慣れた引っ越しと弟子の成長
考えた結果。またもや引っ越すことにした。
正直引っ越すだけでも面倒なんだがまぁそこは仕方がない。
割かし平和に過ごしてたんだけど、いかんせん王都の近くはちょっと騒々しすぎた。治安はそこまで悪くないものの、朝から夜まで結構騒がしい。朝はさておき夜とかまー、音が響く響く。酒呑んでご機嫌なブラザーどもの楽しげな声とかたまに喧嘩になってる声とか。酒場の近くにいるわけじゃないけど聞こえてくるってどんだけだよ。
って思ってたらな?
俺達が住む事にした割と近くに何気に住んでる奴らがいたらしくてだな。騒音はそいつらだった。
くそっ、原住民の存在をそこまでチェックしてなかったぜ……! これに関しては俺の落ち度だ。
一応一か月程は様子を見ていたんだが、どうにもあいつらの生活リズムがもう完全に定まってるらしくてこっちは夜のうるささに我慢をしなければならない、と考えるとまず俺が真っ先に諦めた。
馬鹿弟子は最初のうちは寝不足らしき様子を見せていたものの、そもそも修行だなんだと体力を毎日限界まで消耗していたせいもあってか、それとも単なる順応性か、早々に夜であってもぐっすり眠れるようになっていたし、メトセラも同じように数日は眠りにつけない様子ではあったが、何か寝る前に馬鹿弟子がホットミルクだの紅茶だの淹れてそれ飲むようになってからはビックリするくらいぐっすり眠れるようになったらしい。
……なぁそれおかしな薬盛られてないか? え? ない? ないならそれはいいんだが。
まぁそんな感じで不審に思った俺だが、一応馬鹿弟子が淹れた紅茶とやらを俺も飲んだが別におかしな薬は盛られていなかった。何というかこの近所で採れた安眠効果のあるハーブをブレンドした紅茶らしい。
まぁそれで眠れるようになったとはいえ。毎回それで朝までぐっすりかってーとそういうわけでもない。
ふとした瞬間目が覚めると賑やか。イラっと来て殲滅する程ではないけれど、まぁうるさいと思う事もある。
一応向こうの方が先に住んでるわけだし、下手にここで争って暴れるのは得策じゃないからとしばらくは我慢してたんだが俺がこの生活に真っ先に我慢の限界がきた。
あいつら皆殺しに……いやいやそんな事したら王都近いし異端審問官とか飛んでくるだろ。ってなったので、お互いの平穏のために引っ越すことにしたのだ。
わお、もしかしたら引っ越し最速記録じゃなかろうか。
一応レオンやらウィンディやらカインあたりにも引っ越す事は告げたんだ。
何も言わないで引っ越すとそれはそれで後々面倒な事になりそうだし。
そしたら何故かあいつらも引っ越しした。お前らはわざわざ引っ越す必要なくないか? と思ったのだが、何かうちに来る時に遠いと面倒だとか言われてだな……いやお前らそもそもそんな頻繁にうちに来た事ないだろ。精々ヴァレリアが絡んでた時限定だろ。それ以前はそもそもそんなに接触しなかっただろ。
と思ったものの、こっちが言えば言うだけあいつらは嫌がらせか何かでぐいぐい来るのが目に見えているのであえて黙っておいた。
生憎俺は割と空気が読める男だ。馬鹿弟子と違ってな……!
そういうわけで。
新たな引っ越し先は、王都からそこそこ離れているものの、未開の地というわけでもなく異端審問官が既に探索を終えているであろう地であった。
一応人里の近くっちゃ近くなんだが……果たして片道徒歩三時間を近所と呼んでいいかは微妙だな。少なくとも前世と同じノリで買い物に行く距離じゃないのだけは確かだ。コンビニなら片道五分くらいとかだったけど、流石に片道三時間はなぁ……交通機関もろくにないんじゃ気軽に立ち寄る事もできやしない。
移送方陣敷けばいいだけなんだろうけど、あの村に移送方陣の使い方を知ってる奴がいた場合、こっちにやってくるかもしれないと考えるとそれも面倒な事になりそうだ。
馬鹿弟子の体力向上のため、移送方陣は無しで買出しに行く時は徒歩で頑張ってもらう事にしよう。
引っ越す、と言った時馬鹿弟子もメトセラもまたかよ、と思ったであろう事は顔に出ていたものの、文句は出てこなかった。
「そうですかぁ……折角友達が増えたと思ったんですが、お別れの挨拶だけはしておきますね」
少し寂しげに馬鹿弟子がそんな事を言っていたが……え、お前この一月で王都に友人と呼べる相手ができていた……だと……!?
