新居とちょっとした後悔
木を隠すには森の中、とはよく言ったものだと思う。
そう、ちょっと落ち着いて考えてみれば、新しい住居は案外どうにでもなるものだったのだ。なんで俺はこんな単純な事に気付かなかったのか……!
多分疲れてたんだろうな。きっと。色々と忙しすぎてちょっとした細かな部分にまで考えが至らなかった、ただそれだけの事だったんだ。
今まで住んでいた場所は、基本的に人が住んでいるそこまで大きくはない町や村の近くを選んでいた。単純に町や村の中に入り込むとなると、ご近所づきあいとかが面倒だからな……いや、付き合う分には問題ないんだ。普通に暮らすだけだし。ただ、そうなるとレオンとか絶対来れないからな……別に放置でもいいんだが、放置したらしたで面倒な事になりそうだし……それなら最初から俺達が人里から少し離れた場所で暮らした方が手っ取り早い。レオンのように見た目からして明らかに人間じゃないとわかる羽とかがないカインやクライヴなら問題ないかと思うんだが、あいつらもあれはあれで目立つ外見してるからな。
俺以外のイケメンは須らく滅べばいいと思うんだが、流石にそういうわけにもいかないか。
まぁともかく、俺達は今まで人里から少し離れた所に住んでいた。完全に離れると食料とか日用品とか買い物に行くのが大変だからな。買い物に行くのは俺じゃなくて馬鹿弟子だけど。
自給自足で生きていければ人里から離れてようが辺境だろうが気にしないのだが、一所に定住するわけにもいかないので自給自足は諦めるしかない。
ヴァレリアはもういないが、他にも俺を狙ってやって来るかもしれない奴がいないとも限らんからな。俺は割と大人しく控えめに過ごしているはずなんだが、それでも俺を狙ってくるやつはいる。大抵は倒すけど、倒した奴が全員でもうこの先襲ってくる奴がいないかというと……残念な事にそうでもない。
今の今まで正直何の接触もないからと思って油断した頃を狙ってやってくる奴も過去にいた。ついでに多分まだその手の輩は存在しているはずだ。絶対俺を狙ってないって断言できないのが悲しいところよ。
そういうわけなんで、正直あまり人里の中に入り込むのも俺としては避けたいところなのだ。ある程度の距離感を保って過ごすにも、まず馬鹿弟子はきっとご近所づきあいとかやらかしてそこそこ円満な関係を築きそうだし、そういう相手が万が一敵に回ったりすると面倒だし、人質にとられるような事になっても面倒だ。
敵にも回らず人質にもならなかったとして、俺を狙ってやってきた奴が人里の中で暴れまわった場合、まず間違いなく原因となった俺たちはその後そこから追放されるのが目に見えている。
俺前世でそういう展開腐る程見た。知ってる。
俺もそこまで酷い人間じゃないんで、流石にほら、巻き込まない程度に気を遣うくらいはするわけだ。というか、うっかり巻き込んだらその後異端審問官とかそっちに情報流れるんじゃないかっていうのも懸念してるってのもあるけど。
とにもかくにも、俺は俺なりに周囲への気遣いと自己保身を兼ねて少しばかり距離を置いていたわけだ。
しかし今回、ヴァレリア討伐を異端審問官がいくら俺の仕業とはいえ成してしまったついでに、同じく異端審問官が倒すべき相手と睨んでいる奴らが潜んでいる可能性がありそうな場所を大々的に捜索。そのせいで俺たちも一時的に魔王城なんぞに避難する結果となったわけだが。……何か冷静に考えると自業自得感凄いな。
とにかく。
住む場所に困っていた俺達だったが、その事は案外あっさりと解決した。
異端審問官が探し回るような場所に今まで住んでいたせいで、今回もそのつもりでいたのが駄目だったんだ。逆に言えば異端審問官が別段探す必要もないと思っていて尚且つ人の来ないような場所を選べば良かっただけなんだよな。本当、なんでそんな事に気付かなかったんだろうか。
そういうわけで、俺が選んだ新たな住処は異端審問官の本拠地がある王都の近くにある森だった。
辺境とかは探索もされるだろうけれど、異端審問官の本拠地があるお膝元とも呼べるような場所ならば、今更そんな所を探るような事もしないだろう。普通なら拠点置いた時点で周辺の安全確認くらいはしてるだろうしな。
ちなみにこの森、結構広い。入口付近は時折薬草を採りに来る奴もいるようだが、奥の方まではあまり人が来ないので俺達はそこに居を構える事にした。
