしてこうなっているのかはさっぱりわからないので、僕からするともう完全にお手上げだ。

 となればあとはもうメトセラの問題だというのだから、僕もそっと静かに見守る事にするのがいいのかもしれない。



 まぁ何か言いたげにこっちを見てくるメトセラの視線が気にならないと言えば嘘なんだけど……これ以上は僕にもどうするべきやら。



 そういうわけで微妙に気まずい思いをした僕は、最近めっきり覚えたての治癒魔術の訓練と称して村に入り浸る事が増えたのである。それは一つの逃げではないか、と僕も思わなくもないんだけど、今はこれ以上ぐいぐいいっても何の解決にもならないと思ってしまったので。とりあえず時間を置いたらどうにかならないかなっていう風に思ってしまったのもある。

 あとはメトセラはあまり村に足を運ぼうとしないから、とりあえず少し距離を置いたらメトセラも少しは気持ちの整理がつくのではないかと。


 ちなみに村に毎日のように足を運ぶ事によって僕は結果として治癒魔術を最近では詠唱無しで発動できるようになってきた。こういう明らかに上達したーってわかる感じのやつがあるとやる気も上がるよね。治癒魔術以外の魔術はさっぱり使えないんだけど! 適性がないとかそういうやつじゃないはずなのにね。何でなんだ……まぁ、初級のファイアーボールもろくに使えないとかそれはそれでどうなのって感じなんだけど、いざ覚えても練習する場所とか機会が限られてるからなぁ。治癒魔術に関しては怪我人さえいればいくらでも、って感じなんだけど。


 基本的に畑仕事とかで小さな怪我をする人とかこの村にそこそこいるし、何なら走り回って遊ぶ子供たちも膝とか擦りむいたりしてるしで、言い方悪いけど実験台には事欠かない。

 詠唱無しで発動できるようになってきたのに、中級クラスの治癒魔術もまだ覚えられないっていうのもどうなのって感じなんだけどね!


 何だろうね、この、ちょっと褒めるべき点があってもそれ以外に圧倒的に問題点があるだろって感じ。才能がないの一言で切り捨ててしまえば楽かなと思わなくもないんだけど、生憎師匠の言葉が事実なら僕の生まれで魔術の才能がないとかそれこそ嘘でしょって話になるし……



 今日も今日とて村を一通り回って小さな怪我をしている人たちの傷を治して、あまり人の来ない丘の上で休憩しているものの、一人になると余計な事ばかり考えてしまって気が沈む。

 うぅむ……これはもうさっさと帰ってご飯の支度でもしろって事かな……でも仕込みは大体終わらせてあるからなぁ……家に戻っても後は焼くだけとかそんなんなんだよね。あまり早く戻っても今度はメトセラの視線が気になるし……


 はぁ、と無意識に溜息が零れ落ちていた事に気付いたのは、


「やぁ少年。溜息吐くと幸せ逃げるよ?」


 そう、シィナさんに言われてからだった。



 ――シィナさんはこの村で知り合った数少ない僕の友人の一人、と言っていいと思う。

 ちょっと前まで冒険者やってて、今は少しだけ休憩するのにこの村に滞在しているのだとか。

 ……まぁ、冒険者として仕事をもらうとなるとギルドとかなんだけど、そういうのなくてもこういうちょっと辺鄙な場所は近隣に魔物が出たとかそういうので急遽依頼とか直接あったりするみたいだから、完全にお休みできるかっていうと微妙なところらしいんだけど。


 一応村に宿屋がないわけではない。あまり人が来るわけじゃなくても、誰も来ないわけじゃないみたいだし。シィナさんは、時折村の周辺に出る魔物を退治する事で宿屋とか割引してもらって少し長めの滞在をしているようだ。

 ……普通に泊まると確かにかなりお金かかりそうだもんなぁ……そういう交渉って大事だよね。


 シィナさんは、黒髪紅目の色合いならばカインと同じような感じだけど、カインと比べるのは申し訳ないくらいに美人だった。

 いや、カインも黙ってれば多分女性からきゃあきゃあ言われそうな顔してるけど。


 冒険者なんてやってると野宿生活がメインになってそうだし正直女性にはきついんじゃないかなと思わなくもないんだけど、シィナさんはそういう部分もきっちり気を使っているのか髪の毛とかサラサラだし身に着けている装備品なんかもそれなりにこだわっているのだろう。パッと見ただけなら冒険者というよりは都会に暮らしてるお姉さんといった感じである。

 とはいえ、腰には剣を下げているし、手にはいくつか豆もできているので見た目だけで判断してはいけないんだろうけど。

 そもそも一人でそれなりに活動できてる時点である程度の実力があるのは確かなんだろう。


 村の人ともうまくやってるらしく、村に来ると時々遠くの方で楽し気に話をしている姿を見かけたりもした。年は……女性に聞くのは失礼な事だと知っているので直接聞いた事はないけれど、見た目から二十歳半ば……といったところだろうか?