メトセラは王都に行くと何か面倒な連中に絡まれるから、という事で足を運ぶ事は一月の間で精々三回程だったが、その分馬鹿弟子が王都に足を運ぶ回数が増えていたからそりゃまぁ、誰かと知り合う機会もその分増えたんだろうけど。
普段あまり誰かと関わる事ないからか気付かないけど、馬鹿弟子は何気に知り合い作るの得意なのかもしれないな。
何だかんだレオンやカインと打ち解けるのも早かった気がするし。
……あいつが一人で自衛出来る程度に実力を身に着けたら、ちょっと適当な所に放流してみるのも有りかもしれない。まぁ、それがいつになるかっていうと全く先の見通しが立たないわけだが。多分メトセラがあいつのボディガードとして一人前になる方が早いと思う。
まぁ、そんなわけで俺たちは新たな住処でもってひっそりと生活を開始したわけだ。
ご近所さんに相変わらずの面々を添えて。
魔王城に居た時と同じノリで馬鹿弟子の修行はできなくなったとはいえ、俺達が居を構えた森の奥には山々も連なっていたし、何なら洞窟もあった。滝もあったから滝行もできる。俺はやらんが。
そこまで強くない魔物も少しだが棲息しているので、馬鹿弟子を鍛えるには中々にいい環境だと言えるのではないだろうか。
王都の近くに引っ越す前に最初からここを選んでいれば、と思いはしたが、残念なことにここを選ぶことになったのは王都で情報収集をした結果だ。じゃなきゃここを選ぶことにもならなかっただろう。
そう、つまり王都での失敗した引っ越しは、ここに来るためのフラグだったと言える……!
ちなみに、洞窟の奥には一体何が……? と思ってちょっと探索してみたけれど、別段盗賊が根城にしているとかそういう事もなく。
恐らくかつては何らかの鉱石が採取できたんだろうな、というのが窺えるが今はもうそこまでの旨みもないらしく、この近くの村の人間も立ち寄る事がない、ちょっとした魔物の棲家になっているだけだった。
人里を襲う程のガッツがあるわけでもない魔物の棲家だ。多分村の人間はここが魔物の棲家になっている事すら気付いていないだろう。
馬鹿弟子の、というよりはメトセラの修行には使えるかもしれないな……? なんて思っていたものの、その洞窟はウィンディが目をつけたらしく洞窟の奥に移送方陣を敷いていた。成程、俺達が住む場所から割と離れていたウィンディは、つまりこれからこの洞窟を経由してちょくちょく訪れる事ができるようになったというわけか。
……カノンが入り浸りそうなフラグが立っただけじゃねーか?
ついでにこの洞窟の別の場所にレオンも移送方陣を敷いたため、レオンも頻繁に我が家に来る事が可能になった事が確定した。
まさかカインやクライヴも……と思ったが、この森の別の場所にかつてカインが使っていた家があるらしく、こいつらは最初からご近所さんだった。ちなみに洞窟の近くにあるらしい。
何の変哲もない洞窟が何気に重要な拠点みたいになってるのは気のせいだろうか。
ともあれ、俺の予想通り移送方陣が敷かれてからはカノンは毎日のように家にやってきては馬鹿弟子に関わっていたし、レオンもまた毎日のようにやって来ては飯を集る始末。
正直これをいつもの日常とは認めたくないと思っていたのだが。
それでも何だかんだと時間は過ぎて、馬鹿弟子が初級も初級の治癒魔術を使えるようになった頃には、既にあいつが十七になろうとしている所だった。
十七年かけてやっと一つの魔術が使えるようになるとか、次の魔術を覚えるのは何年先なんだろうな。