居を構えるったって簡単な小屋を作るだけなんだが、材料は周囲に一杯あるしそうなればあとは魔術でどうにでもできる。
レオンはその森の近くにある山奥で、かつて誰かが住んでいたであろう廃墟を見つけたらしくそっちに住む事にしたらしい。まぁ、そこも多分異端審問官が既に調査くらいしてるだろう。廃墟がそのままなのはきっと山奥だからこそそこをどうにかした所で意味がないと判断されたと思いたい。
そもそも異端審問官の仕事は人に害となる異種族の討伐だ。普通に人間の暮らす場所で円満にやってる異種族まで倒すというわけでもない。本当に害がないかくらいの調査は入るだろうけど、害にはならないと判断されたなら基本は放置だ。しかしその後人に害を与えたりした場合は討伐対象になるわけだが。
どのみち、一応廃墟に何者かが棲みついているかどうかの調査くらいはしただろうし、その上で放置されているという事はそこには誰も住んでいないか、住んでいたとしても比較的無害な存在であるかだ。
もしそこに倒すべき相手がいたならば早々に討伐されているだろうし、その場合その時の戦いの影響で建物が崩壊している事も有り得る。建物が無事であったとしても、次なる脅威が棲みつく事のないよう取り壊す事だってしているはずだ。
……まぁ、もし何かあったらレオンの事だ。自力でどうにかできないと判断したら駆け込んでくるだろう。
ウィンディも異端審問官に目をつけられなさそうな場所を見つけたらしく、カノンを伴ってそっちに行ったし。……カノンが馬鹿弟子から離れる時に少々やかましかったが、なんていうか全員落ち着くところに落ち着いたと言えるんじゃなかろうか。
カインとクライヴは知らん。あいつらはあいつらでいくつかの隠れ家を所有してるらしいので、どうにかしてるだろう。……正直なんであいつら魔王城に一緒についてきたんだろうか。単なる好奇心か?
「王都の近くとか……師匠、また随分と思い切った選択をしましたね」
森の奥からでもしっかりと見える王城を見上げる馬鹿弟子の表情は、お世辞にも賢そうとは言い難い。
「おい、馬鹿面晒して突っ立ってないでさっさと中入って荷物片づけるぞ」
放っておいたらいつまでも城を見上げていそうだったんで、それだけを言って俺は一足先に小屋に入る。
うむ、作り慣れただけあって以前住んでいた小屋と比べて何一つ遜色がない。新しい小屋だというのに既に実家に帰って来たくらいの安定感すらある。
そう思ったのは俺だけではないようで、馬鹿弟子もメトセラもすっかり慣れた様子でそれぞれ自らの部屋に荷物を運びこんだ。
俺も馬鹿弟子もメトセラも、元々自分の荷物というのはあまりない。増やしたところでいつかは処分しないといけないと思っているのか、単に増やすのが面倒なだけかはわからんが、もっと言うならそこまであれこれ増やすだけの金がない、という事もあるか。
いや一応生きていく上で必要な分くらいはあるんだがな。けど人生どこで何があるかわからんので、節約できる時は徹底的に節約していく方針だ。
それでなくとも俺の場合、普通の人間の寿命分を考慮して貯蓄しても全く意味がないからな……!
けどまぁ、俺はさておき馬鹿弟子もメトセラも多少自由になる金があってもいいだろう、とは思っている。
王都なら探せば日雇いとか短期のバイトもあるだろう。もっともそういうのは大概足下見られてる部分もあるから賃金も安かったりするが。
けど今までに比べればそれなりに安全に金を稼げると思えば、まぁ……うん。今まではほら、襲ってきた盗賊返り討ちにして金品巻き上げたりだとか若干命の危険があったりするような事もしたからな。
そう思って一応王都に行ってバイトするならしてもいいぞ、とは言ったんだが。
人の多い所はちょっと、と言葉を濁したのはメトセラで、馬鹿弟子は一度王都に足を踏み入れて様子を見て来たものの、人の多さにあっさりとダウンした。
……軟弱すぎやしないか?
「目がちかちかします」
あー、まーそうだろうなー。今までの町や村と比べると王都だもんそりゃそうだろうなー。
結果として。
馬鹿弟子もメトセラも今までとあまり変わらないいつも通りの生活をしている。
正直物価も少し高いし、王都の近くで暮らす利点って……異端審問官がそこまでこちらに目を向けてこないってだけじゃないかなと思い始めて来たぞ。