 シィナさんは僕が座っている場所からちょっとだけ間をあけて横に座る。


「最近よく来るね。少年のおかげで薬草の消費が減ったって薬屋のおじさんが言ってたよ」

「もしかして仕事奪ってました?」

「うぅん、最近薬の調合しても量が多くできなくて備蓄もできてないって話だから、助かってるって。ああいうのって減る時はあっという間だからね」


 そう言われてほっと息を吐く。いや、魔術の練習はいいんだけど、そのせいで薬屋の仕事奪って商売あがったりでお店閉店しようと思います、なんて事になったら後々大変な事になるし。いつまた師匠が引っ越すかなんて僕にはわかるはずもないからな。ある日いきなりここから別の土地へ、なんて事になったとして。その時に薬屋さんが閉店なんてことになってたら、この村万が一の事態になった時とんでもない事になりそうだし。

 しかし……うぅん、僕としたことが自分の事で一杯一杯な感じでそこら辺の配慮が欠けてたな。この村に関してはもう仕方ないけど、次どこか別の場所へ引っ越したりした時はそこらへんもうちょっと考えて動かないといけないな。


「近いうちに薬屋のおじさんに挨拶してこないといけませんね。備蓄が足りないっていうなら今はいいけど、そこらへんどうにかなったあたりで僕もここで治癒魔術の練習する回数減らさないと」

「そこまで気にする事ないと思うんだけどなぁ。変な所で君は真面目だね」

「真面目、かどうかはさておき下手にご近所さんとの関係悪くしたくないですから」

「ご近所」


 やや吊り上がっている、パッと見だとちょっときつく見えないこともない大きな目をぱちくりと瞬かせて、シィナさんはそういえば、とどこか言葉を選ぶように口を開いた。


「少年この村の人じゃないんでしょ。それは前にも聞いたけど……この辺他に町や村があるわけでもないし、集落なんてものないし……君一体どこから来てるの?」


「あぁ、えーと、集落とか村とかじゃないですけど、この近くの森に。師匠があまり人の多いところ好きじゃないから、基本は人里から少し離れた所に住んでるんです」

「へー、この近くの森……森!? 全ッ然近くないじゃん!」


 丘の上でシィナさんがぐるりと視線を巡らせたが、残念ながらここから僕たちが暮らしている森は見えない。片道三時間を近所と言っていいかは正直近所って言えないよなぁと僕も思ってるんだけど、最近は慣れてきたせいか片道三時間が片道二時間半くらいになりつつある。


「え、えー、少年思ったより健脚だね。多分あの森なんだろうなってのはあたしでも何となくわかったけど、そこから毎日のようにここに!? 少年のお師匠人が多いところ苦手って言ってももっとこう、この村の外れの方とかにしとけばいいのに。この丘のあたりとかでも人そんな来ないし」

「はは……」


 シィナさんの言う事はもっともだった。というか、シィナさんじゃなくても多分この村の人でもそう言う気がする。余所者を受け入れるかどうかは別として。


「師匠の知り合いにちょっとぶっ飛んだ人もいるから、人里の近くだと迷惑かけたりするかもしれないんですよね。それもあって少し離れた所じゃないと色々と……はい」

 そういう説明のしようしかない状態で、困ったように笑う僕を見てシィナさんは何を思ったのか。

 何故か気の毒な眼差しでもって、「あぁ、そうかぁ」としみじみ頷かれた。


 どういう解釈の仕方をしたのか気になるけれど、あまり深く突っ込む真似をしていいものか悩む。

 シィナさんも冒険者やってたくらいだし、何かそういう荒事とか多少は慣れてるはずだろうとは思うんだけど、そのせいで僕の予想を上回る何かを想像されてたとしても、生憎訂正しようがないからね。師匠の知り合いの魔族が遊びに来るから、とか流石に言えないし。


「もしかしてその知り合いとか来るから少年こっちに避難してる?」

「え? いえ、そういうわけじゃないんです。ただちょっと……妹弟子になるのかな。その人とちょっと」

「おっと? なんだかとても気になる予感。良かったらあたしに話してみない?」


 何故か目をきらきらさせているシィナさんに。

 多分シィナさんが思ってるような事はないと思うんだけどなー、と思いつつも正直第三者の意見は欲しい。

 だからこそ、僕はぽつぽつとではあるが言葉を紡いでいた。

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