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師匠は自称一般市民  作者: 猫宮蒼
四 兄弟子の章

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答えのわからない事柄と無駄な推論



 ここ最近メトセラの様子がちょっとおかしい。

 そう思いはしたものの、本人に聞いても何でもないですとしか言わないし、師匠に聞いてみてもなんとも言えない生ぬるい表情で「あー……まぁ、本人にも色々あるんだろ」としか言われないしで、結局何なのかはわからないままだ。

 でも別に体調が悪いとかではないみたいだし、そもそもそれならとっくに言っているだろう。


 じゃあなんだ? と考えてメトセラの様子から言い出しにくい内容なんだろうなと思ったものの、師匠も何も言わないって事はそこまで深刻な状況でもないんだろうという考えに辿り着くも、それが何なのかまではわからないままだ。

 ……なんだろ、僕の鼻毛が出てるとか?

 いやでも朝顔洗った時に鏡見たけどそんな事はなかったはずだし……寝ぐせ? いやそれならさらっと言ってるよね。勿体ぶって言い出せないみたいな雰囲気出す程のものでもないよね。


 何だろうなぁ、と気になりはするものの、あまりぐいぐいいくのはどうかと思うし……本当に言わなきゃいけない時になったらメトセラも言うだろうと思って僕はそれ以上問い詰めるような事はしなかった。


 ご飯をねだりにやって来たレオンにも聞いてみたけど、レオンは僕の顔をじっと見て、

「別段お弟子さんに何かあるって感じじゃなさそうですよー? 産毛が一本だけやたら伸びてるってわけでもないみたいですしー?」

 なんて言っていたので、僕の顔がどうとかいう話ではなさそうだ。

 じゃあなんだろう?

 僕に何かを言いたいけど言い出しにくい……う~ん、ご飯のメニューについて?

 いやそれだって別に材料があれば作るけど。この世に存在するかどうかも疑わしいメニューを作れとか言われたら無茶振りに対して僕だって断るけど、師匠ならともかくメトセラだ。流石にそんな無理難題吹っ掛けてきたりはしないだろう。


 ……もしかしてあれかな。おやつとかもうちょっとメニュー増やした方がいいのかな……?

 師匠と暮らして僕が師匠の身の回りの世話をしているのは今更だけど、ご飯とかは師匠がアレ食べたいこれ食べたいって色々言ってきた事もあってそれなりにレパートリーはあると思うんだけど、デザートとかそういうのに関しては少ないかもしれない。


 師匠は甘い物を出されたら食べるけど率先して食べたいって言いだす程甘いものが好きってわけでもないみたいだし、僕もお腹が空いたら基本はご飯メインだ。おやつとかは……正直ご飯支度するので一杯一杯でそっちにまで手を伸ばす余裕がなかったというべきか。

 でもメトセラだって年頃のお嬢さんなんだし、以前王都で見かけたカフェとかで出てるような可愛らしいメニューを食べたいと思っているのかもしれない。

 王都の近所に住んでた時にメトセラを誘って王都の中を見て回ろうと思ったけど、人の多い所はあまり、って感じでメトセラ乗り気じゃなかったからなぁ。無理に誘うのも何か悪いし。


 メトセラは人に絡まれるから、とも言ってたけどそれ間違いなくナンパとかそういうやつだよね。服装はさておきメトセラ美人だもん。黒のタキシード以外にも色々着てみればいいのにな、と思わなくもないんだけど服って案外お金かかるんだよね……僕とか師匠が着てる服なんかは師匠がどこかで安く売ってるのだったりだとか、布そのものを持ってきて僕が作ったりだとかで割と安く済んでるけど、王都で見かけた服屋さんでメトセラが似合いそうな服とかってそりゃもうとんでもない値段だったし。


 ……お洒落ってお金がかかるものだとは前に師匠が持ってた本で見て知ってはいたけど、いざ実際にお目にかかるとびっくりするなんてものじゃない。王都だから物価が高いのかなと思ったけど、どこか別の所で布を購入していざメトセラの服を作ろうにも王都で売ってた服の値段に近い金額かかりそうな気がするんだよな……



 でも多分メトセラはああいう服着たら似合うだろうけど、着るつもりがあるかは微妙なところだ。

 というか、そもそも着てみたいけど買うお金がないとかならまず僕ではなく師匠に言うだろうし。生活費を使うのは僕だけど、基本財布握ってるの師匠だからね。

 ……まぁ、だからこそ師匠がある日忽然といなくなられると僕とメトセラ一文無しになって大変な目に遭うんだけど。でもまぁ、そんな体験も思い返せば魔女ヴァレリアと出会うちょっと前の出来事が最後の記憶だ。

 師匠もそうそうあっさりと行方を何度もくらませたりしないだろう。

 今まではともかく、今は僕の中に魔王アイオンがいるって僕も自覚してる状態だ。そんな僕を野放しにしておくはずがない。


 んー、じゃあやっぱりメトセラが僕に言い出しそうなのって服じゃないならご飯かなぁ?

 現状すぐ用意できそうなのってふわっふわのパンケーキにクリーム添えて果物たっぷり、くらいが限界なんだけど……実際僕が食べた事のない料理に関して見た目だけ真似しても本当にその料理の味になってるかわからない物に関しては出すの躊躇うよね。

 師匠に頼んでレシピ本とかそういうの入手してもらえればどうにかなるとは思うんだけど……ただ、師匠は自分が食べたい物に関してはそういう資料を手渡してくるのも仕事がすっごい早いけど、メトセラの事となると……どうだろうか? 僕よりはメトセラに対してあれこれ気遣いしてる部分はあると思うけど、レシピ本の手配とかまではしてくれるかなー?


 それならまだレオンに頼んだ方がいいような気がする。

 レオンも食べられるメニューが増えるというなら反対するはずもないし。ただレオンは見た目からして人間じゃないのが背中の羽のせいで一目瞭然。彼が人里でそういった本を入手してくるのは恐らく不可能なので、そうなると他の誰かも巻き込むしかない。

 以前創ってたドールとやらがいればそっちにお使いを任せたんだろうけど……今レオン創ってないみたいなんだよね。まず材料が足りないとかで。


 ……まぁ、うん。拠点は以前師匠が崩壊させたし、その後の研究所も崩壊したし、そういう意味ではレオンも住居を安定させるので精一杯なのかな……?


 ウィンディあたりに頼めばいいだろうか。彼女なら人里に行っても魔女だと気づかれる事もないだろうし、こういった頼み事をするのにそこまで気負う必要もない。問題はカノンが事を大きくしそうっていう部分だけど。



 メトセラが本当にデザート関連で僕に言い出したいけど言い出せない、っていうのならともかく、本当にそうと決まったわけじゃないうちから話を大きくしたくないんだよね。

 となるとあとは――



 …………カインはともかくとして、クライヴはどうだろう?

 使用人とかいたらしいし、もしかしたらそういう料理のレシピとかあるかもしれない。ダメ元で聞いてみる価値はあるだろう。





「――レシピ、ねぇ? 生憎と今は手元にないかな。置いてある屋敷に行けばいいだけなんだろうけど……そっちに移送方陣敷いてないから少し時間がかかるかな」

「そうですか……ちなみに、取り寄せるとなるとどれくらいの時間が?」

「ふむ、そうだね……最短で……二年かな」

「あっ、はい、いいですありがとうございました」


 カインに連れられてやってきたクライヴとたまたま山の中で遭遇したので話を振ってみたものの、流石にちょっと……としか言いようのない返答をされて僕は即その話題を打ち切った。

 二年って……それ多分どっか別の大陸とか行って更に、って感じだよね。片道で二年とかじゃないよね? それなら流石にちょっと大きな街に行って本屋で購入した方が確実だ。


 というか、流石に二年もメトセラが何かを言い出したいけど言い出せない、なんて雰囲気持続してはいないだろうし、その頃には多分解決してる気がする。実際にそれがデザート関連の話ならその時にレシピ本購入しに行けばいいだけだし、そうじゃないならきっと物事が解決した後でレシピ本渡されても困るよね。

 全部終わった後なら笑い話になるかもしれないけど、タイミング次第ではとんでもなく居た堪れない空気が流れるやつだよね。



「ぐだぐだ悩んでないで直接聞けばいいだろ」

「愚弟、君は本当に馬鹿だね。本人に聞いてもなんでもないと言われているんだ。その状態でそれ以上深く聞いても答えは得られないに決まっているだろう」

「はー、女ってめんどくせぇ」

「カインも大概めんどくさいタイプだと思いますよ」


「お前も言うようになったよなぁ……」


 解せぬ、と言わんばかりの表情をしていたカインだけど、僕からしたらカインもクライヴも師匠も大体面倒くさい部類に入ってるんだよね。まぁ、多分そこらへん本人は理解してるだろうけど。


 うーん、しかしそうなると知り合いに頼るというのはある意味で全滅かぁ……

 村の知り合いとか王都でできた友人に手紙書いてみるとかまだとれる手段はあるけど……やっぱりまずはメトセラから話を聞き出すの先にした方がいいかもしれない。


 聞き出せるかは別として。

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